ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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アメリカの金利見通しについて、その4

2014年12月18日 | 2014年の資産運用
  このブログの100万アクセス達成に、多くの方から暖かい言葉をいただきました。誠にありがとうございます。それを励みに今後もしっかりと続けて行きたいと思います。 

  為替市場ではドル円レートは私が不安視していた124円の安値まで到達せず、一息ついています。ドル転を考えていた方にはチャンスですね。為替ではほっと一息でもそれが株安につながるので、アベチャン・クロチャンはきがきじゃないでしょう。

  さて前回の記事では原油価格の下落インパクトについて私のコメントを書きました。そのまとめをおさらいしますと、

1.原油価格下落の最大の被害者は産油国であって、消費国ではない。つまり中東・ロシア・ベネズエラ・ナイジェリアなど

2.原油価格下落の最大のメリット享受国はアメリカ、EU、日本、中国の経済大国をはじめ産油国を除く全世界

3.経済問題以外で最悪の紛争解決に神風が吹いてきた。世界の火種である中東、ロシアの力を削ぐ神風が吹き、民主的諸国の力が増大するのは日本・アメリカ・EUを始め自由諸国にとって最高のプレゼント


  そしてみなさんに商品相場の先見性について述べていた中、10月20日の記事ではこんなまとめを私は書いていました。

引用します。

・世界経済がスローダウンしてきているがその兆候は国際商品価格の低下が先取りしていた
・エネルギー価格の低下は、世界経済にとって大きなメリットである
・アメリカのシェール革命はオイルより天然ガスが先行していて、原油価格低下はメリットのほうが大きい
・原油価格低下は石油生産国発の地政学的リスクを抑える効果を持つ


ということで、世界経済のスローダウンは心配されますが、先行する国際商品価格の低下はそれを緩和する力を持っていることを頭に置いておいてください。

引用終わり

  実は同じようなことを述べていますが、この時の原油価格は80ドルちょっとでした。現在は50ドル台の半ばまで下げています。80ドル台と50ドル台ではかなりの差があります。50ドル台はアメリカのシェールオイルの平均的コストを割り込んでいるとみられるため、心配される方もいらっしゃるかもしれません。そして先行きの原油価格についてはリーマンショック後の安値である40ドル台を予想している向きもあります。それでも本当に世界経済は心配ないのでしょうか。

  それについて私の説明を追加しておきます。一言で言えば、「たとえ40ドル台になっても大きな心配はいらない」です。

  理由を説明します。

  最近世界経済を震撼させたのはリーマンショックです。それをおさらいしながら解説します。そもそもリーマンショックとは何だったのでしょうか。リーマンの破綻というキーワードは象徴的に使われているだけで、もともとはサブプライムローンを証券化した投資商品のバブルがはじけ、それに乗っかていたアメリカ経済のバブルが崩れ落ち、ヨーロッパの不動産バブルも崩壊。投資商品を買っていたアメリカと世界の投資家が甚大な被害を受け実体経済もそれに引きずられたのが、リーマンショックです。

  今回の原油価格の暴落がリーマンショックと同じ様な轍を踏む可能性はないのでしょうか。

  リーマンショック時の原油価格は、サブプライムローン問題が表面化した07年から逆に徐々に上昇がスタートして、リーマンが破綻した08年9月の寸前まで実は大バブルを形成しました。07年のはじめに40ドル台でスタートした価格はわずか1年半後の08年夏に140ドルを超えたのです。「株式よさようなら、商品よこんにちは」と言っていたあの伝説のトレーダージム・ロジャースが泣いて喜んだ暴騰でした。それがショック後わずか半年で100ドルも暴落し、また40ドル台に舞い戻ったのです。

  世界経済は原油価格の100ドルの暴落で落ち込んだのではなく、もっともっと大きなサブプライム問題があったから大きく落ち込んだのです。それこそが私が「たとえ40ドル台になっても心配はいらない」と言っている根拠です。今の世界はサブプライムに匹敵するような大バブルなど抱えていません。

  数字で見てみましょう。例えばロシア経済の崩壊など、世界から見れば小さな問題です。その経済規模はもともとイタリアとかブラジル並みの2兆ドル程度で、今回のルーブルの崩壊で為替が半分になったとして換算をすれば1.3兆ドルの韓国より小さくなった、という程度のことなのです。ちなみにアメリカは17兆ドルとロシアの8倍以上です。

  その他の産油国は規模から言えばロシアの比ではなく、全部合わせてもロシア一国に満たないという程度の規模なのです。

  この原油価格の暴落が10兆ドル規模の中国経済の破綻を引き起こしたなどとなれば話は別ですが、中国は原油価格の暴落でメリットを受ける側です。アメリカしかりヨーロッパしかり日本も同じメリットを受ける側にいます。ですので、

  「リーマンショックのない単なる原油の暴落など全くこわくない」のです。

  原油価格があまりにも大きく動くので、金利の話からずれてしまったようですが、実はこうした資源価格下落の影響はインフレ率の低下を通じて金利に影響を及ぼしますので、しっかりと見ておく必要があります。私が「金利上昇の最大のリスクになるのはこの物価だろう」と言っていることの核心部分でもあります。

  12月のFOMCの結果が今朝発表されました。大きな変化はありませんでしたが、次回こそその解説を含め今後の物価と金利の話をしたいと思います。

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5 コメント

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Unknown (Owls)
2014-12-18 19:55:29
こんにちは
いつもお題を楽しみに拝見しています。

さて、このまま順調に進めば来年には
アメリカは利上げをしそうな情勢です。
そうなればアメリカ経済完全復活を内外に
高らかに宣言したことになります。

そうなった場合、今までは世界最悪の政府債務と
驚くべき異常な日銀政策で国債消化をしてきた
日本の円と日本国債の評価はどうなりますか?

今まではアメリカにもリスクがあるから日本の
円と日本国債が過大評価されていたと思います。
それがアメリカ経済が順調ということとなれば、
薄々は危険通貨・危険資産と思い始めていた
円と日本国債への懸念は高まらないでしょうか?
Owlsさんへ (林 敬一)
2014-12-20 12:37:50
アメリカの復活と日本国債の評価が直結しているとは思えません。

客観性のある相対評価は従来から格付け会社が大きな差を付けているとおりだと思います。

日本財政や国債のリスクについてはいずれ本文で取り上げたいと思います。しばしお待ちを。

Unknown (Owls)
2014-12-20 14:10:41
こんにちは。
ご返答ありがとうございます。
楽しみにしております。

ルーブルの急落には驚いてしまいます
1日で14%だか下落したとか。ロシア人の中には
ルーブルをドルに換えようという人がいたとか。

やはり有事の時はドルなんだと再確認しました。
安倍政権が狂ったように財政再建の放棄と
バラマキをやろうとしています。非常に日本の将来が
心配でなりません。
現在の水準では? (kazu)
2014-12-20 17:08:59
毎回楽しみにしている60代男性です。

小生、米国国債を買う時を待っていましたが、その間に円安が進み120円前後になりました。現在の水準でドルを買っておき、来年の米国金利UPの時に、米国債を購入と考えておりますが、林様のお考えは、如何かと思いご連絡いたしました。

宜しくお願い致します。
kazuさんへ (林 敬一)
2014-12-22 21:31:05
私のブログを楽しみにしていただき、ありがとうございます。

>現在の水準でドルを買っておき、来年の米国金利UPの時に、米国債を購入と考えておりますが、林様のお考えは、如何かと思い・・・

ちょうど本文でアメリカ金利のお話をしていますので、そちらを参考になさってください。おねがいします。

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