今日のうた

思いつくままに書いています

夢の地下工場

2016-12-23 08:36:57 | ⑤エッセーと物語
この物語は東アジアにある『サンライズ』という国の、『クマ』という宰相の物語である。

昼食の後片付けを終えてパソコンに向かう。圭子の至福の時間だ。
ブログを始めた当初は短歌がメインだったが、最近は政権批判が多い。
『クマの、クマとそのお友達による、クマのための政治』――とでも言いたくなるような
ふるまいが、どうにも許せないのだ。
そのこともあって執拗なサイバー攻撃を受けている。
だが、そんなことで怯(ひる)むような圭子ではない。

今日も、世界一の大国、『ライ麦国』の『トラヴル大統領』とクマとの、自己愛に満ちた
ツーショットを見ながら、どうやって調理してやろうか考えていた。
と、突然パソコンの画面から毛むくじゃらな太い二本の腕が伸びてきて、
いきなり圭子の両脇をグイと掴んだ。そしてパソコンの画面の中に引きずり込もうとする。
「アレ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

ガシャンという音とともに、物凄いスピードで体が暗い空中を移動してゆく。息が出来ない。
目の前がチカチカし出した時だ。ドスンと床に投げ落とされた。
辺りは真っ暗で物音一つしない。(落ち着け落ち着け)、と自分に言い聞かせて深呼吸する。
ひんやりしているところをみると、地下空間のようだ。
二、三メートル先にかすかに明かりが漏れている部屋があった。
中を覗くと、歯医者の治療チェアを倒したような椅子に男が横になり、
マスクをした女から、増毛した髪のアフターケアを受けていた。
そして別の白衣の女は注射器を片手に、男の皮膚のたるみをチェックしていた。

その時だ。奥のドアから高齢の女性が現れて、子供に言い聞かせるように男に話しかけた。
「今日の答弁はよく出来ていましたよ。でも一つだけ、また早口になってしまいましたね。
ひと言、ひと言、おじい様になったおつもりで、堂々となさるのよ。
あの世でおじい様もお喜びのことでしょう。
さぁ、明日の答弁のメモリに入れ替えましょうね」
そう言うと女は、男の髪の生え際にある突起を押した。
すると男の頭がパカッと二つに割れて、配電盤のようなものが見えた。
圭子は恐怖で声を上げそうになり、慌てて逃げ出した。
(なんであんなところに、クマがいるの……)

三百メートルは走っただろうか、階下に明かりがうっすらと見えた。
下を覗くと、机が所狭しと置かれ、同じ服を着た数十人の男たちが凄まじい勢いで
パソコンのキーを打ちまくっている。スピーカーから怒鳴り声が聞こえてきた。
「クマ様を攻撃するような不届き者には、徹底的にダメージを与えよ。
 どんな手を使ってもかまわない。二度と立ち上がれないように、打ちのめせ!」
(ここでサイバー攻撃していたのか……)

「おい、誰か上にいるぞ。捕まえろ、絶対に逃がすな」
(しまった、気づかれた! 捕まったら殺される)
圭子は転びながら走った。出口がどこにあるのか分からずに、走りに走った。
息が切れて意識が朦朧としてきた。

と、その時、メールの受信を知らせる音がした。
重い頭を上げると、そこには見慣れたスクリーンセーバーが頼りなく動いていた。
(この物語は全てフィクションです)


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