経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


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エコノミストにとっての歴史と社会思想

2012年02月06日 | 経済
やれやれ、今日の日経では、内閣府が世代間格差の試算をしたという。「得」をしている高齢者世代と「損」をしている若年者世代を結びつける、いつもの「誤れる世代間負担論」だ。その問題性については、本コラム「社会保障」の11/28「世代間の不公平を煽るなかれ」や12/3「世代間負担論の到達点」を読んでもらいたいが、こういうものを国が権威づけるのは、いかがかと思うね。まさか、財政当局のように、分かってやっているわけではあるまいが。

 かく言う筆者も、研究を始めた当初は、年金を積立方式に転換する場合の負担の大きさを推計するようなことをしていた。ところが、必要な負担増はGDPの2%ほどになってしまい、そうした貯蓄増を実現するには、バブル期並みの超高投資でなければ吸収できないことに気づき、途中でやめた経緯がある。

 いまだに年金問題を負担増で解決しようと言う人は、負担増で余らせた貯蓄を、どんな投資で消化するかを考えないんだな。財政再建論者も同じこと。なんとか成長戦略とか、もやもや規制緩和とかで、自在に投資増を引き出せると思っている。具体策は、他人にお任せで、「どうすれば」がないところが共通だ。

  年金貯蓄のあまりの大きさに、筆者は過去をさかのぼって調べた。それは驚くべきものだった。例えば、1980年度の「減耗を差し引いた一般政府の固定資本形成」は10.8兆円で、GDP比は4.4%である。他方、社会保障の貯蓄(純)は5.9兆円で、その半分を超える。(数字は2009年確報) 当時は、需要不足を補うのに大規模な公共事業を余儀なくされていたのだが、何のことはない、年金保険料で家計から吸い上げたことによる消費不足を補っていただけだったのである。

 筆者には、こうした経験があるため、財政当局が発表する「赤字」を、まったく信用しなくなっとしまった。中央政府だけでなく、地方政府や社会保障を連結した「一般政府」という概念でなければ、日本経済の真の姿は分からないと覚ったからである。逆に言えば、日本の政策論議は、いまだに年金や財政のタコツボから抜けられていない。内閣府は官庁エコノミストを育てたいと聞くが、どんなエコノミストを育てるつもりなのかね。

 今日の経済教室は、猪木武徳先生で、貧困と格差の問題を扱っている。論考を読んでいると、エコノミストには、数値計算だけでなく、歴史や経済思想の教養が欠かせないと、改めて納得させられる。長い目でみれば、この10年、日本以外の世界では、成長はしても格差が広がり、それがつまずいた途端に問題が顕在化したように思う。

 実は、輸出によって高成長への離陸を果たした国は多いが、完全雇用と格差一掃にまで到達したのは、高度成長期の日本くらいのものである。なぜ、それが実現したのかは、歴史や経済思想を抜きには語れない。池田勇人や下村治に象徴される、消極を旨とする財政当局を押し切るだけの思潮がなければ、実現しなかっただろう。猪木先生は「高度成長」という歴史書も書いておられるのでね、懐かしさも含め、思い出してしまった。

 まあ、モデルばやりの昨今に、歴史や社会思想と言ったところで、響かないとは分かってはいる。今の日本には、かつてないほど、成長を信じず、「身を削れ」と叫ぶ思想が蔓延しているのだが、今を生きるだけの人には、社会思想が変化していることすら、感じられないのだろうなあ。

(今日の日経)
 世代間の試算・年金、50代半ば以下は負担超。年金抑制が急務、消費増税の格差是正は限定的。エネを問う・東電は身を削れ。核心・成長軽視なら袋小路に・平田育夫。経済教室・貧困と格差は時代とともに・猪木武徳。
ジャンル:
経済
キーワード
今を生きる 高度成長期 世代間格差
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