私は今後の世界を震撼させる可能性のある脅威は、以下の3つだと見ています。
1. 英国のEU離脱=BREXITからEU崩壊
2. 中国の政治経済メルトダウン
3. 日本の財政バブル崩壊
先日、トランプに勝ち目はあるかの解説を書いていますが、その最後に「トランプは勝てないのでアメリカが震源地になることはなく、BREXITのほうがよほど大きなリスクだ」と書きました。やはりこの問題は世界的に大きな問題になっています。
英国の離脱の影響について、エコノミストからいろいろな予測数値が出ています。もっとも悲観的数字を並べますと、
・日本のGDPを0.8%押し下げ
・ドル円は100円に下落
・日経平均は13,000円に下落
かなり衝撃的な数字が並んでいます。
しかし私が考える本質的な悪影響は、そうしたある意味一過性の金融市場への影響ではなく、もっともっと深刻だと思っています。それがどこに出るのか、
一番は、戦後長期間かかって築いた欧州内の平和維持システム
二番は、同じく長期間かかって築いた経済の相互依存システム
こうした営々と築き上げたシステムに甚大なる悪影響を及ぼすと思われるのです。
EUからの離脱問題は一昨年ギリシャでも起こりました。その時の私のコメントは、すでに国民投票でチプラス首相への支持が上回っていた時点でも、「離脱など絶対にできっこない」というものでした。理由は、「国民は通貨ユーロから離れられないし、政府はEUの支援なくして国家運営ができないから」です。
それに比べると英国の離脱問題は、簡単に離脱などできっこないと断言できません。何故なら英国は通貨ユーロを使っていないし、EUの支援なくしても国家運営ができるからです。
みなさんは英国の前に前哨戦があったことはご存知でしょうか。EUの小国、オーストリアにおいてです。5月の大統領選挙で極右の候補と緑の党の候補が大接戦を演じ、なんとわずか1,000票の差で穏健派の緑の党候補が勝利したのです。極右の候補はEUに懐疑的で、もちろん移民に大反対です。欧州の極右勢力はどこの国においても、本当に要注意のところまで到達しています。
では英国の国民投票のブレークポイントは何か。
私は5月にアメリカ大統領の戦いは、「良識派対非良識派」の戦いで、トランプは勝てないと申し上げました。英国の場合はどうか。失礼の段はお許しいただきストレートに言えば、「知性派対反知性派」の戦いだと思っています。
もちろんこれは、「ラフに言えば残留派には知性的な人が多く、離脱派には知性的でない人がより多くいる」という程度の話で、知識人でも離脱派は大勢いますし、逆も真なりです。
オーストリアの公共放送ORFの以下の分析を参考にしてみましょう。『主要10都市のうち9都市で穏健派が優勢だったが、農村部では極右派が圧勝した。特に肉体労働者の9割近くが極右派を支持した。一方で、大卒その他の高等教育経験者は穏健派の支持が多かった』。こうした図式が英国でも当てはまるように思えます。
アメリカ大統領選挙で両者の識別に使った良識派対非良識派とは似ていますが異なります。何故なら英国で離脱派を主導する人たちの言動の中に、トランプの主張のような暴言はないからです。トランプは「メキシコ国境に万里の長城を作って、カネはメキシコに払わせる」とか、宗教差別や男女差別のような暴言を吐き続けています。
英国の離脱派には若干トランプに似てポピュリズムの旗手と見られているボリス・ジョンソンがいます。元ロンドン市長で現在は保守党の議員ですが、次期保守党党首最有力候補です。離脱のメリットを叫び続けますが、トランプほどの暴言は吐いていません。
残留派は思わぬほど苦戦しています。その理由は、離脱派の主張が「反移民」とか「EU分担金はNO」とか、とても分かりやすいワンフレーズであるのに、残留派の言い分は長たらしい説明にならざるを得ないからです。
反移民は何故いけないか、分担金は何故必要かなどは、かなりの長文で説明する以外、簡単には説明しきれないためアピール力に欠け苦戦を強いられているのです。
さらに「EUは英国の独立を奪い、非民主主義的である」というような単純な主張に対し、そうでないことを即答することは極めて難しいのです。
ではその長たらしい説明を理解しようとする知性派と、分かりやすいワンフレーズにしか反応しない反知性派の戦い、勝負はどうつくのでしょうか。
私の見通しを率直に申し上げますと、最後は残留派の勝利に終わると見ています。以下その理由を説明します。
長たらしい説明は避け、簡単にいきます。
・反移民に対してはキャメロン首相がEUから移民の人数を漸減させる合意を得ていること
・経済的メリットとデメリットは、個別の分野の積み上げを総合的に計算すると明らかに残留に軍配があがること
・離脱派が勢いを増すごとにポンドとロンドン株式市場がひどく下落していること。特にロンドンは欧州の金融拠点であるため、金融機関の株価下落がきつい
・EUが英国の独立を奪い、非民主主義的だという点に関しては、EUが見せたこれまでの譲歩が一方的にEUの独裁ではないとの根拠になっているが、これは数字では明らかにできないため、白黒はつけがたいと思われます。
これらの理由により、最終的には残留に軍配が上がると思っています。
では最後に国際政治と地政学上のリスクの専門家で、私の尊敬するイアン・ブレマー氏に聞いてみましょう。彼は先週、英国の国民投票に以下のようにコメントを付けています。
『離脱派はポリュリズムに傾斜し、現状への不満や不安を利用した扇動に走っている。英国が離脱したら大きな打撃をヨーロッパだけでなく世界の経済や政治に及ぼす。移民問題や、貧富の格差、そして不安が英国民を内向きにさせている。離脱派はEUに政治的なメリットを見出していないし、ユーロという通貨にも懐疑的である。もともと英国に欧州への忠誠心はないため、EUに残るメリットは経済メリットのみである。
しかしそれらとてもは狭い了見だ。もっと根本問題に目を向ける必要がある。最後は残留派が勝つと思われるが、たとえ勝ったとしても僅差だと政治的混乱は解消しない。55対45くらいで決まれば、かなり落ち着くだろう。』
彼の分析はいつも鋭く、毎年年初に「今年の世界の十大リスク」を発表しますが、注目に値する予測です。
ということで、最後は私の見方をイアン・ブレマー氏に補強してもらいました。来週、23日には結論が出ますが、しっかりと注目していきましょう。
以上です。