経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の心

10-12月期GDP・成長なきアベノミクス

2016年02月21日 | 経済
 1年前、経済運営の成否は、成長で評価すべしと書いた(2015/3/1)。その観点から言えば、2015年のアベノミクスは、またも失敗に終わった。なぜなら、下図のように、消費増税の駆け込み前の2013年10-12月期から、まったく成長させられなかったからである。2015暦年の成長率が+0.4と、わずかながらプラスを確保できたのは、前年に消費増税の落ち込みがあったからに過ぎない。日本が世界経済の「敗者」であることは明らかだろう。

………
 今回の10-12月期GDPがマイナス成長になったことは、かなりの痛手である。2015年の成長率が下がっただけでなく、出発点が低くなって、悪影響は、2016年の成長率にまで及ぶ。今後、各期が年率1.5%弱の順調な速度で成長を遂げたとしても、2016年の成長率は0.7%にしかならない。決して低いハードルではなく、もし、実現したら、世間は表面的な低さを貶めても、本コラムは「成功」と正当に評価するつもりである。

 顧みれば、アベノミクスは、2013年には1.4%成長を達成し、「成功」を収めている。これは、金融緩和と財政出動がかみ合った効果だ。2013年10-12月期の季節調整値を1年前と比較すると、円安を背景に、輸出は5兆円を取り戻し、政府支出が4兆円増す中で、消費は6兆円伸びた。ところが、翌2014年は、金融緩和と緊縮財政の組み合わせに一変する。10-12月期までに、輸出は9兆円伸びた一方で、消費は増税によって7兆円も減った。

 そして、2015年になると、異次元緩和第2弾をしたにも関わらず、輸出は頭打ちとなり、引き続く緊縮財政の下、今10-12月期の消費は1年前より3兆円も少なくなった。興味深いのは、2014~2015の2年間、政府支出は、ほぼ変わらなかったことだ。つまり、消費増税は、まるまる財政赤字の削減に使われ、社会保障などの政府消費の増は、公共事業の減で賄われた形である。

 ちなみに、GDP上の設備投資については、振れはありつつも、2013年は伸長、2014年が停滞、2015年に再び伸長したように見える。機械受注の動向から判断すると、非製造業は内需に連れ、製造業は外需に従ったと思われる。金融緩和は、円安にして、輸出やインバウンドを促したわけであるから、設備投資には、これらを通じて、間接的に効果が及んだと考えるべきだろう。

(図)



………
 一口にアベノミクスと言っても、2013年と2014-15両年では、内容も、成否も異なる。金融緩和は一貫していて、輸出の動向からすると、異次元第1弾には効果があったと評価できるが、緊縮財政に変わった後の異次元第2弾は、円株にミニバブルを作っただけに終わり、成長の押し上げには無力だった。むしろ、食料などの輸入物価を釣り上げたことで、消費を冷やした可能性もある。

 近頃、浜田宏一先生は、『2020年 世界経済の勝者と敗者』という、P・クルーグマン教授との対談本を出された。その中で、クルーグマン教授は、更なる金融緩和を求めつつ、消費増税以外は評価すると述べているが、前述の財政支出が止まっていたといった計量的な検証も必要ではなかろうか。8%への消費増税は規定路線で不可避だったとしても、政府支出の増を止めるかどうかは、選択できることだった。 

 対談では、お二人の財政に対する見解には、多少違いが見受けられる。クルーグマン教授は、思い切った出動を求めるのに対し、浜田先生は、円安への期待と原油価格の低下を理由に、「財政支出が重要だとは思えない」としているからだ。おそらく、このようなスタンスがアベノミクスでの財政の転換の背景にあると思われる。日本の財政当局は、こうした監視の甘さを見逃さない。

 もっとも、日本が「三本の矢」の陰で何をしていたか、海外でも知られるようになってきている。こうなると、無条件で円安に理解を求めるのは難しい。「アベノミクスは期待に働きかけるもので、通貨安が狙いではない」という建前を繰り返しても、なかなか通じないだろう。他方、財政支出を拡大しようにも、かなりの政策立案能力が必要であり、官僚任せでは、ごまかされかねない。

