渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う

温故知新

2017年04月04日 | 文学・歴史・文化



これは私の師の差料のうちの一つ、康宏の柄である。

以前から気づいていたことがある。
本物の時代拵で現存しているものは、圧倒的に諸撮巻(もろつまみまき)
が多いのである。
現代において主流となっている諸捻巻(もろひねりまき)は、残存する
時代拵にはほとんど見られないのだ。
これの理由を私は知らない。
事実としては、圧倒的に多く見られるのが諸撮巻なのである。
もしかすると、大多数の武士のスタンダードは諸撮巻であり、武士が
いなくなった現代において主流となっている諸捻巻は、武士の時代には
イレギュラーな巻き方だったのかも知れない。

撞球の世界には、ある意味、それと似たような現象が見られる。
ビリヤードで使用されるキューはハーマン・ランボウという人物に
よって二分割のジョイントが考案された。
それによりキューを持ち運びできるようになったのだが、この革命的な
発明により、どうしても多少損なわれる事柄があった。
それは、玉を撞いた時の一本物だった頃のキューの芯の通った一体感
が二分割キューではどうしてもややオミットされることだった。
そこで、キュー職人たちは各自様々な連結方法のジョイント部の構造
を考え出した。
その中で、一つのスタンダードとなったのが、ロシア移民の米国人
ジョージ(グレゴリオ)・バラブシュカが完成させた「パイロッテッド・
ジョイント」だった。
これは、メスネジの外側先端に芯部を露出させ、オス側ジョイント部の
内側と密着させることによって、ネジに頼るだけでない一体感を得ようと
するものだった。この方式は、その後のキューに大きな影響を与え、
ビリヤードにおけるプール・キューの標準仕様のようになった。

パイロッテッド(左)とフラット方式(右)


70年経った今も、メーカーでは実に多彩なジョイント方式の研究と製品化
が行われている。
日本のアダムなども、積極的に新規考案のジョイント方式を一時期
立て続けに出した。メッヅもそうである。
一方、本場アメリカのメーカーは、ファクトリーメイドも個人カスタム
メイドも、どちらかというと伝統的な方式の結合方法を墨守していた。
日本の工場量産メーカーのみが矢継ぎ早に新案ジョイント方式を発表
している。
本家本場では、新奇性はあまり追求されていない。日本だけがこれでもか
というくらい多様な新方式を打ち出している。

だが、ここ15年ほどで、その傾向を制御せざるを得ない状況が発生
している。
日本のメーカーの自社独自の新方式ジョイントは、「キューが一本物
だった頃の一体感の再現」を謳いながらも、内実として目指すところは
「製品差別化による自社製品への顧客層の取り込み」という産業経済
主義に立脚していることは明白であった。
でなければ、あれほど幾つものジョイント方式を続けて発表する筈が
ない。完全に工業製品としての販売戦略の一環としてジョイント方式の
新規考案が押し進められてきた。

しかし、それの流れにストップをかけたのは、皮肉にもハイテクシャフト
の流行だった。
プレーヤーの多くがハイテクシャフトというキューの一部品を選択する
ことによってキューの打球特性を得ようとした傾向は、ジョイント方式
によってキューの一体感を得ようとする傾向性をほぼ無意味なものにして
しまったのである。しかも徹底的に。
事実として、ハイテクシャフトが主流となって以降は、日本のメーカーは
新方式のジョイントを発表するのをやめている。数限りないハイテク
シャフトに適合するジョイント方式の施工が量産プロダクトでは対応が
できないという物理的な現象が生じるからだ。
今の時代は、キュー選びは、バットとシャフトで一本のキューとするのでは
なく、多くのユーザーはハイテクシャフトと適当などれでもよいバットと
いうような選択の仕方をしている。バットとシャフトで一つのキューという
状態が崩れている。

