経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

アベノミクス・経済復活への道

2016年09月04日 | 経済(主なもの)
 日本経済が復活するとしたら、間違って正しい政策をしてしまう場合だ。日本のエリートの信条は、スキあらば緊縮で、回復の芽を摘んでばかりだが、たまたま、それに失敗することがある。事態は大して深刻ではないのに、過敏に反応して、緊縮を緩めるパターンだ。今回、こうした流れになるかどうか、彼らの当事者能力の無さに、多少の情けなさは感じつつも、密かに期待している。

………
 7月の経済指標については、久々に「消費に強さあり」と評せよう。筆者は、もっと良い数字が出ると思っていたくらいだ。まず、商業動態だが、小売業が前月比+1.4と伸び、昨冬からの低下局面から脱する水準となった。物価の低下を考慮すると、実質の伸びは更に高い。また、鉱工業指数の消費財出荷も前月比+3.5となり、水準は昨秋以来の高さである。これに伴い、生産が消費税ショック後の最高を更新する中で、在庫は-4.3と大きく下げた。

 家計調査では、最重視する二人以上世帯の実質消費支出(除く住居等)が前月比+0.3と、まずまずの結果だった。この感じからすると、7月の消費総合指数は同じくらいの伸びが見込め、やや気が早いけれども、7-9月期の仕上がりは年率2.0%程度を確保できるのではないか。実は、勤労者世帯の消費性向が異様に低く、この原因は自動車購入が該当しなかったことにあるようだから、その戻りで、より高い水準も望めると考えている。 

 消費の強さの背景には、収入と雇用の回復がある。勤労者世帯の実質実収入は着実に増えてきた。7月の毎月勤労統計は週明けだが、雇用×賃金は同様の傾向にある。7月の労働力調査は、就業者数が前月比+20万人と、前月の+47万人に続いて、高い伸びとなった。男性の雇用者数は、もう少し欲しかったものの、就業者数では上昇トレンド内に収まっている。失業率は、とうとう3.0%に至り、2%台をうかがう。

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 求人倍率については、「バブル期並み」と言われ、過熱もささやかれたりする。しかし、古い者からすれば、このくらいは、まだまだで、むしろ、これからが面白い。図で分かるように、就業構造が違うとは言え、バブル期のパートの倍率は、今より遥かに高かった。パートの求人が一層伸び、需給が逼迫し、賃金上昇が加速するときこそが、デフレ脱却である。そのパートの倍率は、振れつつも、春から一段高を見せている。

 図では読み取りにくいが、パートの求人倍率は、2012、13年と順調に伸びてきていたのに、2014年の消費増税でピタリと止まり、2015年に入って、ようやく再開している。そして、昨秋の足踏みを経て、一段高となった。昔話をすると、1988年に、今くらいの2倍後半から棒上げがあり、好景気の実感が広がった。日経の龍元記者の良記事(9/2)にあるように、秋からパートの雇用と賃金がどう動くか、とても楽しみである。

 それにしても、せっかく時給が上がるのに、130万円の壁のせいで、半数が労働時間を減らすという記事の指摘は重大だ。段階的な負担にする制度改善を怠っているために、取れる保険料を逃している。むろん、成長のネックでもあり、賃上げがなされ、所得が伸び、消費が増し、雇用が進むという好循環が切望されるのに、賃上げがあっても、制度が邪魔で、所得を伸ばせないとは、もったいない。保険料負担の段階化なくして、「働き方改革」もあるまい。

(図)



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 景気を回復させるのは、何も難しいことではなく、上向いたところで、わざわざ緊縮財政で芽を摘んだりしなければ良いだけである。成長とは、自然なものだ。足元では、着実な前進が見られ、年明けからの円高株安、熊本地震、英国EU離脱に驚いて、消費増税を見送り、景気対策を取ったことが、にわかにチャンスとなった。筆者は、それらの事変は慌てるほどではなく、間違って正しい政策になったと考えている。

 7月は、住宅着工が高水準を維持し、日銀・実質輸出も上向きだった。そして、補正予算の公共事業が加わり、景気を先導する3需要が揃う。補正予算が成立する10月頃には、「どうも7-9月期は高成長になりそうだ」という間抜けな形になるかもしれないが、それで構わないではないか。エリートが間抜けぶりを発揮すると、どんどん景気は良くなる。日本とは、そういう国だ。 