………
 アベノミクスについては、賛否の双方が政治的に都合の良い数字だけをピックアップし、投げつけ合っているように思える。いまや、3年分のGDPが出揃ったのだから、各期の成長の動向を見ることで、ある程度、客観的に政策の成否を語れるようになっている。図で見て取れるように、野田政権下の2012年は「失敗」、安倍政権下の2013年は「成功」、2014-15両年は「失敗」で構わないのではないか。 

 大事なのは、ここから教訓を引き出すことだ。結果を踏まえ、成功策は容れ、失敗策は排すことで、政策は成長する。この3年間の経験は、景気の回復には、金融緩和も財政出動も両方が必要という平凡なものだった。本当の難しさは、政策のコントロールにある。ひたすらに金融緩和では済まないし、大規模な財政出動には、税や社会保険料の軽減策を準備せざるを得ず、号令一下でできるものではない。

 2/18の経済財政諮問会議では、非正規労働者の待遇改善として、「130万円の壁への対応を含めた被用者保険の適用拡大」が掲げられた。言うまでもなく、負担軽減策と組み合わせることが不可欠だし、適用で制度的な差別を放置していては、同一労働同一賃金も、お題目に終わる。経済運営で「勝者」と「敗者」を分けるのは、いかに現実に即した議論をして、無理のない政策を編み出せるかである。


(今日の日経)
 不動産融資26年ぶり最高、緩和マネー動く。投機筋が円買い拡大。
ジャンル:
経済
コメント (15)   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 2/19の日経 | トップ | 2/24の日経 »
最近の画像もっと見る

15 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
金融政策について (実川将太)
2016-02-21 19:34:20
不思議な作文である。

〈計量的な検証も必要〉とか〈財政当局は(中略)監視の甘さを見逃さない〉というわりには金融政策を〈ミニバブル〉の一言でかたづけるのだから説得力が無い。

〈現在、金融政策の目標としては物価の安定のほかに、雇用の安定、経済成長の維持、国際収支の均衡等があげられる〉(『金融読本(第23版)』 呉文二 島村高嘉 東洋経済新報社 2000年 184ページ)と習ったが、本ブログの先生は金融政策についてどう習ったのだろう。
トリクルダウン (鳥)
2016-02-21 22:43:09
トリクルダウンは政府がおこさないと発生しない。
景気よくなって一番に儲かるところから増税して
底辺にお金を回せばいいだけの簡単なことだが自民党には無理な話。
あと外需外需とこれも間違い、内需に特化した方がいい。
農業の自由化も間違い、これやったら地方はますます貧しくなる。
今の地方は完全に中央の植民地と化してる、今は資本による帝国主義の時代だということを認識しない限り
打開の道は開けない。TPPもそういうこと。
だから保護貿易が必要という意見も根拠があると思う。
実川さんへ (KitaAlps)
2016-02-22 10:31:55
>〈現在、金融政策の目標としては物価の安定のほかに、雇用の安定、経済成長の維持、国際収支の均衡等があげられる〉(『金融読本(第23版)』 呉文二 島村高嘉 東洋経済新報社 2000年 184ページ)と習ったが、本ブログの先生は金融政策についてどう習ったのだろう。

 経済が、経済学者の言うとおりに動いているなら、誰も苦労はしないです。偉い経済学者の学説どおり経済が動いているなら、リーマンショックも、現在の世界経済の停滞も日本経済の停滞も起こっていないでしょう。

 だから、経済の実体を見て、何が正しいかを検証して、それを経済の理解につなげていく努力が必要です。

>〈計量的な検証も必要〉とか〈財政当局は(中略)監視の甘さを見逃さない〉というわりには金融政策を〈ミニバブル〉の一言でかたづけるのだから説得力が無い。

(1)「(計量的な検証も必要)」

 「〈計量的な検証も必要〉」とブログ主さんが言ってるのは、クルーグマンが、日本が(消費増税に加えて、さらに)”緊縮財政を行っているという事実を知らない”まま発言しているという認識があるからです。

 ブログ主さんが、”日本が緊縮財政を行っている”という根拠は、消費税増税を行ったにもかかわらず、「2014~2015の2年間、政府支出は、ほぼ変わらなかったことだ。」という事実にあります。
 これは「つまり、消費増税は、まるまる財政赤字の削減に使われ」たことを示しているわけです。これは推測ではなく事実ですね。