ジョイント開発時代には、最先端の科学的解析テクノロジーを投入して
最古の一本物のキューの性能を追求して来た。
だが、キュー選びはシャフト単体を使用者が選択する事が主流となって
からは、そのジョイント開発は存在意義が薄れたのであった。

しかし、ハイテクシャフトを選択するという現代の潮流は、冷徹に見ると、
プレーヤーによるシャフト選びの現象はハイテクシャフトがこの世に
登場する以前から存在したという事実と何ら背反するものではない。実は、
大昔からプレーヤーは打球性能の良質化を求めるという点において、
シャフト選びを第一義に置いていたのだ。
ジョイントに関しては、14山もしくは18山パイロッテッドが主流で
スタンダードであったので、選択の余地はない。むしろ、シャフトの
当たり外れを見極めて当たりシャフトを求めることにプレーヤーは躍起
になっていた。キューの性能の如何を決する大きな要素はシャフトにある
ことをプレーヤーは見抜いていたのだ。

私は昔ながらの18山のジョイントネジが好きである。14山のネジは
ショーンとアダムGBしか持っていない。
あとはTADの荒ネジ以外は、他の全キューはTADが標準としていた
18山のみだ。シャフトはかなり多く持っているが、やはり当然にして18山
である。

TAD風自作スペシャルも、オールドテイストの18山ジョイントである。




本家本元のTADのパンパーゴムの予備を持っているので、それに交換する
予定。
ポン付けはできない。何故ならばTADのパンパーゴムのネジは木ネジで
あり、私のこれはウエイトボルトの芯にメスネジがあるバラブシュカ方式
だからだ。しかもTADゴムは貫通穴が狭い。
なので、ネジ山は活かしたまま、ネジのヘッドとネジのロッドの一部分を
細く加工する必要がある。しかもTADゴムは背が低いので内部に下駄を
履かせることが必要だが、そのための適合アルミ平ワッシャーは用意した。
尻ゴムをTAD純正に替えてしまうと、外見はもろに初期のオールド
TADになってしまうことだろう。実際のところ、私が初めて使ったTADは、
まだシリアルナンバーも打っていない時代のこの私のオリジナルとよく
似たTADだった。ただ、全体はステイン処理が成されていたので、一見
するとただのハウスキューみたいに見えた。
しかし、そのTADが作られた時代の米国のハウスキューは、ブランズ
ウィックのタイトリストのように一本物が主流で、簡易なハギか、ただの
白木のキューだった。
私もその時代の白木の一本物キューを持っていたのだが、現在は手元に
ない。どこでどうしたのか、記憶にない。
多分、何度かの引っ越しのいずれかの際に知り合いのビリヤード場に寄付
したのかと思う。長かった横浜在住時代には部屋にあったので、多分
都内に出戻りした頃に誰かにあげたのだろう・・・とか書いていたら
思い出した。
私が横浜から中野への引っ越しの際に、引っ越しを手伝ってくれた悪友の
ような撞球の先輩がくれと言うので彼にあげたのだった(笑
私は家でのストローク練習(素振り)用に持っていたが、電車で持ち歩け
ないような長い物をどうする気だったのだろう(笑
もっとも弓道の弓は電車内に持ち込みできるから、ビリヤードのキューも
大丈夫か。そういえば、スキー板も電車内に持ち込みしてたっけ(笑

結局は、キューの結合は古式18山で十分、という事実、これあり。
ということは、ビリヤードのキューは、二分割のジョイント登場時点から
すでに完成されていたことになる。
次に日本刀の柄を作る時、私は自分の注文では初めて諸撮巻(もろつまみ
まき)にしてみようかと今考えている。
本物の武士が使った時代拵の柄で現存している柄巻の殆どが諸撮巻である
ということは、もしかすると何か大切なメッセージがそこにあるのかも
知れない。
それは、ビリヤードのキューは、結局はスタンダードであった古い18山か
14山で十分である、という事実と合致するかのような、何か忘れかけて
いた大切なことが、もしかすると日本刀の柄巻にもあるのかもしれない。






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