希望の党が混乱を極めていますね。いくらなんでも選挙までの時間がなさすぎでしょう。判官びいきで枝野新党がある程度の支持を受けそうだという分析がされていました。いずれにしろこの1週間で自民党へのユリ戻しがあったようで、選挙民の投票行動の調査で、希望の党はかなり後戻りしています。選挙観戦者としては面白さが半減しています。
一方、アメリカではラスベガスの銃乱射事件一色ですが、マスコミは犯人像探しとともにトランプの銃規制反対姿勢をこぞって非難しています。その中にありながら金融市場は株高一色で、社会的混乱と快調な市場のコントラストがとても目立っています。アメリカについては、また別途アップデートします。
さて、ここまでの本題の議論をレビューします。2019年というのはカギを握る年になるのは間違いないのですが、そこで財政破綻が起きる確率は5分5分くらいだと申し上げました。その理由は、
その1.国債の枯渇に対して日銀は買い入れ額の減少で延命をはかる
ただし市場はこのミエミエの延命措置で満足するかは怪しい
その2.経常黒字が継続している
つまりファンダメンタルズは悪くない
という2つの点です。
では、その時点で破たんが起こらないとして、いったい何をきっかけ、いつ頃破綻が起こりえるのか? 当たるも八卦でそれを占ってみましょう。
これまで指摘した最大のポイントは、日銀の信認喪失。それがトリガーになりうると言うことでした。今後さらに安倍政権が続いたとしても、いつまでも続くわけではありませんし、小池新党による揺さぶりも短期的なものではなさそうです。そして両者ともに財政再建は二の次にしているので、どちらが政権を取っても大きなかわりはありません。
今回自民党が勝って政権を維持したとしても、安倍・黒田体制には必ず終わりが来ます。安倍首相が自民党総裁3期目を実現したとしても、任期は21年までの話です。そこまで日銀の黒田総裁がもつかわかりませんが、もったとしても安倍首相の任期切れとともに日銀を去ることになるでしょう。
それまでに日本経済が目覚ましく回復し、財政問題が解決の方向に向かうとは思えません。本来であれば今後の日本を巡る問題では最大の懸案である財政再建が、選挙の論点に入っていません。消費税をどうするという議論は枝葉末節で、財政再建に向けた長期戦略こそ本命なのに、どの政党もそれを避けています。こんな選挙では、国民の漠然とした不安はぬぐい去ることはできないでしょう。
安倍首相、黒田総裁の二人はいずれ財政の巨大な累積赤字と、それをファイナンスし続けた日銀に国債の山を残して去ることになります。安倍首相は今回の解散宣言の大義を無理やり作るため、消費税値上げで作る財源を財政赤字の穴埋めに回さず、教育無償化政策などの実施で大半を使うとしています。消費増税を先延ばしすると宣言している小池氏の政策も財政再建にはよりつながりません。
そして、かねてから何度も申し上げていますが、異次元緩和の最大の欠陥は、失敗すればもちろん、成功してもインフレ率が上昇すると当然金利が上昇し、日銀の抱える国債の価格が暴落して事実上の破綻に追い込まれることです。成功しても失敗してもダメなものはダメ、それが国債爆食の異次元緩和なのです。理由は単純で、累積赤字が大きすぎるから。その大半を日銀が抱えると言う禁じ手を実行してしまったからです。
一方、アメリカのFRBも欧州のECBもゆるゆるの緩和から引き締モードに転換しつつあります。世界的に物価は落ち着いたままなのですが、どこも不動産価格などの資産価格の上昇が起きていて、それが引き締めモードを加速させる恐れがあります。中央銀行は資産価格の上昇をいつまでも放ってはおけません。アメリカで言えばFRBは資産圧縮を始めるだけでなく、年末にはさらなる利上げに踏み切る可能性が高く、それが日米の金利差になって為替レートに跳ね返ります。
為替相場は介入だけで阻止できるものではありません。円安に対処するには短期的には円買いドル売り介入を続け、長期的には金利差をつめるための利上げが必要となりますが、日本では超緩和策が金融経済構造に組み込まれてしまっているため、その巻き戻しが始まるというニュースだけで金融市場には激震が走ります。