 一般に(消費)増税をすれば、(その分、家計の実質可処分所得が減少し、それによる予算制約で)民間の実質消費がその分縮小の力を受けます。
 しかし、政府がその増税分を使って(消費増税の理由だった三位一体改革を実行すればそうなったはずの)社会保障関係費の支出を増加させれば、民間消費は減っても政府消費等が増え、その政府の支出増加によって、総需要は確保されていたわけです。ところがそうではなかった。

 2014~2015の政府支出の実績を見ると、政府は、税収増にもかかわらず政府支出を増加させなかったわけですから、これは(政府支出一定+民間消費の縮小で)総需要縮小要因です。クルーグマンは、そうした事実を認識していないとブログ主さんは評価しているわけです。
 クルーグマンが認識していないだけでなく、日本の経済学者達もそうした問題に対する関心を持っていない(というのはそうした点の認識を踏まえた議論が見られない)と思われます。
 だから、そうした点の「計量的な検証」を主張しておられるわけです。

(2)「金融政策を〈ミニバブル〉の一言でかたづける」

 これは、正確には「緊縮財政に変わった後の異次元第2弾は、円株にミニバブルを作っただけに終わり」ということでしたから、金融政策全体に対するものではなく「異次元緩和第2弾」に関するものですね。

 しかし、これは、客観的にも、事実に近いのではないでしょうか。異次元緩和により、株式市場では株価が上昇し、円高への動きを抑制したと思われますから、この点で成功したように見えたわけですが、現在の株価の低下や円高方向への変化をみれば、結局、ほぼ元に戻っている状況で、効果は一時的に終わったように見えます。
 もちろん、世界経済の状況などの要因はあるでしょうが、世界経済の変動に対して、さらに(効果のある)打つ手が金融政策に残されているのかどうか不透明です。

 ちなみに、「ミニバブル」という言葉には若干の否定的な意味がありますが、私は、個人的には、そうとも考えていません。それが、(うまくコントロールされつつ)実体経済に波及すればよいのですから。

 一方、異次元緩和第2弾以後の実体経済をみますと、こうしたたとえば株式市場の活況の効果としては、少なくとも実体経済には目に見える効果はなかったといえると思います。例えば、異次元緩和第2弾の効果で、実質賃金の上昇やGDPの成長が生じたとは実証的にも言えないと思います。これは、実体経済にはほとんど効果がなかったということです。

 この意味で、「ミニバブルを作っただけに終わり」はごく自然な評価だと思います。

 もちろん、一般的な金融緩和政策の効果としては、「理論的には」インフレ期待を高めることによって消費や設備投資を増加させる経路など多くの経路があります。問題は、「理論的にありうることが、現実でありうるのか」どうかです。また、ある経路が実証的・統計的に効果があるとは言えても、それが極めて小さく現実には無視できるレベルだということはいくらでもあり得ます。
 問題は、それらが「現実の経済」で実際に機能するかどうかを検証し、それを経済の運営に活かしていくことです。

 ブログ主さんの異次元緩和政策に関する取りあえずの評価は、当初の①デフレ脱却期待を高める効果があった(ただし一時的だった)。②円安を実現する効果があった。③株高を実現する効果があった。④また、債券価格を上昇させる効果があった。⑤しかし、実体経済に関して、消費増税と緊縮財政のマイナスをカバーする効果はなかった。・・・といったものでしょう。

 これは、とりあえずの評価ですから、こうした評価が正しいのかどうかについて「計量的な検証」が必要だと言っておられるわけです。
失業率について (実川将太)
2016-02-22 21:02:55
Kita先生へ

〈金本位制離脱後の金融政策の目標は、物価の安定におかれることが多かった。しかし、不況の深刻化とともに情勢も変化していった。大量の失業が発生したので、その解消、すなわち完全雇用が、当時の経済政策の中心課題となった。この時期には、金融政策もこのような経済政策への協力を要請され、金融政策の目標も完全雇用にあるような観を呈するにいたった。〉(『金融読本(第23版)』 呉文二 島村高嘉 東洋経済新報社 2000年 183ページ)

と習ったのですが、現在の失業率は金融緩和前の過去とくらべてどうなっていますか。

また、失業率の増減は実体経済と関係がありますか。
Unknown (基礎固め)
2016-02-22 21:32:42
失礼します。

実川さんへ
その金融の本ですと、現状の金融政策はどのような位置付けになりそうですか?
同じことですが、その本の分析方法、メソッドや思考方法的によるとどうです?

