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蹴撃天使RINA 〜おんなだらけの格闘祭 血斗!温泉の宿?!〜 【第二回】

2017年04月20日 | 雑記

 ――うわぁ!

 思わず感嘆の声をあげるRINA。
 いま彼女の目の前には、外気温との寒暖差で発生した真っ白な湯煙りのカーテンに覆われた、ここ『白鶴館』ご自慢の大露天風呂が一面に広がっていた。大小様々な自然石で周辺を囲まれた、瓢箪のような形の浴槽にはざっと見積もっても、10人程度がゆったりと同時に湯船に浸かれる位の広さがあり、他に入浴客がいない今の時間、この大露天風呂はほぼRINAの独占状態だ。 さっそく木桶で湯をすくい上げ、外気で早くも冷たくなった足元や肩へ二度三度と掛け流す。湯を被った部分だけがほんのりと紅く色付いた。

 温泉街でのひと騒動で知り合った《泰拳姑娘》絵茉に送ってもらい、無事に目的地である『白鶴館』へやって来たRINAは、自分の母親よりも遥かに歳上ながらもそれを感じさせない若々しさと、この歴史ある老舗旅館を預かる事の、誇りや責任感が所作や態度の端々から感じる事のできる、凛とした美しさを持ったすばらしい女将から、挨拶もそこそこに早速この大浴場へ案内されたのだった。
 彼女は絵茉から事前に《事件》の一部始終を聞かされていたので、RINAが少しでも嫌な気分を晴らしてもらい、初めての旅行先で快適な生活を送れるように……という女将ならではの《心配り》であった。
 身体を隠していた象牙色のタオルを取り、見事な曲線を描く健康的な裸体を晒すと、ゆっくりと湯船に全身を沈めていく。
 「はぁ~~っ……」と、自然に口から安堵と歓喜の吐息が漏れだした。
 こんこんと出水口から流れてくる、僅かにとろみを感じる温水の中で、RINAは小さな掌を腕や太腿などへ、身体の芯まで充分に温泉成分を染み込ませるように、丁寧にゆっくりと這わせた。今この空間には水の音と彼女の吐息しか聞こえない。《癒し》を求めていたRINAにとっては申し分ない環境だ。熱すぎずぬる過ぎない温泉水は、硬くなっていた筋肉と心を、ゆっくりと確実に解きほぐしていく。
 邪魔するものが何もないこの最高の《時間》に、彼女は心地よさに頬を桜色に染め、うっとりとした表情で湯船の浮遊感に全身を任せ静かに瞼を閉じた。

 ◇ ◇ ◇

「お待たせっ、リナちゃん!」

 黒光りのする柱に掛けられた、年季の入った振り子時計が午後4時を廻った頃『白鶴館』の小さな玄関ホールに絵茉がやってきた。RINAは彼女にここへ送ってもらった時に、後で会う約束をしていたのだった。
 絵茉のよく響く威勢の良い声に、彼女の到着を待っていたRINAはもちろん、思い思いの時間を過ごしていた他の宿泊客も一斉に声の主の方へ振り返る。この騒々しい《訪問客》の登場に女将は少し苦笑いを浮かべ「静かに」と、人差し指を口に当てる仕草をして彼女をたしなめた。

「あはは、何やってるんですか絵茉さ……冷たっ!」

 突然冷気が顔中に拡がる。
 絵茉はわざとRINAの頬に、外で仕事をしてすっかり冷え切った、自分の掌を押し当てて驚かせたのだ。
 向き合ったまま、しばらく同じ体勢で固まるふたり。
 だが自分のしている事が馬鹿馬鹿しく思えた絵茉は、次第に腹の底から湧き上がる笑いを堪えきれなくなり、ぷっと吹き出し大笑いした。そんな彼女をみてRINAも一緒に笑いだす。気心の知れたおんな同士で笑いあうのは、彼女にとっては実に久しぶりの経験だった。

