経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の心

ベーシックインカムと緊縮財政

2017年07月16日 | 経済
 ベーシックインカム(BI)への支持が広がらない最大の理由は、「生産していないのに、どうして消費が許されるのか」という素朴な疑問だろう。ルトガー・ブレグマン著『隷属なき道』は、面白さに満ちていたが、これには答えていない。「お金を集めても、消費も投資もしない者がいる」という論理とセットにしないと、社会制度としてBIが不可欠になるという主張は、成り立たないように思う。

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 ルトガーの主張のうち、「貧困の解決には、お金を与えるのが一番」というのは、なかなか説得力がある。ホームレスに3000ポンドを与える実験、ケニアでフリーマネーを与える援助を取り上げつつ、歴史をたどり、カナダ・ミンガムでの試み、50年前の米国での保障所得実験、ガルブレイスやトービンらが賛同したニクソン政権の家族支援計画、そして、福祉の失敗例とされるスピーナムランド制度の評価が覆されたことなどを語る。

 残念ながら、家族支援計画は実現の寸前で潰え、ニクソンの次の時代はインフレと低成長へと変わり、むしろ、小さな政府が求められ、福祉は批判にさらされるようになった。だが、時代は、もう一巡する。ディス・インフレと格差の現在である。再配分の強化は、経済成長を確保する観点でも、すなわち、福祉を受ける立場以外の人々からも、正当化され得る環境になってきた。BIが注目されるゆえんである。

 BIが一律に現金を給付する施策だとすれば、公的年金は、それに近い存在である。日本の基礎年金は、手続さえすれば、保険料を納められなくても、1/2の給付が受けられる。1/2は保険料ではなく、国庫負担によるからだ。児童手当も、今は所得制限がついたが、BIに類すると言える。そして、「こども保険」という形で給付が拡げられようとしている。部分的であるにせよ、BIは着実に現実化している。

 むろん、その歩みが遅いのは、財源論が邪魔するからだ。少子化による人口崩壊が分かっていても、わずかずつしか児童手当を拡大できないでいる。その根底には、生産の裏付けなくして、消費を許して良いのかという素朴な疑問がある。ところが、今はデフレである。使われずに、溜め込まれているお金があるから、こうなっている。ならば、再分配によって、有効に使うべきではないのか。 

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 もう一つのルトガーの興味深い指摘は、19世紀半ばからの労働時間の短縮が1980年代に止まったことと、不変と考えられていた労働に分配される国民所得の比率が低下し、資本に有利に傾いたことだ。経済は成長しているはずなのに、生活にゆとりは生まれない。これも、ディス・インフレと格差の別の側面である。どうして、こうなったのか。ルトガーは、テクノロジーの発展を疑うが、政策的な理由もある。

 経済政策の基調が、緊縮財政と金融緩和の組み合わせになっているのだ。緊縮財政で物価を安定させ、金融緩和で資産価格を高める。これによって、ある程度の成長は確保できるものの、実物経済は弱く、金融経済が強くなるので、分配が資本に傾くのは致し方ない。そこで資本の上がりに課税し、分配に使えば、まだ調和が取れるのだが、経済思想の性質上、そうはならないのである。

 次善の策は、財政赤字を容認することだ。ディス・インフレの下での財政赤字は、分配上の偏りを是正する「必要悪」である。これで金融を支える実物の土台が培われることにもなる。ただし、現実は、手っ取り早くバフルを膨らます方に流れがちだ。決して持続可能なものではないが、豊かな社会より、目先の利益が優先されるのは、何ら不思議ではなく、そうするだけの権力も持ち合わせている。

 財政赤字は、一括りに「悪」とされるけれども、インフレ下のそれと、デフレ下のそれでは、意味が異なる。インフレ下では、消費のし過ぎでしかなく、成長に必要な投資を確保するには削減が必要だが、デフレ下では、分配の偏りを是正するとともに、投資の際の需要リスクを癒すものであり、成長をもたらすことになる。特に、人的投資に使われるなら、財政赤字を拡大する方が成長を高めさえする。

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 財政緊縮と金融緩和の組み合わせは、欧米においては、政治力を持つ金融資本が要望するところだが、日本では、財政再建至上主義と金融緩和による円安での需要確保が背景にある。したがって、権力構造を変えなくても、政策を転換できる可能性がある。すべての人に最低限の人的投資ができるよう、社会保険の適用範囲を拡大し、BIに近づけていくことは、日本の場合、比較的、容易と言えよう。


(今日までの日経)
 株持ち合い縮小10%割れ。緩和マネー縮小へ難路、各国中銀が密約。川下デフレ崩せるか。政府見通し実質1.4%成長。地方税収40.3兆円。非正規 雇用期限なしに。基礎的財政収支なお赤字8兆円。

※川下デフレは、斎藤太郎さんの指摘(7/14)のように、消費に需給ギャップがあるせいだろう。
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