経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

正解をどこかに求める政治

2013年07月07日 | 経済
 世は選挙ムード一色だ。そんなときには視野を広げ、「権力はいかにあるものか」を歴史をたどって眺めるのも一興だろう。牧原出先生が出された「権力移行」は、それにうってつけの書だ。統治機構に関する読み破りぶりは、さすが御厨貴先生の跡を継がれただけはある。永らく日本政治を彩ってきた「改革」が、過去にどんな意味合いを持ち、変化を見せてきたか、それを知ることが「今」の理解を深めてくれる。

………
 牧原先生は、1980年代までの自民党の「党改革」と「行革」、90年代の「政治改革」と「統治機構改革」、2000年代の「官邸主導」と「経済構造改革」に章を分けて論じておられる。こうした特徴づけは、筆者も同感であり、更に経済的背景も付け加えてみたくなる。すなわち、ポスト高度成長、バブルとその崩壊、長期デフレの三つである。そして、それらに「どう対応するか」が政治を動かしてきたことを指摘したい。

 政治学者の立場からは、いかにより良い制度と運用を確立するかという点に関心が向くが、エコノミスト的には、正しい経済政策を選択できる体制は何かという視点で統治を眺めることになる。日本経済の成長にとって、決定的に欠けていたのは、安定的な需要管理である。それを実現できなかったのは、いかなる欠陥があったからなのか、そうした点が重要となる。

 例えば、2010年度の民主党政権は、リーマンショックの経済対策の剥落を放置して、10兆円もの緊縮財政を敷いてしまい、年度後半に景気後退と円高をもたらした。バラマキ型の公約を掲げていたにも関わらず、需要管理の知識がなく、財政当局に予算編成を頼った結果がこれであった。増税で当局に協力していたはずの野田政権も、総選挙の頃にエコカー補助金が切れるような需要管理に甘んじた。

 牧原先生は、安倍政権における白川日銀総裁の交代劇について、90年代の統治機構改革で独立と自治を高めた各機関と「官邸主導」との衝突という見方をしている。日銀の政策変更に成功した安倍官邸が、今後、いかに需要管理を自分のものとするかに、政権の命運はかかろう。何しろ、既定路線を進むと、来年度は、経済対策の剥落で5兆円、消費増税で7.5兆円、年金カットで1兆円のデフレ圧力が一挙にかかるからだ。

 これは、政治が官僚制をどうやってコントロールするかという問題でもある。牧原先生は、官僚制について、内務行政型、経済産業政策型、財務省主導型に類型化し、主導権がどのように担われたかに焦点を当てている。現政権では、経産型が表に出ているようだが、彼らは需要管理のような精緻なことは得意でなく、米英的なビジョンに古びた産業振興策を加えたものを持っているだけだ。

 需要管理に必須なのは情報である。景気に即した税収見積りもなければ、補正も含めた前年度比の歳出変化も示されず、ただ「国の借金はGDPの2倍の危機的状況」としか聞かされないのでは、経済成長による所得増を超える無謀な需要の引き抜きをしてしまうのも無理はない。牧原先生は、政権交代を進化させるため、担う準備のできる仕組が必要と言われるが、基礎的情報が欠けていることすら認識されていないのか現実だ。

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 高度成長期においては、池田勇人に象徴されるように、成長力を最大限に活かす積極策が成功を収め、日本を大国の地位に押し上げたが、1980年代以降は、成長力が発揮される前に緊縮財政でブレーキをかけることが繰り返された。逆に、それが必要だったバブル期は、日米摩擦の緩和のために公共投資を拡大する始末だった。そうした需要管理の失敗が政治や官僚制を動揺させることになった。

 成長鈍化からデフレへと、何に失敗しているのか分からないまま、日本の舵取りをしている政治や官僚制を「改革」すれば、変わるのではないか、それも、日本とは反対の貯蓄不足の経済構造にあり、金融業で栄える米英を真似をすれば良いという「信仰」に取り憑かれた。「キャッチアップしたのだから、もはやモデルはない」と口では言いながら、正解をどこかに求めるだけで、創ろうとはしなかったのである。

 もし、今の安倍政権が消費増税を圧縮し、成長力に見合った財政運営への軌道修正に成功すれば、日本経済は新たな局面へと移り、そうした対応は政治史的にも画期となるだろう。需要管理という難しい理屈は分からないでも、成功の経験は在り様を変えるものだ。それは個人に限らず、国家にも起こることなのである。

(昨日の日経)
 与党、過半数の勢い。米雇用19.5万人増。税収上ブレ、影に日銀の法人税1500億円。米景気に好循環の兆し。サムスン株軟調。契約社員に成果報酬。

(今日の日経)
 食品廃棄減へ新ルール。世界の海24時間監視。フランス女性は学業を終えて間をおかず出産。パナのCMを民放が拒否。参院選何を問う・御厨貴・古市憲寿。

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