経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

アベノミクス・政治にできること、できないこと

2017年10月02日 | 経済(主なもの)
 また、「経済を良くします!」という絶叫を聞かされる時節となった。これにうんざりして「どうすれば、できると言うんだ」という筆者のつぶやきが本コラムのタイトルのゆえんだ。経済は作物のようなもので、伸ばそうと引っ張り上げたり、鍛えようと踏みつけたりしても、枯らすだけである。政治にできることは限られている。それを知らぬから、威勢の良いことが言える。

………
 8月の経済指標が金曜に公表になり、雇用は好調、消費は一服という結果だった。労働力調査では、男性の就業者数が前月比+10万人となり、昨年12月のピーク超えを果たした。雇用者数では-3万人だったものの、前月に次ぐ高水準である。この背景には、輸出を伸ばす製造業の求人増がある。下図で分かるように、昨年の後半から水準を上げ、医療・福祉を抜き、先頭に立って雇用を牽引するようになっている。

 他方、消費は、家計調査の消費水準指数が前月比で横バイ、同(除く住居等)だと前月の反動もあり-0.9となった。商業動態の小売業も同様に-1.7だった。しかも、CPIの財は前月比+0.3と高かったので、実質では更に低くなる。こうしたことからすれば、消費総合指数や消費活動指数の多少の低下は避けられまい。そうすると、9月が高めの伸びになるとしても、7-9月期は前期比横バイと考えるのが順当だ。

 4-6月期GDPでの消費の伸びは+0.9にもなったから、横バイでも十分に高い水準とも言えるが、正直、もう少しほしいところだ。消費総合指数の7月の改定により、4月が高く、5,6月が低くなったこともあって、横バイという見方にならざるを得ないが、更なる改定もあり得るため、注視したい。また、8月は財の上昇が前月比+0.3となって実質消費を低くしたけれども、CPIの東京は8月+0.6から9月-0.5になっており、揺り戻しも予想される。

(図)



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 家計調査の消費性向は、7月に大きく低下していたが、8月も大した反動増がなく、非常に低い水準となった。消費性向は、この1年程、フレが大きいが、長期的に眺めると、消費増税までは上昇傾向、増税後は低下、2016年半ばから上昇、そして、このところは頭打ちになっている。実は、こうした動きは、消費動向調査の雇用環境の傾向に似たものだ。所得に直結する雇用と消費の動きが似ているのは、自然なところだろう。

 少なくとも、消費増税をすると将来に安心して消費が増えるといった理論は、現実に合わない。むしろ、「景気が悪くなると、財布の紐が固くなる」という庶民感覚の方が正しい。消費性向と株価の関連を指摘する向きもあるが、消費動向調査の雇用環境と資産価値は、同様の傾向があるのだから、資産効果だけを考えるよりは、雇用も含む所得の環境によって、消費性向が変わると考えた方が良かろう。

 こうしてみれば、消費増税によって景気を悪化させることが、何重にも危険であることが分かる。理屈の上では、1%の純増税くらいであれば、経済運営の仕方もあるが、日本の当局のような「素人」ができる技ではない。「能がなければ、賭けはしない」というのも、生きる知恵である。「賭け」をせずとも、財政収支は成長に伴って着実に改善しているのだし、身の程を知らないことに挑む理由はない。

 そもそも、政治が経済運営でできることには限りがある。潜在成長率を上回るGDP比-1%ものデフレ圧力を緊縮財政でかければ、景気が悪化するのは当たり前だし、そうかと言って、まったく収支を改善しようとしないのも信用にかかわる。結局、GDP比-0.2%~-0.5%位の狭い範囲での選択になる。極めて技術的なもので、政治的争点には相応しくない。「経済を良くする」と主張したいなら、極端なことを争点にしてはなるまい。

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 「政治は可能性の芸術」とされる。然るに、この国では、可能性の乏しいことが経済運営の争点にされてしまう。とりわけ、消費増税先送りで景気回復をつかんだのに、これを捨てると訴えて国民の信を問うという行動は理解しがたい。経済の専門知識がなくとも、「今、上手く行っていることを、わざわざ変えない」という生活の知恵でも判断がつくのではないか。政治を囲むこの国の経済論議がリアリさを欠くがゆえに、こうなってしまうのだと思う。


(今日までの日経)
 製造業雇用1000万人回復。
コメント (1)
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