渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う

日本刀の柄に最適の木材

2016年10月08日 | 日本刀



算盤の玉はイスノキで出来ている。
日本国内で採れる最重量を持つ堅材である。

成瀬関次が著書『実戦刀譚』の中で、実用的見地から日本刀の
柄として最適の柄材は「柚である」とした「柚」とは、イス(ユス)の
ことであろう。柚子の木ではない。
イスは漢字では「柞」とも書く。
堅牢でとても重たい材であり、その気乾比重たるや1.0を超える。
つまり水より重たい。(鉄の比重は7.9)
ちなみに一般的な柄材の朴(ほお)の木の比重は0.48でイスノキの
半分以下である。
なので、イス材の5寸
角で一間長の角材などは一人では持ち上げ
られない程になる。それほど重い木材だ。




このイスは、薩摩の示現流ならびに自顕流において使用される丸木
木刀に使用されたりする。
整形した木刀の材料としても使われるが、なにしろ良材は貴重で
非常に高価である。

このイスは、硬いのに弾力靱性もあり日本刀の柄には最適であると、
昭和大戦中国戦線でのデータから成瀬関次は著書に書いている。
私は堅材として山桜の柄を作ったが、これら高硬度の木材は一般
刀剣職方には敬遠される。
なぜならば、カンナなどの刃物は、その木材ごとに見合った適切な
刃付けを丹念にしなければならないからだ。
つまり、普段、朴の木の柄削り用に使っている道具はすべて堅木用
に刃を丹念に研ぎ直さないとならないのである。その1本の柄のため
にだ。どれほど手間がかかることか。

また、堅木材は非常に加工性が悪いので、昔から「道具壊し」と呼ば
れて、職人たちには敬遠される。
私は新婚の時に桜材の洋服箪笥を購入したが、かなり金額が張った。
ベニヤではなく無垢材の箪笥だったからだ。材料自体が貴重である
ことも加えて、加工性の悪さから手間がかかるからであろう。
(ヤマザクラの比重は約0.7なのに、引っ越しの時に持ったら他の箪笥
に比べて重たいこと、重たいこと)


日本刀の柄に使用する桜は、ソメイヨシノなどの桜ではなく、国産の
山桜だ
。十分な量が採れるだけの材料分はすでにほぼ枯渇状態に
近いという。

かつての、ブラジリアン・ローズウッドのようなもので、ブラジリアン・
ローズウッドは国際条約で輸出入が禁止された。最大絶滅危惧種
としてレッドデータブックに載り、ワシントン条約で国際取引が禁止
されたのである。

ブラジリアン・ローズウッドのギター。音は粒立ちがよく、サスティーン
が強いのが特徴。いわゆるギター界でいわれる「ドンシャリ系」だ。


私のブラジリアン・ローズウッドのキュー。ワシントン条約締結以前
に輸入して長期保管されていた取って置きの材を使用して職人さん
に製作してもらった。これを使用した複数のプロは「あなたが持って
いるすべてのキューでこれが一番いい」と口をそろえて言う。撞球
性能が図抜けているのだ。


イスノキはまだ多少はあるが、ほぼ枯渇寸前であることは確かだ。
特にスヌケなどは、樹齢1,000年以上の大木でないと発生しないし、
木工品としては超貴重材として珍重されている。
もちろん、勿体なすぎて、建材などには現在は薄く剥いだ経木の
ようにした物しか使用されない。無垢材は加工工芸品
のみに使わ
れている。


この最高級木刀の材料でもあるイスのことを成瀬は日本刀の柄に
適切としているのである。
そのことは、高級木刀としては過剰品質ともいえるイスのスヌケが
最高級木刀として作られていることからも首肯できるところだ。
木刀の材料は、ただ硬いだけでは駄目なのだ。硬くて粘りがないと
ならない。(スヌケは硬いが折れ易い)

(かつて日本に多く存在した本赤樫は、現在はほぼ枯渇した。やむ
なく、
別品種を「赤樫」として木刀などの代用材料として使用して
いるのが現状だ。

そのため、赤樫が昔は白樫に比べて廉価だったのが、今は価格は
逆転している。
代用赤樫はすべて輸入木材であり、十分な製材乾燥が
行なわれて
いないため、赤木刀がすぐに曲がる事故が多く発生
している。私の
娘が自分で購入した日本剣道形用の代用赤樫木刀
も柄元がすぐに
湾曲してしまった。
木刀の材料は、伐採してから
少しずつ製材し、乾燥に十年以上かけ
るのが本来の技法なので
ある。ビリヤードのカスタムキューなどは、
材料の乾燥だけで40~60年
程時間をかけてシーズニングされた銘
木材のみを使用する。
そして旋盤で削るのは、0.3
ミリ削り込むのに3ヶ月~半年をかける。
木は動くから、少しずつ
削っては寝かしを繰り返して加工されるのが
ビリヤードのカスタム・
キュー=職人製作の手作り品なのである。
カスタム・キューの価格は
1本50~300万円ほどする。ビンテージ物
は、キュー1本が1,500万円程。)


折れない日本刀は軟らかいからだろうなどと単細胞的発想をする
人は多いようだが、てんで的外れで話にならない。そういう言質を
耳にしただけで私は個人的には話をしたくなくなる。見識が浅すぎ
て、対話深下の溯上には上がらないからだ。
日本刀の柄については、
私もイスノキで日本刀の柄を職方にいつか
職人さんに作ってもらいたい。

それは死ぬまでの私のささやかな一つの夢だ。


(とか私がここに書くと、道具壊しであることをわきまえないで、「柄を
イスノキで作ってくれ」とか超お手軽簡単に言いだす人が増えたりする
のだろうなぁ・・・。
単に作り方を無垢にすれば刀身が丈夫になるかと思い込んで刀屋
に新作刀を「無垢鍛えで作ってくれ」と注文する人間が最近増えて
ほとほと
困る、という刀剣商の話をあちこちで聞く。
まったく、根本からして日本刀のことが解っていないし、勉強や研究も
せずに、「無垢=頑丈」と短絡思考で思い込む。それは「心鉄構造=
頑丈にするため」という最大誤謬と全く同じベクトルの短絡思考の
大誤認だ。鋼を沸かす前のことから、まるですべてが解っていない。
そして、刀鍛冶は料理人と同じ職人であるので、工法を指定する者は
食材の切り方や熱し方などを包丁人に指定する無礼と同類である
ことに自ら気付いていない。

本職職方からしたら「とっととけぇれ!」ということになるだろう。それに
気付けよなぁ・・・。てか、気付いてちょんまげ)

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