そして忘れてはいけないのが海外投資家の動向です。今回の選挙でどちらが勝とうが財政再建に踏み出さないため、今後ありうる格付けの引き下げに海外投資家は反応する可能性が大きいのです。安倍首相はすでに「20年プライマリーバランスの回復は国際公約ではない」と逃げを打ち始めました。もともと海外に対しそれを演説でコミットしているので国際公約そのものなに、前言を翻しています。
しかも世界の3大格付け会社はいずれも日本はシングルAとしていて、あと2段階から3段階の格下げでどれもがトリプルBに陥落します。トリプルBとシングルAは投資家にとっては大違いです。たとえシングルでもA格である場合とそれ以下のトリプルBでは、投資家の投資態度は大きく違うため、従来買っていた投資家の手が引っ込むのです。もちろん実際にはその一歩手前ですでに日本国債の本格売却が開始されます。シングルAにはA+、A、A-と3段階がありますが、A-になったとたん、BBBに下落するリスクを感じて売りに回る可能性が強いのです。すると日本国債の価格は金利上昇分の価格下落以上に、海外投資家の売りによる価格下落に見舞われます。
政府が為替で攻防戦を戦っているとき、日銀は国債暴落の防戦を強いられ、信用力に疑念が生じる。それを見ている国内機関投資家や一般の人々が、自分の資産価格の下落に何もせずにいられるか、はなはだ疑問です。
一方、日本経済のファンダメンタルズは、団塊の世代全員が70歳代になると本格的に労働市場から退出しはじめますが、それまでに残された時間はあと5年程度です。
ファンダメンタルズのよさを頼っていた「その2.経常黒字が継続している」という切り札に赤信号が灯ります。
当初述べた19年から20年に破綻の起きる確率が5割程度で、結果として起こらなかったとしても、それにさらにファンダメンタルズがじわりとダメージを受ける人手不足が積み重なるのがおよそ5年後、つまり2022年前後ということになります。それに続けてさらに2・3年後、つまり2025年前後には団塊の世代がいわゆる後期高齢者の段階に入り、その後要介護段階に至る人たちが激増する可能性が高い。それにより医療・介護費用が爆発し、財政は立ち行かなくなります。
日本の場合、団塊の世代は常に社会的大変動の火種なのです。ちなみに団塊の世代真ん中の私は現在67歳で、8年後の2025年には後期高齢者の仲間に入ります。あいすみません(笑)
以前、衰弱死でコメントさせて頂きましたが、様々な要因で単純に財政破綻に至らないため、衰弱死という言葉に象徴されたと理解しております。
日銀の国債爆買いで市場の体温計は失われたと言われますが、直近の金利操作では体温計が壊れたというよりは外されたと考えます。衰弱死でのコメントである冬眠を訂正させて頂き、死んでいるのか生きているのか分からない状態で延命を計っておりましたが、現在は確実に死んでいるに訂正致します。
その理由は、金利操作が国債暴落時の国債購入を金利上昇を抑える為の大義名分になると懸念するからです。完璧な財政ファイナンスに陥ると思っております。
この考えは独りよがりと思っておりましたが、朝日新聞の10月 12日の15面の衆院選関連の記事に興味深いものを見つけました。
「物価至上主義の愚 市場ゆがめた日銀 旗降ろせぬ総裁」 元日銀金融研究所長の翁邦雄さんの話です。翁さんは日銀の調査課長時代の1990年初め、当時学者だった岩田さん( 現日銀副総裁 )と日銀がマネタリーベースを増やせば、必ず物価は上がるという貨幣数量説に反論し、世に言う「 翁・岩田論争 」行った人とのことです。
その翁さん主張は、「 このまま日銀が国債を買い支え続ければ市場の機能は死んでしまうので、国債暴落は起きないかもしれない。ただ、そのとき為替市場など他の市場がどうなるか見通せません。私は最悪のケースでは、円が暴落するのではないかと心配です。 」とのことでした。
直接の言及はありませんが、完璧な財政ファイナンス、日銀の信任の喪失、円の暴落を意味すると理解致しました。
他に新発の国債が売れなくなるという問題が先に来ると以前は思っておりましたが、日銀の金利操作により消滅いたしました。何れにしても、冬眠による仮死状態、衰弱死、死亡を隠蔽している状況が訪れるということではないでしょうか。
幸いなことは、朝日新聞の記事の円の暴落でも、皆様はストレスフリーということです。