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アメリカ経済 アップデート その5 長期金利の見通し

2017年04月23日 | アメリカアップデート

  さすがの北朝鮮もいまのところおとなしくしていますね。山場は25日ですが、私は特に心配していません。トランプのシリア攻撃やISISへの巨大爆弾攻撃が効いているのでしょう。どうみても予測不能なのは金正恩ではなく、トランプです。トランプがこれに味をしめるとしたら、さらにリスクは高まるので、このへんにしてほしいところです。トランプリスクの顕在化は、金利に下方バイアスをかけると思って間違いありません。

   REAL CLEAR POLITICSという大統領選挙中にも引用した各種世論調査のおまとめサイトによると、シリア攻撃前のトランプの支持率の平均値が一時40%を少し割っていましたが、攻撃後は42%程度に若干回復しています。しかし彼の思惑ほどではなかったようですし、現在でもそれ以上には上がっていません。

 

  では、当たるも八卦の金利の見通しです。

  金利変動の要素は非常に多く、それらをすべて考慮するのは手間暇がかかりすぎますし、それをもってしても当たるものではないので、ここではトランプの政策実現見通し、GDPの長期推移、そしてFRBスタンスの3つを簡単に確認します。

  まずトランプの経済政策ですが、その要は「減税とインフラ投資で経済を活性化させる」です。両者ともに国家財政を悪化させる方向に作用し、金利を上昇させますが、トランプの皮算用はそれにより「経済が活性化すれば、将来の税収にはプラスで跳ね返るハズ」という皮算用です。トランプは最近「2-3週間以内に驚異的な減税策を発表する」と言いました。しかしスパイサー報道官はすでに「数週間後だ」と言いはじめ、財務長官のムミューチンですら8月までの税制改革は難しいと後ろ向きの発言をしています。

   インフラ投資も簡単には予算がおりません。理由は政権与党の共和党が、歴史的にバラマキ財政をきらう政党だからです。従って減税もインフラ投資も、それが簡単に国債増発にはつながらない、というのがトランプ政策に対する私の見方です。アメリカの新聞報道でも減税とインフラ投資は、トランプの目標のせいぜい半分程度が実現できれば上出来という見方が多いので、長期金利を上昇させるまでにはいたらないと予想します。

   次はさまざまな経済指標を総合したGDPの動きです。アメリカ経済は数字を見れば絶好調です。トランプが言うように失業者があふれているわけではなく、失業率は4.7%と最低水準にあり、インフレもFRBが利上げを何度かできる2%程度になっています。

   アメリカの景気拡大は金融危機からの回復後すでに8年目になりますが、その間にGDPがどれだけ成長したかを見てみます。ちなみに日本の数字も示し比較します。09年から16年までのアメリカの名目GDPの成長は29%、実質GDPの成長も15%を超え、日本はそれぞれわずか7―8%台です。

   名目成長をばかにしてはいけません。消費税収入などは、名目GDPに税率を掛けたものに近似しますので、とても重要です。

 

GDP     アメリカ 10億ドル      日本 兆円

     名目   実質         名目  実質  

09年  14,419  14,419      471    490

16年  18,562    16,656                  505    532

  伸率   29%   15.5%                7.2%   8.6% 

   日本との比較のため為替変動はありますが、1ドルを16年末の120円としてラフに比較しますと、アメリカの名目GDPは16年2,227兆円で、日本の505兆円の4.4倍です。アメリカは09年から16年までの7年間でGDPを約500兆円、つまり日本のGDP総額に匹敵するほど拡大させたのです。その間の日本は、わずか26兆円しか増やせませんでした。なさけないほど小さな数字です。実質成長率もアメリカは日本の約2倍も成長しています。それでも長期金利は低い状況を脱してはいません。

 

   トランプは「アメリカは雇用を海外に奪われているので、それを取り戻す」と言っていますが、失業者はあまりいません(笑)。私に言わせれば「アメリカは鉄鋼などに代表される重厚長大産業をあきらめ、ITなど生産性の高いハイテク分野にシフトしたので、雇用拡大に成功し、めざましい成長を遂げた」となります。

  トランプ当選の原動力はラストベルトの白人労働者層の支持を取り付けたことでした。では、この100日間でそれに対する有効な政策を示せたでしょうか。何も示していません。まあ彼らはコアの支持者なので100日であきらめることはないでしょうが、半年・一年経つとそうはいきません。

   鉄鋼業がアメリカに戻ることはありえません。16年の国別粗鋼生産量を以下に示します。粗鋼生産はスケール・メリットが大きい製品です。日本もアメリカも中国の後塵を拝しています。

1.    中国   808百万トン

2.    日本   105

3.    インド   95

4.    アメリカ  79

 