「あはは……それで何処へ連れていってくれるんです?」
「いいところ! 絶対退屈はさせないよ」

 そう言うと絵茉は「夕飯の時間までには戻ってきてね」との女将の言葉もそこそこに、RINAを旅館の外へと連れ出した。

 『白鶴館』から10分ほどの距離を歩くと、最初に見た温泉街ほどの大きさや派手さはないものの、小規模な土産物屋や飲食店などが密集する賑やかな地区が現れた。ここは土地の氏神様である御鍬神社の門前町的な場所で、店舗と店舗との間を分けるように作られた広い一本道は、まっすぐ本殿まで続いており、初詣や祭事の時には参拝客などでごった返すという。
 それほど大きくもない敷地の中では、翌日に天下の奇祭・角力祭が控えている事もあり、的屋たちによる出店の準備などが着々と進められ、嫌がおうにもお祭りムードは高まっていた。絵茉は、顔馴染みたちに挨拶しながらRINAを連れて、境内を奥へ奥へと進んでいった。
 鳥居を潜り鎮守の森へ足を踏み入れると空気は一変する。それまで微かに聞こえた生活音も周辺を囲む木々に吸い込まれ、砂利を踏む足音以外は何も耳に入らない、ぴんと空気が張り詰めた一種独特の雰囲気がおんなふたりを包み込んだ。自然とRINAの背筋もぴんと伸びる。
 森の奥でひっそりと佇んでいる、こじんまりとした大きさの拝殿へ参拝を済ませた後、絵茉は少し離れた場所に建つ、約5メートル四方もの大きさの神楽殿へと彼女を案内した。

「ここは……?」
「明日おこなわれる角力祭の舞台よ。当日はこの神楽殿周辺は町の人や見物客でいっぱいになるの」

 RINAの目は、経年によって生まれた渋い色彩や重厚感を持つ、この《闘いの舞台》へ釘付けになった。
 絵茉は舞台の縁に腰掛け、角力祭について彼女に説明をはじめた――
 昔より執り行われてた、氏神様へその年の無事や感謝を祈願する一般的な神事が、約四百年ほど前に山で温泉が発見されて以来、様々な地域から人がこの地へ集まって来るようになった頃から《角力祭》の歴史がスタートしたのだという。
 周りが山で囲われ娯楽も少なかった事もあり、祭の最中に酒を飲み気分が高揚した男たちが、ある時武芸の腕自慢を始めた事が《祭》の起源で、名称は《角力=相撲》とあるが実際に行われているのは「舞台(土俵)から出たら負け」というルール以外は全く異なる、どちらかといえば現在の総合格闘技に近いもので、この《角力祭》が元来《喧嘩》が発祥である事が窺い知る事が出来る。年に一度の祭からはかつて多くの好漢や英雄、稀に女侠もが誕生して《伝説的勝負》を残し、それが住民たちに代々語り継がれ角力祭の《箔》となり、比類なき《奇祭》として現在まで連綿と行われているのだ。

「――というわけ。どう、面白そうでしょ?」
「へぇ~、何だかカンフー映画の《擂台戦》みたいですね」
「そう! それが現実に行われているんだからロマンあるでしょ」

 角力祭の説明を聞き、内に秘めている《武芸者》の血が騒いだのか、RINAはすっかり興奮していた。

「絵茉さんは……参加するのですか?」
「当たり前でしょ。観るよりやった方が面白いに決まっているのよ、こういう事は」

 絵茉はそういうと靴を脱ぎ、神楽殿へと上ると軽やかにステップを踏んでみせる。この彼女の行動に何かを感じたRINAは、自身も素足になり綺麗に磨かれた板張りの舞台へ立った。ブーツの中で熱を持った足の裏から、直に感じられる板の感触や冷たさが実に気持ちいい。

「……わたしの言った事、覚えてます?“お手合わせお願いします”って」
「覚えてるよぉ。だからここに連れてきたのよ、明日の《最終調整》も兼ねてね。でも……本当に大丈夫?」
「何がです?」
「リナちゃんスカート穿いてるし。パンツ見えちゃうよ?」
「心配無用です!おんな同士ですから。それに誰もいないですから平気ですよ」