そちらを書いてもらうと有意義かと。
質問が分かりやすいと、キタアルプスさんも書きやすいので良いと思いますよ。
価値観や思考方法を晒すのはその本自体なので問題はないでしょう♪避難路です。
それに、思考を書かないで文章をのせてはただのコピペになってしまいますよ…此を続けていくと…そうあの人…あの人のように、、

割烹着いやいやダークサイドに落ちてしまう野ら
この際だから、日頃の疑問解消! (K)
2016-02-22 21:39:01
向井先生、横から失礼致します。

>ブログ主さんが、”日本が緊縮財政を行っている”という根拠は、消費税増税を行ったにもかかわらず、「2014~2015の2年間、政府支出は、ほぼ変わらなかったことだ。」という事実にあります。
 これは「つまり、消費増税は、まるまる財政赤字の削減に使われ」たことを示しているわけです。これは推測ではなく事実ですね。

ということですが、この国の課題の一つが、政府も認める通り、財政再建にあるわけです。これを所与とせねばこの先はお話になりません。

その上での意見と申しますか疑問ですが、消費増税の目的は専ら社会保障関係費への補填です。そもそも財政を逼迫させている主因が毎年1兆円強自然増している社会保障関係費ですね。その「補填」に消費増税分を充てることは、むしろ健全な政策遂行であって政治的に責められる筋合いではないと思いますが、如何でしょうか?

そして、最近の流行言葉なのかもしれませんが、「緊縮」財政とのコトバには違和感を覚えております。緊縮の反義語は非緊縮(≠放漫)財政のはずですが、この国の財政収支をみると、長年に亘って放漫もしくは非緊縮財政であることは火を見るよりも明らかです。何故ならば、歳入に見合う以上の歳出を行う財政赤字依存の財政構造に変わりがないし、政府支出が基本的に伸び続けているからです。実際、財政学上も、ドイツ以外の主要先進国については近年「均衡」(歳入の範囲内での歳出を維持する)財政を維持できない財政赤字に依存した財政構造、すなわち非緊縮財政だとし、財政の維持可能性の観点から「均衡」財政を目指す必要があるとしているわけです。

そうであれば、そもそも均衡財政を目指すこと自体は健全なのですから、巷間言われるような、現政権が緊縮財政を行っているからけしからんというのは、間違った評価でミスリードだと思うのですが、如何でしょうか?
実川さんへ (KitaAlps)
2016-02-24 09:29:30
 失業率は、長期的なトレンドで見ると、おおむねリーマンショック後の2009年をピークに、ほぼ一貫してきれいに低下してきています。

 短期的な変動を見ても、現在の低下傾向の開始は、異次元緩和開始時点よりかなり前に始まっているように見えます。

 したがって、金融政策との関連は、効果がなかったとは考えませんが、わかりにくいと言えると思います。
Kさんへ (KitaAlps)
2016-02-24 11:06:48
>消費増税の目的は専ら社会保障関係費への補填です。そもそも財政を逼迫させている主因が毎年1兆円強自然増している社会保障関係費ですね。その「補填」に消費増税分を充てることは、むしろ健全な政策遂行であって政治的に責められる筋合いではないと思いますが、如何でしょうか?

◎しかし、まあ少なくともこの2年間は、消費税増税の増収分は、増加する社会保障関係費の「『補填』には使われていない」、補填に使われているのは公共事業の縮減などだというのが、ブログ主さんの評価ですね。
 つまり、そもそもKさんが言われるような「・・・社会保障関係費・・の『補填』に消費増税分を充てる・・」ことを政府は行っていないのです。

◎なお、成長が停滞し。税収が停滞している経済では、社会保障関係費の増大は、重要な課題です。しかし、財政赤字の大きな割合は、むしろ景気変動(不況の深化)によるものです。
 次のページの上のグラフは日本の毎年の家計、企業(非金融法人企業)、政府(一般政府)、海外などの部門別の資金過不足の変動を示すグラフです。

http://kitaalps-turedurekeizai.blogspot.jp/2013/09/blog-post_27.html

 このうち、特にB、C、D、Eの時期をご覧下さい。このうち、B、C、Eの時期には、企業部門(ピンク)の資金不足が縮小する(か資金余剰が増加する)ときに、それに連動して政府部門(黄色)の資金不足が「増加」(=財政赤字拡大)していることがわかります。逆にDの時期には、企業の資金余剰が減少すると政府部門の資金不足が縮小しています。