  アメリカがこの差を埋める手立てなどありえませんし、失業者の少ない今、必要もないと思います。今後トランプはアメリカの成長をどこまで邪魔できるでしょうか。ラストベルトに鉄鋼業など持ってこれるはずはないので、邪魔はできません。せいぜいワーキングビザの制限くらいがせきのやまでしょう。現在その大統領令もIT産業から猛反発を食らっています。

   GDPがたとえこれまでのように堅調に伸びても金利上昇は限定的だし、トランプのラストベルト対策などとうてい期待できません。

  では3つ目のFRBのスタンスはどうか。利上げは年内にあと2・3回あるかもしれませんが、必ずしも長期金利がFRBの利上げに連動するとは限りません。重要なのはむしろFRBのバランスシート縮小が年内にあるかないかです。

  現在のFRBは保有国債などが満期を迎えると、その償還資金と同額の債券を買い入れ、バランスシートの大きさは保たれています。つまり金利に対して中立の立場を取っています。しかしFRBの多くのメンバーは、今後年末にかけては償還される債券の補充はせず、自然にバランスシートが縮小するのを容認すべきだという考えを持っています。

  トランプは退任するFRBメンバーの後任に、緩和維持派の新メンバーを迎え入れる決断をしていますので、極端なバランスシートの縮小はないと見ておいた方がよさそうです。

  オバマ嫌いのトランプは以前、オバマと長く良い関係を保っていたイエレン議長を取り換えると宣言していました。しかし最近はイエレンのハト派姿勢を評価し「低金利が好きだ」と言いはじめ、前言を翻しました。もっともまたいつ考えを翻すか、見当がつきませんので、彼の言葉など無視しましょう。

  FRBの利上げを市場は年内に2~3回とみていますが、それでも長期金利は上昇していません。トランプラリーは長期金利にもありましたが、それはすでに半分剥げ落ちています。

   こうして3つの重要な要素を見ていきますと、長期金利の上昇余地は限られていることが見て取れます。

   そして最後に重要なのは「世界のカネ余り」です。日本しかり、欧米もしかり。最近新興国の経済が若干回復し、新興国市場へカネが回り始めています。しかしそれも相当程度アメリカの好調さによるところが大きいので、自力更生とまでは言えません。つまりそれがカネ余り状況を変えるところまでには至らないと思われます。

    まとめますと、

1. トランプの政策はどれをとっても実現性にとぼしく、部分的に実現できても金利上昇の大きな圧力にはならない

2. アメリカのGDPはトランプ以前に十分に成長しているが、その間金利は上昇していなかった。今後は景気のスローダウンに注意する時期にさしかかっているので、その場合金利は抑えられる

3. FRBの利上げはすでに織り込まれていて、バランスシートの縮小が現在の見通しより大幅でない限り金利に大きな上昇圧力はかからない

  そして世界の「カネ余り」に変化はない。

  従って今年中に3%を突破するのは難しいと私はみています。

以上

 

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10 コメント

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確認ですが (目白のおっちょこちょい)
2017-04-25 18:27:34
林様
こんにちは。目白のおっちょこちょいです。

> 従って今年中に3%を突破するのは難しいと私はみています。

ひとつ前の投稿で米国債10年ものの数字が出ているので、10年ものですよね?
「米国債を買え」では30年ものが前提として開設されていたと思いますので、念のため確認です。
目白のおちょこちょいさんへ (林 敬一)
2017-04-25 21:41:10
>ひとつ前の投稿で米国債10年ものの数字が出ているので、10年ものですよね?

そうです。
一般論で長期金利の話をしている場合、すべてもっとも流動性のある10年物金利の話です。

日本の金利の話でも、報道では一般的に長期金利=10年物ですよね。それと同じです。

専門家はどうもそうした説明が不足していますね。
反省!

>「米国債を買え」では30年ものが前提として解説されていたと思いますので

うーん、どこの部分でしょうか。
実際の投資の話で金利を少しでも多くもらう戦略では30年物と断りを入れ、例として使っていたと思います。

金利レベルの見通しなどの話はすべて10年物だと思います。
例えば著書で「フライト・トゥー・クオリティー」の話をしていますが、141ページの長期の金利推移のチャートは10年物の推移です。

近々トランプは大統領を首 (なおさん)
2017-04-29 22:20:32
になり、一度米国債はデフォルト、新アメリカドルが発行されるのではないかという予測をたてている元メリルリンチ、ゴールドマンを退職して投資コンサルタントを経営してる友人から指摘を受けました。友人の顧客は全て米ドルは売らせて現金化させてるみたいです。近々トランプは大統領を首になり、米国の財務状況は相当ヤバイみたいです。證券会社ではこんな事は顧客には教えないみたいですよ。先生はどうお考えですか?なにしろ米国債券は一度デフォルト、新米ドルが発行されて、米国株は不思議と高止まりすると予測してます。今一番買ってはいけないのが米国債らしいです。先生の意見をお聞き下さい。
Unknown (目白のおっちょこちょい)
2017-04-29 22:56:23
お返事遅くなりました。
やっぱり10年ものですね。了解です。