 RINAはチェック柄の、短いプリーツ・スカートの裾を摘みひらひらとさせておどける。

「それでは――」
「始めましょうか」

 互いが正面に向かい合い軽く一礼をすると、ふたりの目付きが急に変わった。それまでの《姉と妹》のような仲睦まじき関係から、相手の《強さ》を直に体感してみたい《女武芸者》同士へと変貌したのだった。
 どちらかが、神楽殿の天井に反響するほどの気合いを発したかと思った瞬間、肉付きの良い脚が同時に高く交差した。頭部狙いの上段回し蹴りだ。
 相手の蹴り脚のスピードや入射角度に驚愕すると共に、町の《喧嘩自慢の男》たちからは感じ得ない、鍛え磨かれた技術にふたりは心が躍った。
 暫しの沈黙の後、RINAが左右に蹴りを出して前進した。空気を切り裂くような鋭利な音と彼女の短い呼吸音が迫ってくる中、絵茉は冷静に己の前腕で攻撃を受け流しつつ、その間合いを詰めていく。
 連続の回し蹴りをかい潜ると絵茉は急に背中を向けた。彼女の予測不能な動作に一瞬躊躇するRINA。
 ブゥン!
 胴体を回転させ、勢いの付いた絵茉の肘が頬骨を狙って襲いかかった。
 RINAは咄嗟に反応しスウェーバックして事無きを得るが、その肘打ちの速さに驚きを隠せず彼女の腕には鳥肌が広がる。
 今度は絵茉によるキックの猛攻が始まった。上へ下へと変幻自在に、鞭のようにしなる彼女の長い脚が、RINAの懸命のブロックもお構いなしに何度も何度も打込まれていく。
 徐々に痺れて感覚が鈍くなる両腕。
 その時、赤いペティキュアが塗られた足が目に飛び込んできた。絵茉が顎に向かってハイキックを発射したのだ。RINAの意識は反応をするものの、腕が痺れてガードを上げることが出来なくなっていた。
 彼女は自ら膝を折り後ろへ倒れて、弧を描いて迫りくる蹴り脚を回避する。バタン!と板が大きな音と振動を感じたと同時に視界から姿が消えたので、今度は逆に絵茉が戸惑う番だ。
 RINAは仰向けになっている状態で、絵茉の腹部を思いっきり蹴り上げた。彼女は小さく呻き声をあげると二歩三歩と後退する。続けてヘッドスプリングで跳ね起き立ち上がると身を翻し、胸部狙いのローリングソバットを繰り出したが、これは絵茉がしっかりと反応した為に、体勢をずらされ被弾するまでに至らなかった。
 決して広くはない神楽殿の中、両者共に一歩も譲らない息詰まる攻防が繰り広げられているものの、意外な事に彼女たちからは《殺気》が感じられない。肉体や精神をぎりぎりまで酷使する武芸高手との《果し合い》とは違い、技術交流の意味合いを持つ《手合せ》であるこの闘いは、もちろん両者とも真剣ではあるが、互いが敬意を表しているので殺伐とした空気はそこにはなく、時折笑みを浮かべながらこの激しい攻防をゲーム感覚で楽しんでいるのだ。
 厚い床板の上を軽く跳ね、重低音と木の摩擦音を舞台中に響かせて円を描きながら、距離を取り相手の出方を伺うふたり。
 時折両腕をぶらぶらとさせ、リラックスした状態を保とうとする絵茉。
 右へ左へと体勢を入れ替えながら、相手の攻撃に備えるRINA。
 この均衡を破ったのは絵茉だった。
 スピードはあるものの、不用心に思えるほど軌道が分かりやすい、出鱈目なパンチを繰り出したのだ。当然の如くRINAは、冷静にそのパンチを受け流すと逆に、相手の顎付近へ正確無比な拳を打ち放った。
 だが絵茉のパンチは、RINAの攻撃を誘うための《フェイク》だった。さっと身を翻し彼女の腕を脇に挟むとしっかりと固定し、肩口に体重を乗せ目一杯に肘関節を伸ばす――脇固めだ。
 肩から肘にかけて激痛が走る。
 RINAは自ら身体を前転させこの関節技地獄から抜け出し立ち上がると、絵茉の首根っこを掴み払い腰で彼女の身体を床に叩き付け、相手の腕を頸動脈に密着させ力一杯締め上げる肩固めへと移行した。
 絵茉は全身の筋力を駆使して寝技からの脱出を試みるが、そうはさせまいとRINAも力を入れ懸命に締め続けた。揉み合いの最中ふたりの着衣は徐々に捲れあがって、下着や肌を露出するあられもない格好で舞台の上をごろごろと転がり回る。
 
「こらっ!勝手に神楽殿に上がるんじゃないっ」

 何処からか男性の声が、草履が足早に地面を擦る音と共に、ふたりに近付いてくる。
 年老いたこの神社の宮司様が、境内の見回りの最中に神楽殿の不審な人影に気付いて、一目散に駆け付けて来たのだった。