 これは、企業が、需要不足(不況)を認識して設備投資を縮小することで、企業部門の資金不足が縮小(ないしは資金余剰が増加)すると同時に、(設備投資減少による)さらなる需要不足によって経済活動が縮小することで、政府税収が減少して(あるいは景気対策のための支出が増加して)政府部門の資金不足が拡大していることを示しています。・・・B、C、Eの時期
 逆に、企業部門が設備投資を始めれば、企業の資金余剰は減少する一方、設備投資による需要増加で経済活動が活発化して税収が増加するなどで、政府の資金不足が縮小しています。・・・Dの時期

 同じ現象は、(ページの下の方に)米国についてもグラフがありますが、同様のメカニズムが働いていることがわかります。

 つまり、政府の財政赤字のかなりの割合は景気の変動によるものなのです。


>そもそも均衡財政を目指すこと自体は健全なのですから、巷間言われるような、現政権が緊縮財政を行っているからけしからんというのは、間違った評価でミスリードだと思うのですが、如何でしょうか?

 緊縮財政の批判者は、(多分)財政再建のための財政緊縮自体に、一般的に反対しているわけではありません。

 反対しているのは、不況下で需要不足である状況で緊縮財政を行うことが、需要不足を加速し、それがさらに不況を深める問題を指摘しているわけです。つまり、財政緊縮を行うタイミングに反対しているわけです。
 不況下で緊縮財政を行えば、それによって需要が減少し、さらに不況が深まれば、税収は低下し、均衡財政の実現は遠ざかります。

◎緊縮財政が、どの程度の需要不足を引き起こすかについては、さまざまな学説がありました。
 第1は、緊縮財政は、むしろ需要拡大に寄与するという「非ケインズ効果」仮説(また、それに基づく「拡張的緊縮論」)があり、2010年頃には、ヨーロッパを中心に強い支持を受け、緊縮財政が実行されました。しかし、それは失業率の急上昇にみられるように無惨な失敗に終わっています。実証的に、支持されなかったのです。また、非ケインズ効果の実証的根拠とされた事例も、実はそれは輸出増加による回復だったことが明らかにされています。

 第2に、そもそも、財政支出変動の影響は小さいというのが従来の通説でした。財務省などの認識は、こうした(過去の)通説によっています。
 しかし、少なくともリーマンショック後の現状では、財政支出変動の影響は従来考えられていたよりもかなり大きいという理解が、強まっています。
 たとえば、かつては財政支出削減の影響を無視する勧告を出し続けてきたIMFは、2010年10月の「世界経済見通し」第一章で、財政乗数の再評価結果を示し、IMFが従来は財政乗数を2分の1から3分の1程度に過少評価していた可能性が強いことを明らかにしています(自己批判でした)。

 現在は、IMF、OECDなど多くの国際機関が、こうした実証研究に基づいて、現在の世界経済の停滞を脱するために財政出動を行うことを提言しています。

 したがって、財政再建を実現するために、財政支出を絞ることは、従来考えられていた以上に、経済に需要不足を引き起こし、税収を低下させることで、財政再建を遠ざける結果になる可能性が強いと考えています。

 つまり、焦点は、財政再建自体の可否にではなく、財政再建のために財政支出を縮減することがどの程度経済に影響を与えるかという問題の(実証的)評価にあります。財政緊縮論者は、財政支出を抑制しても、経済への影響は小さいと考えるのに対して、反財政緊縮論者は、経済への影響は大きいため、かえって財政再建を遠ざけると考えているわけです。

 従来は、こうした問題は、停滞が続く日本だけの事例で論じられてきていたために、結論がなかなか出ませんでした。しかし、リーマンショック後、世界中の各国で、さまざまな政策が取られた結果、実証的に、財政緊縮の影響が従来通説的に理解されていたよりも、かなり大きいことが明らかになってきているのです。
Unknown (asd)
2016-02-24 11:14:50
Kさん
遅くなりましたが、前回のやり取りも書きましたのでヒマなときにお読み頂ければありがたいです。

