泉を聴く

徹底的に、個性にこだわります。銘々の個が、普遍に至ることを信じて。

わからないからこそ

2008-06-24 17:21:20 | エッセー
 わからない。
 すべてのことは、わからない。秋葉原の彼も、気になるあの子も、自分自身も、いつ地震が来るかも、なにもかも。未来とは、未だ来ていないもの。
 極論すれば、みんなわからない。わかっている人は、この世に存在しない。
 例えば、就職のための面接に行くとする。そこで、必ず起こる不安。どんなふうに思われるだろう? 何を言えばいいだろう? ちゃんと振る舞えるだろうか? 失敗したらどうしよう?
 でも、向こうもわかっていない。何が起こるかは。その人がどんな人かは。
 だから僕らは、いつも同じ地点に立っている。この事実を、しっかりと認識しておきたい。
 全知全能と言われているのは、神様だけ。それはもはや人間ではない。その存在を信じることで、とりあえず私は、私との距離がとれる。大いなるものを信頼できるからこそ、私を投げ出せる。大いなるものを通して、私を受け入れることもできる。
 わからないからこそ、怖がるか、楽しめるか。
 わからないことを無理にわかろうとすると、結局なにもできなくなる。彼は私を嫌っている(と私はわかっている)。ならば私は彼に気に入られるようにしよう(私は歪む、殺される)。私は絶対に生きていても意味がない(と私はわかり、信じている)。ならば世間をあっと言わせる事をしてやろう(私をわからせよう)。
 わからないことは、不安です。いらいらします。だって何が起こるのかわからないんだから。まして、かつて死にそうな目に遭ったことのある人なら、なおのこと。
 恐怖は、生きるものにとって、不可欠のもの。それがあることで、確かに身を守ることができる。
 しかし、それの過剰によって、家からも出られなくなってしまったとしたら。なんとかもっと外に出たい、自分を出したいと思っているのにできなくなっているとしたら。
 恐怖とわくわくの差とはなんだろう?
 僕の答えは、「信頼」に辿り着きました。
 まだしゃべることのできない、はいはいの赤ちゃんを、透明の板に載せると、一人だけだと怖くて動けないけど、近くに親(の代わりになる人)がいて、にこにこ笑って(好意を伝えながら)こっちにおいで、大丈夫よ、と表現し続けると、赤ちゃんはそちらに向かって進み始める。
 これは発達心理学で学んだことですが、大人だって、心理としては真実だろうと思う。外に出れなくなっているのは、信頼に足る他者がいない、信頼に足りていないということなのでしょう。
 わからないからこそ、おもしろい。身を乗り出し、参加し、そこで自分にできることをし、よく見て、終われば反省もする。そう僕ができるようになったのは、他者への、大いなるもの(私にもなっている生命)への信頼が、未知の恐怖に耐えられるほどに満ちたことに他なりません。私が、まず私を信じ、頼ることができる。まあ、なんとかなるだろう。今までだってそうだったのだし。困れば頼りになる人が、たくさんいるし。疲れたってその癒し方を知ってるし。やるべきことを一つずつやっていくだけだし。それは今までの自分の経験の積み重ねへの信頼でもあります。
 恐怖を克服するには体験しかない。その人が、「あ、たいしたことないや」「大丈夫」と、思えるか。感じられるかにかかっている。
 そこに至るまで、信頼に足る他者が必要です。どうしたって。そこに働くのが、意識的に働きかけるのが、カウンセラーであり、芸術家だと、僕は思う。もちろん、職業はどうだっていい。そういう人になっていたら、その人はそのように機能する。
 そしてカウンセラーと芸術家に共通しているのは、「純粋性」「その人がその人であること」です。あの人はああいう人だ。と受け入れられること。それが揺るがないこと。いつでもどこでも。
 そうありたいと思う。この場も、そうであれと願う。
 僕は、信頼が絶対的に不足しているこの社会で、信頼に足る存在でありたい。そしてその僕の存在を、文章で伝え続けたい。文学で応えていきたい。
 文とは「あや」のこと。異なる二つが交わること。そこから学ぶこと。
 ある人とのことを念頭に書き始め、自分の思いにまで至りました。
 今はやりの「もったいない」は、なにも物だけのことじゃない。人間の中身の能力だってそう。いかに発揮できるか。安心して、自分の力を出していけるか。そんな社会になってない、そんな環境で育たなかったと嘆くのは簡単です。要は自分がどうするか、どういう態度で向き合うか。その自分への信頼、尊重はあるか。それしかない。
 そこに訴えるものを表現したい、伝えたい、関わりたいと思います。
 わからない、だからこそ、わかろうと努める。だから書く。その真剣な積み重ねが、みんなわからないからこそ貴重なのだとも思う。
 理解こそ愛。なのでしょう。実践したいものです。
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