「爺っちゃん? やばっ!」
「えっ?……きゃっ!」

 勢いのついたふたりの身体は最早、自分の意志で止める事が出来ず、転がったまま舞台の外へと落下していった。
 だらしなく地面に横たわるふたりを見て、総白髪の宮司様は「やれやれ」といった表情で呟く。

「絵茉、昔っから何度もいっておろう? 普段はともかく《御清め》が済んだ大事な舞台で遊ぶんじゃない!それに何じゃ? うら若き女性が腹なんか出しおってからに……全くもってけしからん」

 気が付けば、着ていた紺色のニットセーターが胸部付近まで捲れあがり、スリムな腹部はもちろん縦長の臍まで丸見えになっていていた。宮司様に注意された絵茉は急いでセーターの位置を元に戻す。RINAも同様で、むっちりとした太腿や白いショーツまで晒していたのに気が付き、恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらスカートの裾を直した。

「……ゴホン! それで隣のお嬢さんはどなたかな?」
「あー紹介するね、彼女はリナちゃん。『白鶴館』に泊まっている旅行客で、最近《友達》になったばかりなんだ」

 絵茉から紹介を受けたRINAは、宮司様に向かい深々と礼をした。まだ十代の年端も行かぬ女の子だというのに浮ついた所がなく、武道家らしく落ち着き払った彼女の所作に対し、彼は満足そうに目を細めた。

「ほぉ……リナさんとやら。あなたも相当の《手練れ》とお見受けしたが違うかね?」
「《手練れ》だなんて……お恥ずかしい限りです。未熟者故まだまだ修練が足りません」
「いやいや、あの絵茉を相手に互角以上にやり合う相手など、なかなかお目に掛かれませんぞ」

 宮司様より掛けられた率直な「お褒めの言葉」に対し、RINAは隣りにいる絵茉と顔を見合わせると、初めて嬉しそうな表情をみせた。

 ふたりは宮司様のご厚意で、社務所に案内されそこでお茶をいただく事となった。RINAたちは円柱型の石油ストーブを囲み、熱いお茶と甘い和菓子に舌鼓を打ちつつ宮司様と絵茉が醸し出す、アットホームな雰囲気の中談笑を楽しんだ。

「……それで爺っちゃんはね、あたしが子供の頃からいろいろ面倒みてくれた《腐れ縁》ってなわけよ」
「おい、日本語の使い方間違えておるぞ。そこは《恩人》じゃろが」
「そうともいうね。まぁ固い事は言いっこなしで」
「そこはしっかりせんかぁ! 本当に二十歳過ぎた女性かお前は?」

 年齢を超えた彼らの遠慮のないやり取りに、RINAは終始笑いっぱなしで頬の筋が痛くなるほどだった。

「リナさん、どうかね? 明日の角力祭じゃが出場してみないかね?」

 そんな談笑の真っ最中、彼女は突然祭への《出場以来》を受けて驚いた。この地へは普通に《旅行》としてやってきただけで、まさか自分に声が掛かるなんて思ってもいなかったのだ。

「えっ……《部外者》が、それも飛び入りで簡単に出場できるものなのですか、この祭事って?」
「もちろん普通は、外部からの《飛び入り参加》なんてものは認めておらん。まぁ、呼び掛けたって誰もなかなか参加はせんが。リナさんがあの娘と闘っている姿を見ていたら、是非とも絵茉共々祭に出て欲しくなってなぁ。それに……」

 急に表情が険しくなった宮司様を見て、絵茉は心配し尋ねた。

「どうしたんだよ爺っちゃん?」
「さっき電話があってな、明日参加する予定だった男衆が繁華街で騒ぎを起こし、怪我して出場が出来なくなったって連絡があったんじゃよ。祭は明日だというのに……まったく」

 宮司様の話を、特に気にも留めず聞いていなかったが、突如数時間前の出来事が頭の中でフラッシュバックし始める。

 ――繁華街……男衆……? あっ!

 記憶の糸が繋ぎ合わさった瞬間、RINAと絵茉は顔を見合わせ「まずい!」と表情を曇らせた。何といってもふたりが彼らを怪我させた《張本人》なのだから。

 ――しょうがない、あいつらに襲われたとはいえ責任の一端はわたしにあるんだし……ええい!

