ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

大丈夫か日本財政17年版 その16 日銀保有の国債はどうなる 12

2017年08月21日 | 大丈夫か日本財政

  大丈夫か日本財政の17年シリーズがまとめに入りました。前回のまとめ2をおさらいします。ポイントは、何故日銀による国債の爆買いを許し、今日まで至ってしまったかの原因追求でした。それは、

1.欧米における金融危機への中央銀行の対応が、国債の爆買いを正当化した

2.日本は危機ではなかったのに「デフレ克服」を目標に日銀が国債を爆買いしたが、それを表立って非難する有力者がいなかった

3. 市中に国債が枯渇しはじめても日銀は爆買いをやめず、事実上政府が発行する国債を直接買い付けするまでに至っている

 

  日銀による国債の爆買いを私は自己増殖バブルと呼んでいます。バブルは自己増殖型のバブルが一番怖いのです。どういうことか。

  グリーンスパンの指摘したアメリカの「債券バブル」について異論を述べた中で、債券のバブルはアメリカなどではなく、日本にこそあると主張しました。

  だいぶ以前ですが、そもそも「バブルとは自己増殖作用を伴うものが一番危険だ」という説明をしたことがあります。その時に使った例はもちろん日本のバブル時代の例ですが、

1.バブルに踊った人たちは不動産を買いまくって価格を上げ、それを担保にしてもっと借り入れ、さらに不動産を買うということを繰り返し、巨大不動産バブルを形成した

2.企業は自己株式を「特金・ファントラ」を作って買い、価格を上昇させ新株発行をして資金を得、さらに「特金・ファントラ」を組んで自己株式を買い進むということを繰り返し、巨大株式バブルを形成した

 

  これを現在の日本の財政金融政策に当てはめれば、

  「累積赤字を積み上げる政府に対し、政府と一体の日銀が国債買いでファイナンスを付け、低金利にし、それをよいことに政府はさらに国債発行をし、巨大国債バブルを形成している」

  これも見事なまでの自己増殖メカニズムによるバブル形成です。こうした自己増殖のメカニズムは永久に続くことはなく、いずれはピークを迎えるし、危険を察知された瞬間から崩壊が始まります。

  では危険のシグナルはどこに出るのか。

  私は日銀の信用力低下に出ると思っています。では、それを察知するのは誰か。まずはヘッジファンドなどで虎視眈々と日本国債売りを狙っている連中です。内外のヘッジファンドでもイベントドリブン型のヘッジファンドのマネジャーは、崩壊のカギを握る可能性があります。イベントドリブンとは、財政破綻や戦争勃発などのイベントを相場変動の材料に使って儲ける人たちです。

  そして翼賛会に属さないエコノミストなどです。海外のエコノミストなども日本の株やさんちのエコノミストとは違い、客観的に判断できるため警鐘を鳴らしやすい。内外ともに株価崩壊を恐れる株屋さんたちは一番ダメです。大政翼賛会に最後まで留まるでしょう。そして今はアベノミクスを支持しているIMFなども、奏功しないとなれば警鐘を鳴らす側になる可能性があります。

  また格付け会社も早期警戒警報を発令するでしょう。すでにシングルA格になっている日本国債は、トリプルBに下がったとたん、非常に多くの投資家を失います。トリプルB格は名目上投資適格の範疇に入る格付けですが、投資家から買ってもらうためには、かなりの上乗せ金利が必要になります。

  今でも全税収の3分の1が、国民の福祉ではなく利払いなどの「国債費」に使われていますから、金利の上昇により国債費が増えると、本来の財政支出に使えるお金が不足します。するとますます多くの新規国債を発行しなくてはならなくなり、これぞ悪循環そのものになるのです。それがさらなる格下げにつながります。

  そのころには日本国債の破綻に保険を掛けるCDS=クレジット・デフォルト・スワップの保険料が跳ね上がり、保険を売っていた金融機関が破たんに追い込まれる可能性がでます。それを政府が救えるか?自分がすでに追い込まれている政府に救済は無理です。救えないと金融機関の連鎖破たんで、収拾がつかなくなる可能性も出ます。それもこれも、日銀による無理やりの救済となるでしょう。

  そうなると日銀は出口どころではなく、ますます国債を買いまくり、政府が新規発行する国債もすべて飲み込まざるをえません。円の信用は地に落ち、暴落します。

  ある方から「日銀の信用力の崩壊とは何か?」という根本的な質問を受けました。質問をもっと率直に言えば、「信用力崩壊なんて、本当にあるのか」という疑問です。

  あります。簡単な例で説明します。

  大赤字を垂れ流し債務超過に陥っている超巨大会社を、たった一つの地方銀行が支援していたら、銀行も当然おかしくなります。それが銀行の信用崩壊につながるのは理解できると思います。国とのサイズ比較から言えば、日銀は信用金庫くらいかもしれません。

  日本株式会社をまともに支援しているのは、いまや日本銀行だけです。都銀・地銀・ゆうちょ・生損保、いずれも国債を資産から降ろしてしまい、支える側ではなくなっています。

  破綻しない派の人たちはそれを見ても、「巨大な日本国は会社でないので大丈夫だ、日本銀行はおかしくなんかならない」と言っているのです。だったらいつも言うように、

  「税金なんか徴収しなきゃいい!」(笑)

  おカネがなくなると国は会社と同じで何もできなくなります。行政機能はストップし、役人に報酬を払えません。アメリカ政府はしょっちゅうそれで綱渡りをしています。

なお次のアメリカ・サーカスの綱渡りショーは、来月開催です(笑)。

 

  こうしたことは、実はまとめその1で指摘した以下の、⑤につながっていきます。それは、

   異次元緩和政策の信頼性喪失

   出口のない日銀政策の後始末問題がアベノミクス不信へも波及

①     国債先物市場で売りが優勢となり、悪い金利上昇が生じる

②     日銀の信頼喪失と財政再建赤信号から日本からの資本逃避が起こり、円の暴落を招く可能性が大きくなる

   それがいつごろに起こるかを的確に予想するのはとても難しいのですが、次回は当たるも八卦で、それに挑戦します。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする