泉を聴く

徹底的に、個性にこだわります。銘々の個が、普遍に至ることを信じて。

戦下のレシピ

2017-01-17 13:46:51 | 読書
 

 戦中も続いた婦人誌「婦人之友」「主婦之友」「婦人倶楽部」に掲載されたレシピをたどって戦下の食生活を見つめる本。
 戦争とは、食べ物がなくなることだとよくわかった。
 それだけではなく、いつ空襲されるかわからないから寝不足になり、武器を作る工場に駆り出されるため重労働ともなる。
 働き手がことごとく戦場に送られてもいる。「銃後」と呼ばれた国内にいる人たちも、否応なく戦争に巻き込まれていた。
 米がどんどんなくなっていく。農民が戦地に行かされ、軍需産業に就かされ、輸送が絶たれたから。
 空襲や原爆だけが戦争ではありませんでした。輸送船が沈められ、兵隊や国内に食べ物が届かないことも戦争。
 私の父の父も、輸送船の船員で、米軍機に打ち沈められたのでした。いまだに骨は帰ってきていません。
 で、戦中の代表的な食べ物、「水団(すいとん)」を作って食べてみました。
 水90CCに塩を小さじ半分、そこに1カップの小麦粉を入れて混ぜ、20分ほど寝かせ、沸騰したスープに丸めて入れる。団子状の小麦粉が浮き上がれば火が通ったので出来上がり。
 スープはありあわせのもので。味付けは塩でも醤油でも味噌でも。
 冷凍のカキとほうれん草があったので入れました。
 カキとほうれん草でなんとか食べられましたが、すいとんは、ギョーザの皮だけを丸めたようなもので、何か足りない感じ。
 で、飽きてくる。食べながら、育ち盛りの子が「えー、またすいとん」と言ってお母さんを困らせている図が浮かぶ。
 食感がまたよくない。ねちねちしている。おいしさがない。楽しくない。歯にべたっとくっつく。
「これがすいとんか。もう、食べたくないな」というのが正直な感想。
 しかし、燃料すら不足していた戦中、戦後。すいとんの熱さだけでも御馳走だったのかもしれません。
 食糧難がひどくなるほど、ありあわせをすりつぶして、どろっとさせて、汁ごといただく料理が増える。
 そこには、人の輪郭が消えていく感覚がある。一人ひとりの感情が押しつぶされていく空気がある。
 恐ろしいことです。
 恐ろしいことを、すいとんを通じて体験できた。
 すいとん、試す価値あり、です。

 斎藤美奈子著/岩波アクティブ新書/2002

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2 コメント

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書評投稿サイト・本が好き!のご案内 (本が好き!運営担当)
2017-01-20 15:33:32
突然のコメント、失礼いたします。はじめまして。
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2017-01-20 23:48:38
コメントありがとうございます。
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なので、せっかくですが、お断りさせていただきます。

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