「わ、わかりました。私でよろしければ微力ですが、祭に華を添えられるよう頑張ります!」

 腹を括ってRINAが自ら出場を申し出ると、宮司様は飛び上がらんばかりに喜んだ。

「出てくれるのかい! よかったよかった、これで欠員の穴が一人分埋まったわい」

 ようやく出場者を《確保》できた彼は、ほっと安堵の表情を見せる。歴史と伝統のある天下の奇祭が、参加者不在によりあわや中止にもなりかねない《一大事》だったようで、少しばかり責任を感じたRINAたちは足早にこの場を去る事にした。

「……爺っちゃん、それではあたしたちはこれで」
「おいしいお茶をありがとうございました」
「おお、ふたりともご苦労様。絵茉もリナちゃんも、怪我だけは絶対せんようくれぐれも気を付けてくれよ」

 彼女らは宮司様に一礼し社務所の扉を閉めた瞬間、張りつめていた緊張が解けたと同時に得も言えぬ疲れがどっと押し寄せてきて、RINAたちは同時に大きくため息をつくのだった。

 ――しばし無言で境内を歩くふたり。いろいろな想いが頭を巡っているのだろう、彼女らの耳にはカラスたちの甲高い鳴き声も、露店の準備をする男たちの威勢の良い掛け声も全く入ってこなかった。
 僅かばかり……いや、RINAにしてみれば、長く感じた沈黙を断ち切ったのはやはり絵茉だった。

「はぁ……悪いわね、せっかく旅行に来たのにいろいろと気を使わせちゃって」
「いえ平気ですよ、もう《トラブルこそ我が人生》って感じで半ば諦めていますから」

 どこまでも優しく、そして穏やかに微笑むRINAを見ていたら、何か救われたような気になってきた絵茉は、ふふっと笑い彼女の肩を抱くと強引に自分の身体へ近付けた。絵茉の大きな胸が押し当てられ、鼻孔を塞いでいるためかなり息苦しい。

「ちょ、苦しいですって絵茉さん!」
「あ、ごめん。《愛情表現》が強引過ぎた……それで悪いけど、もう一か所付き合って欲しいんだけどいいかな?」

 腕時計で時間を確認するRINA。旅館の夕食時間まで一時間弱もある、まだ大丈夫そうだ。

「いいですよ、とことん付き合いますよ」
「リナちゃんナイス! じゃあ行こうか?」

 門前町へと出るふたりとは入れ違いに、黒塗りの高級車が神社の駐車場へと入っていく。後部座席には年齢がそのまま顔に刻まれたかのような、老年の男がその巨体を白い革張りのシートに身を任せていた。男は車の側を通りすぎるRINAたちに一瞬目を向けたが、すぐに視線を元に戻し従順そうな運転手に対し二言三言指示を出した――彼は一体何者であろうか?

 ◇ ◇ ◇

 絵茉はRINAを連れて、メインロードを一歩奥へ入った路地裏の、小さな飲食店が密集する場所へと案内する。喫茶店や定食屋、小料理屋から飲み屋まで多種多様な店が建ち並ぶ《町の台所》といった風情のある一角であるが、よく見ればいくつかの店はシャッターが締め切られており、この地域の経済がすべて川下の温泉街へ流れていった事を物語っていた。
 『喫茶 はるか』と、可愛らしい書体で書かれた看板の店で絵茉が立ち止まる。

「へぇ、いい感じのお店ですね」
「でしょ? ここにリナちゃんに会わせたい女性がいるんだ……入るよぉ遥姉ぇ!」

 軽快なドアベルの音と共に年季の入った木製の扉を開けると、タイムスリップしたかのような古めかしい店内の奥の調理場に、栗色に染めたショートカットの女性が立っていた。

 RINAは彼女の大きさに驚く。女性的なフォルムはしっかり保っているものの、明らかに何かスポーツをやっていた様な体格で、各部位のサイズが自分とはまるで違うのだ。「遥姉ぇ」と絵茉から呼ばれる彼女が、入り口に立つRINAに気が付いた。

「あら、いらっしゃい!……二代目《蹴撃天使》さん?」

 ――二代目って……? 誰なのこの人は?

 口元には笑みを、しかし瞳はしっかりと自分を見据えている、この女性に対しRINAは戦慄を覚えた。

ジャンル:
小説
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