横から恐縮ですが、ゼロサム的均衡財政を志向することが何故間違いなのかというと、貨幣経済はプラスサム前提の設計だからです。Kさんよーくご存知の通り、お金は量が増える道具です。利子もあります。世の中全体の金回りが低下しても債務残高は低下しない→実質債務負担増、という性質もあります。プラスサム前提設計の道具なのです。
確かにゼロサム設計なら収入が下がれば支出を下げる縮小均衡が正解です。ミクロの家計感覚ではそうですよね。しかしマクロレベルでは違います。現行貨幣を使用し続ける以上はプラスサム、拡大均衡しかできません。拡大均衡に必要なだけの経済拡大を確保することは現行貨幣を使用し続ける上での義務とも言えます。

昨今の諸国の財政赤字の主因は、総需要低下→金回り低下→税収低下です。むしろ、必要な経済拡大量に追いついてない過小歳出を増やすことで、世の中の金回り量に必要な拡大量まで戻って貰うことが第一なのです。
Unknown (asd)
2016-02-24 11:22:45
KitaAlpsさん
> 緊縮財政の批判者は、(多分)財政再建のための財政緊縮自体に、一般的に反対しているわけではありません。
横から失礼しますが、私自身のことで言えば、全くその通りですね。
むしろ、財政赤字の主因が総需要過多・歳出過剰にある場合は「緊縮財政しろよ!」と主張します。
Unknown (asd)
2016-02-24 12:01:14
Kさん
> 政府支出が基本的に伸び続けている
仮に日本経済が実質2%名目3%成長の力を持っているなら、単純論、政府支出も同ペース成長させて足を引っ張らないようにしたいところです。
仮に、歳出拡大ペースが落ちる直前、平成2年の一般会計69.3兆を基準とすると、平成27年政府支出は実質113兆、名目145兆になっていなければ歳出不足になるわけです。勿論これは極めて単純論なわけですが、現在の現実の歳出額では単純に少ないことが感じられるのではないかと思います。

その上、国民負担率も右肩上がりです。このことだけを考えても、財政政策は過小拡大どころか、ゼロ拡大かもしれません。
失業率について2 (実川将太)
2016-02-24 22:22:52
Kita先生へ

〈総務省が29日発表した12月の完全失業率(季節調整値)は3.3%で、前月比横ばいだった。QUICKがまとめた民間予測の中央値と同じだった。失業率が3%台前半で推移していることから、総務省は雇用情勢について「引き続き改善傾向で推移している」と分析した。

 完全失業率を男女別にみると、男性が0.2ポイント上昇の3.7%、女性は0.2ポイント低下の2.9%だった。完全失業者数は222万人で5万人増加した。うち勤務先の都合や定年退職など「非自発的な離職」は2万人増、「自発的な離職」は前月と同数、「新たに求職」している人は1万人増だった。就業者数は6403万人で、前月比45万人増加した。仕事を探していない「非労働力人口」は4442万人と50万人減り、労働市場に求職者が出てきている。

 併せて発表した2015年平均の完全失業率は3.4%で、前の年から0.2%低下した。5年連続で低下し、1997年以来18年ぶりの低水準になった。正規の職員数(原数値)は3313万人と、26万人増えた。リーマン・ショック前の2007年以来8年ぶりの増加となり、減少に歯止めがかかった。一方で非正規も1980万人と、18万人増えた。増加基調が続いていた非正規職員の割合は37.4%で、02年以降で最高だった前年と同じ水準だった。特に医療・福祉などのサービス業での就業者数の増加が目立った。〔日経QUICKニュース(NQN)〕〉(『日本経済新聞』「完全失業率、12月は前月比横ばいの3.3% 15年は18年ぶり低水準」2016/1/29 9:37)

現在の失業率は過去とくらべてこうなっています。

金融政策の実体経済への波及経路は〈マネー・サプライの増加は、物価上昇を引き起こすが、失業が深刻なときには、賃金はすぐに上昇しないので、労働力が割安になって雇用が回復する〉(『経済論戦は甦る』 竹森俊平 日本経済新聞出版社 2007年 34ページ)で間違いないですか。
向井先生、コメント有難うございます。 (K)
2016-02-24 23:24:32
>少なくともこの2年間は、消費税増税の増収分は、増加する社会保障関係費の「『補填』には使われていない」、補填に使われているのは公共事業の縮減などだというのが、ブログ主さんの評価ですね。
・お金に色はついてませんので・・・ここは見解の相違ということで。