本に書いてある30年ものの話ですが、探してみましたがちょっと見つからず、ご指摘の通り確かB君の話の中だけだったかと思います。




なおさんへ (林 敬一)
2017-04-30 11:36:36
私はそのような意見は荒唐無稽と考えます。

大統領はどうしたら首にできるのでしょうか。

それをまずお聞かせください。
またまた杞憂にすぎない? (なんだかんだ)
2017-05-02 11:28:55
林さん、皆さん、
D証券で少しずつドル転してきました、米国債購入資金を半部ほどN証券に新たに口座開設をして移そうともくろんだところ、あまりの複雑さに断念しました!
N証券から指定されたドル受け口座の名義がN証券だったためD証券から送れず、新生銀行を経由して送金しようとしたら、「外為法が昨年改正され…」とかで、国内でも外貨を送金する際は、送金金額に見合った「出所」を証明する書類、例えば給与証明とか申告書を提出の上、送金目的を証明する、例えばパンフレットなどと合わせて、「店頭」に出向いて処理してもらう必要があるとか。
一旦、円転して送金する際はこれらの繁雑な手続きは不用との説明でしたが、その際のスプレッドや送金手数料、○千万分の証明書類を準備する手間をかけてまでのN証券での米国債買い付けにメリットを見いだせず、全額D証券で今後、秋までに購入していくこととしました。
が……またまた私の単なる杞憂でしょうか?
少しずつ少しずつ、あまり報道されずに、密やかに、政府はXデイに向けての下準備をしているような?
憲法改正しかり、「今を逃す手はない」と気勢を上げていました!
ホンとに日本は大丈夫かしら?証券会社で米国債を買っておくだけで備えはこと足るかしら?
すみません、いつもの心配性です。
元官僚の書いた財政破綻の本 (シーサイド)
2017-05-02 17:31:07
最近、香川健介氏が書いた「10万円からできる! お金の守り方教えます」という本を読みました。
彼は30歳で、霞が関の某省の官僚でしたが、霞ヶ関で日本の財政や社会保障制度に関して明るい展望を持つ人はほとんどいなかったそうです。

「現状のままだと、財政や社会保障制度は変なことになる。なんとかしたい」という思いで、現在は幅広い情報を世の中に発信して行こうと活動を始めたそうです。

彼は段階世代が後期高齢者になり始める2020年前後が危ないと考える学者が多いものの、金融市場は変化を先読みをし、未来を早めに織り込む性質があるので、危機はもっと早く起きるかもしれませんと、述べています。

また財産税については日本は租税法律主義だから強引なことは出来ないだろうと元官僚らしい判断をしています。

ユニークなのは本の出版とあわせて、「財政破綻兆候通知速報」というものを始めました。いよいよ財政破綻が明日起きそうだというときなどに、登録者の方にLINEやメールで連絡してくれるそうです。
無料なので興味のある方は@zaiseihatanで検索、登録してみてはいかがでしょうか。

個人で日本国債CDSの情報を得るのは難しく、確かブルームバーグだと月額20万円くらいかかると思います。(笑)
なんだかんださんへ (林 敬一)
2017-05-02 18:38:09
口座間のドル送金は、ずいぶんと面倒になっていますね。

ご苦労様です、とひとごとではいけないのでしょうが、お上には逆らえませんね。

>少しずつ少しずつ、あまり報道されずに、密やかに、政府はXデイに向けての下準備をしているような?

外貨に対する一連の規制はXデイ対策ではなく、租税回避防止措置からの流れだと思います。

もっともそれも含めて予防線だと言えないこともないでしょうが、ちょっと深読みしすぎだと思います(笑)
シーサイドさんへ (林 敬一)
2017-05-02 18:39:26
元官僚の書いた本の紹介、そしてJアラートならぬ、JGBアラートの情報、ありがとうございます。

面白い試みですね。

とここまで書いて、「財政破綻兆候通知速報」より絶対「JGBアラート」のほうがいいネーミングだと自画自賛(笑)。
Unknown (なんだかんだ)
2017-05-02 21:22:46
林さん、
そうですね…少し飛び過ぎましたね!しかしながら未來に起こりうる不確定要素はいつも不安なもの。時間があるうちに出来る限りの備えをして、やり過ごすこととします。その上で何事もなければ、やれやれと胸を撫で下ろすことに……。
シーサイドさん、
いつも有益な情報をありがとうございます。
シーサイドさんの視野の広さに感服しています!

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