泡盛なかゆくい

第一期・泡盛マイスターがお届けする、沖縄やアルコールに関する日々雑感。

十五年めの萬座

2005年10月08日 | 泡盛
毎年、10月8日は、我が家の甕を開けて泡盛の熟成をテイスティングする日です。十五年めを迎える今年はうまく週末にあたったので、昼間からゆったりと味わえるというわけです。わずか(?)三升甕ですので、毎年のようにパカパカ抜いてしまうとあっという間になくなってしまうので、本当にテイスティングのためだけに必要な量をちょっぴり抜くようにしています。今回は、だいたい1合のカラカラに1/4ぐらいを抜いてみました。ちびちびやるために壺屋で買っておいたかなり小さいおちょこで、いよいよテイスティングです。これぐらい小さいと、稀少性の高さが演出できるかなぁと思ったりしています。

十五年古酒となる萬座は、昨年よりもさらにアタックがまろやかになっていて、独特の香ばしい風味の角が一段と取れていることが伺えます。どこまでも深くやわらかくその甘い香りはバニラ香と表現するのが正しいのかもしれませんが、風味の香ばしさと相まってミルクチョコレートのようです。新酒と対比すると甕熟成の効果は歴然としています。とても43度もあるお酒とは思えないぐらいのまろやかさです。

甕の蓋をあけると部屋一杯に甘い香りが広がります。なみなみと入っている萬座で顔を洗いたくなるぐらいです。といっても、蓋をあけるのは柄杓ですくう数秒の間だけです。部屋で舞っている埃が入ったり、雑菌が入り込んでも困るからです。カビとか心配なことも多いのですが、十五年めの萬座は無事な様子でした。瓶熟成だったら何の心配もなく寝かせられるのですが、甕熟成はやっぱり多少は気を使います。私は甕本体と蓋の接触面の部分にラップを使って密封するようにしていますので、このタイミングで新しいラップに交換します。開封して、また閉じるまで、慎重かつすばやく行うのも、ずいぶん慣れました。

同じく寝かせることで熟成が進むワインもそうですが、泡盛にもどこかでピークが来ると考えています。仕次ぎと呼ばれる手法が取り入れられているのも、そのピークを過ぎた泡盛の酒質を維持するためにあるのではないか、と。太平洋戦争はそれまで寝かされていた数百年熟成された超古酒をすべて破壊してしまいました(駐留していた大日本帝国陸軍が「旨い旨い」と飲みきってしまったと聞いたこともあります)。唯一残された百数十年の超古酒を味わう機会はないでしょうから、50年もの以上の泡盛ってほとんどの人にとって未知のゾーンなわけです。何十年もそのまま寝かせるのは時間さえかければできることですが、酒質を維持しないと意味がないですから、それで毎年10月8日にテイスティングすることにしているわけです。

同じ「萬座」で市販されている数十年の古酒とウチの古酒は、寝かされている環境も違うので微妙にテイストが異なります。言ってみればウチの泡盛は、他では絶対に飲めない世界でただ唯一の泡盛なのです。それを次に味わえるのは、また来年の10月8日です。
コメント (4)
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