経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

「年金破綻論のまやかし」を読んで

2012年04月04日 | 社会保障
 権丈善一先生のHPに紹介があったので、今週号のアエラ「年金破綻論のまやかし」(太田啓之記者)を読んだ。年金を始めとする世代間の負担理論は、無限連鎖という特殊な概念が必要なので、本当に誤解が多い。これを一般紙で書いてくれた意義は大きい。なぜ誤解するかについては、本コラムの11/28「世代間の不公平を煽るなかれ」、12/3「世代間負担論の到達点」を読んでいただきたい。

 ただし、太田さんの記事の中で適当でないと思われる部分もあるので、指摘しておきたい。太田さんは、「運用利回りと賃金上昇率の差が重要」とし、鈴木亘先生の想定は差が薄すぎると批判する。確かに、そうではあるが、こういう想定は、かなり悲観的でも、あり得ないものではない。おそらく、次の厚労省の財政検証では、現在の想定よりは薄くなると思う。

 鈴木先生の「破綻する推計」の問題点は、マクロ経済スライドを、所得代替率が50%を切った時点でやめる設定にしていることだ。年金の自動安定化装置を途中で切ってしまうのだから、厳しい経済想定の下で、「破綻」=積立金の枯渇が起こるのは当然である。太田さんは、デフレ時にもスライドをかければ破綻しないとするが、鈴木先生は、物価上昇率をプラス1%に設定している。太田さんは、「トリック」を読み切っていないと思われる。

 記事の後半にある積立方式への転換は、制度論以前に、数理的に無意味さが証明されたものなので、これで改革できるというような主張は論議を混乱させるだけである。その意味で、太田さんの指摘は正しい。無意味さは、一橋大の小塩隆士先生などがかねて指摘しているとおりであり、最近、若手の研究者が再び持ち出していることは、嘆かわしく思う。

 他方、現行制度にも問題がないわけではないので、筆者も「御用学者」と呼ばれないよう指摘しておこう。一つは、所得代替率50%、すなわち、現役時代の所得の半分の年金をもらえるということは、守れそうにないことである。これは、2004年の年金改革の際に、政治的に付けられた条件である。逆に、50%を切って給付を削減できるからこそ、破綻はあり得なくできるのだ。

 また、現行制度は、保険料の範囲内では、払った分は還ってくるように設計されているが、税負担まで含めれば、給付より負担が大きくなるのは事実である。これは、少子化が起こっている以上はいたしかたない。これを変えるには、出生率を若者が希望する水準である1.75まで回復させる必要がある。どうすれば良いかについては、基本内容の「雪白の翼」をご覧いただきたい。

 以上のような議論は、一般の方には少し難しいかもしれない。そうした方に、一点だけ申し上げるとすれば、「年金は、制度をいじって良くなるものではなく、成長を高め、少子化を緩和するよりほかにない」ということである。それは、経済や国家をも救うことになる。その観点に政策がマッチしているかどうかで判断すれば間違いはないのである。

(今日の日経)
 大飯再稼動へ安全基準。セブン小売り初3000億円。動き出した成長投資。欧米で陰る太陽光発電。米海兵隊、豪に司令部機能。長期金利に上昇圧力、米景気回復で持ち高調整。経済教室・欧州支援は円建て債購入で・櫻川昌哉。

※米の景気回復に合わせて、日本も回復させないと、金利上昇が重荷になりかねん。

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