>財政赤字の大きな割合は、むしろ景気変動(不況の深化)によるもの
・なるほど。しかしながら、2005年から本格的に超高齢化が進行し始め、生産年齢人口が減少し続ける今後は、毎年1兆円強自然増する社会保障関係費が財政赤字依存の財政構造を、現行の社会保障制度を抜本的に改革しない限り、強固なものにすると考えるわけですが・・・。

>緊縮財政が、どの程度の需要不足を引き起こすかについては、さまざまな学説がありました。
・当方は、財政学上の通説に従って、緊縮か非緊縮かの用語を使っています。要は、巷間あまりに都合よくこの用語が歪曲的に使用されていることが問題だと思っている次第です。

>現在は、IMF、OECDなど多くの国際機関が、こうした実証研究に基づいて、現在の世界経済の停滞を脱するために財政出動を行うことを提言しています。
・なるほど。一方、BISはむしろ過度な政府債務の積み増しを、経済成長の妨げになると警告してますし、ニューケインジアン学派でさえも中には同趣旨の見解があるわけです。

 いずれにしても、経済学は、自然科学とは異なって、事前の実験検証が不可能で、事後的な分析、評価に頼らざるを得ない。
 そういう意味では、現在、我が国の異次元緩和も、過去の90年代のような財政出動も、まさに壮大な社会実験として有意義でしょうし、オンタイムで観察することができることをむしろ幸運だと思っております・・・。

有難う御座いました。
やれやれ・・・vol.3 (K)
2016-02-24 23:35:30
asdさん

>貨幣経済はプラスサム前提の設計・・・
・あのね、誰が設計したのは知らんが、そもそも経済活動自体がプラスにもゼロにもマイナスにもなるんでね・・・。預貯金取扱金融機関の信用創造機能をいろいろこねくりまわしてややこしくしなくていいからさ。

>昨今の諸国の財政赤字の主因は、総需要低下→金回り低下→税収低下です。
・あのね、税収が増えてる国もあるんでね・・・。要は、行政サービスや人件費が増えたり、現行の社会保障制度が現状に適合しなかったり、いろいろ財政赤字に依存せざるをえない事情があるんだよ。無駄に単純化しないでね。

>> 政府支出が基本的に伸び続けている
仮に日本経済が実質2%名目3%成長の力を持っているなら、単純論、政府支出も同ペース成長させて足を引っ張らないようにしたいところです。
仮に、歳出拡大ペースが落ちる直前、平成2年の一般会計69.3兆を基準とすると、平成27年政府支出は実質113兆、名目145兆になっていなければ歳出不足になるわけです。勿論これは極めて単純論なわけですが、現在の現実の歳出額では単純に少ないことが感じられるのではないかと思います。

その上、国民負担率も右肩上がりです。このことだけを考えても、財政政策は過小拡大どころか、ゼロ拡大かもしれません。

・何をイイタイのかさっぱりわからない・・・。
向井先生、僭越ながら付言します。 (K)
2016-02-26 18:42:30
向井先生

>>現在は、IMF、OECDなど多くの国際機関が、こうした実証研究に基づいて、現在の世界経済の停滞を脱するために財政出動を行うことを提言しています。
・なるほど。一方、BISはむしろ過度な政府債務の積み増しを、経済成長の妨げになると警告してますし、ニューケインジアン学派でさえも中には同趣旨の見解があるわけです。

IMFのレポート、読みましたが・・・
http://www.imf.org/external/np/g20/022616.htm

このような記述も発見しました。
~引用開始~
In Japan, a commitment to fiscal consolidation centered on a pre-announced path of gradual consumption tax hikes and a strengthening of fiscal institutions would create near-term policy space to maintain growth momentum.
~引用終了~

要するに、日本については、消費増税を含む財政再建策を推進、維持すべき、と。

IMFも、我が国を「特別視」しているようです・・・。

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
  • 30日以上前の記事に対するトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。