 次の焦点は、2017年度本予算になる。昨年の「一億総活躍」は、日本経済に求められたアジェンダだったが、予算配分は不十分で、保育所不足の議論を惹起した。どうせやることになる2017年度の「補正」予算を見越し、「本予算」へ積み替え、保険料負担の段階化といった働き方改革に欠かせない予算を確保しなければならない。財源はある。補正と本予算で融通できないという奇妙な財政ルールを変えれば良いだけなのだから。


(今週の日経)
 米雇用、8月15万人増 市場予想を下回る。パート時給 秋に急上昇、適用拡大、最賃上げ重なる・龍元秀明。寒い消費 値下げの夏 食品・日用品半数超が下落。 自民税調会長、配偶者控除見直し検討。貸家に投資マネー流入→需給悪化で家賃下落も。東証1部企業の4社に1社、公的マネーが筆頭株主。

※KitaAipsさん、福祉の現場に立たれているんですね。ご苦労様です。


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1 コメント

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高齢者介護施設の状況 (KitaAlps)
2016-09-04 22:58:58
 ありがとうございます。
 春から、高齢者介護施設を運営する法人の運営に関わることになり、当面、これに没頭しています。

 経済の問題については、書きたいことも少なくないのですが、当面、その中で1,2のテーマに絞って、ときどきメモを作ったりもしているのですが、施設の運営の方が昨年度赤字だったこともあり、日夜、運営に関する様々な問題が頭を占め、経済については、当面は、まとまっては、なかなか考えたり書いたりできる状態にはない状況です。

 当施設は、地域では歴史のある施設で、良質の介護サービスを提供してきた施設だと確認できました(就任直後に入所者が亡くなられ、ご葬儀に参列させていただいた際に、喪主のご挨拶の中で、丁寧に当施設での介護の状況を参列者に紹介され感謝の言葉を述べられました)。こうした施設の良さをなくすことなく、いかに黒字に転換させるかに腐心しているところです。そのほかに、有無を言わさず没頭を要求されるのが、有資格の職員の退職(願い提出)です。特に看護師や機能訓練士(理学療法士、作業療法士、柔道整復師・・・)さんがやめられると、直ちに設置基準を下回ることになることが多く、新規求人(ハローワーク、仲介業者)や、当面の部門間の融通対策などに没頭することになります。

 さて、高齢者介護業界は、サービス業界の常としてパートさんに頼るところも少なからずあります。当法人は、全体で220人ほど、うち正職員が140人ほど、非正規職員が80人という人員構成で、3割強をパートに頼っていることになります。大半を占める介護職は、概ね介護福祉士などの有資格者、パートは介護福祉士は少なくて2級ヘルパー(=身体介護ができる最低要件)が多いのですが、介護福祉士もおられます。看護師は、当然、パートでも全員看護師資格があります。機能訓練士もパートでも当然有資格者です。

 パートに有資格者が少なくないことからもわかりますが、女性が大半を占めるこの分野では、非正規雇用を必要とする方も多いのだと改めて感じています。正職員の出産子育てに対する支援は、それなりに充実してはいるのですが、それでも、中学校に入るくらいまでは子育て負担で、正職員の負担はなかなか厳しいと感じられるようです。
 といっても労基法(平均8時間労働)は明確に守ってますし、時間外がそれほど多いわけではないのです。ただ、ローテーションで夜勤(看護師は夜勤はないのですがオンコール)があります。また、例えば、子供さんを送り出してから出勤すると、正規の時間に間に合わないから、8時間労働でも、9時から18時までの勤務時間を選べるパートがいいと感じる方も少なくないようです。
 正職員には、子育て支援のための短時間勤務(かつ夜勤免除)制度などもあるのですが、それも出産後数年までです。その程度でも、他の正職員に夜勤のしわ寄せが集中して、限界に近い状態にもなっています。

 ちなみに採用状況ですが、正職員については、新卒がなかなか採用できなくなりつつあります。介護福祉士養成のための短大や専門学校の入学者自体が減っており、また4年制大学(の他分野)への進学も増えているようです。パートも、求人倍率が極めて高くなっていて、単価も最近上がっているようです。

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