with クロワッサン

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ホーム・ゲーム

2010-10-11 00:20:51 | フースバル
WM(ワールドカップ)が終わったと思ったら、もうすぐにEM(ヨーロッパ選手権)
2012年の予選が始まっているのです。


先週の金曜日は、その予選の中でも大注目の一戦・ドイツ対トルコ。

第二次世界大戦後、外国人労働者を「Gastabeiter ガスト・アーバイター」=“お客様”労働者として招き
労働者不足を解消し経済発展を遂げたドイツ。
そのなかでもっとも多かったのはトルコ人で、労働者達は出稼ぎではなくそのままドイツに住み着き、
家族をドイツに呼び寄せ、ドイツ社会の一員となったことで現在の様々な問題に発展していることは
すでに知られているとおり。


この試合のキーワードはずばり、「ホームゲーム」。

ドイツでは、ホームゲームの事を Heimspiel ハイム・シュピール
アウェイの試合の事を Auswärtsspiel アウスヴェァツ・シュピール と言う。


「ホームがいかに有利か」という話をするとき、
私は自分ではサッカーをしないので、例えば慣れた芝であるとか、移動がないから楽だとかいう
フィジカル的な事は正直想像するしかできないけど、いつも超満員になるドイツのスタジアムで
その大半を占めるホーム側のファンの声援がどれだけホームの選手を後押ししているかという事は、
今まで数え切れないほどスタジアムへ行って体で感じてきた。

だから今回の試合ではとても大事なことだった。

『一体どっちのハイム・シュピールなのか???』



このドイツ対トルコの会場は、ベルリンのOlympiastadion オリンピア・シュターディオン。
※だから、いちおう「ドイツのハイム・シュピール」との位置づけの試合。


首都だけあって、トルコ系移民の数だって群を抜いているベルリン。

7万5千弱が収容されるオリンピアシュターディオンでこの日、観客のうち
少なくとも4万人(=過半数!)は国旗とともに真っ赤な服に身を包んだトルコファンだったと、
次の日の新聞に載っていた。

試合は夜8時45分からだったんだけど、夕方5時からベルリンの中でも特にトルコ系住民の多い地区
で知られる「Kreuzberg クロイツベァク」にパブリック・ビューイングが設けられ、
1万人(!)のトルコファンが集まる様子がテレビで流れていた。

広場を真っ赤に埋め尽くした人々が着ている真っ赤なTシャツの背中には、
大きく 「Heimspiel」 と書かれている。

たしかに、映像だけ見れば、まるでトルコのホームみたい。


選手がピッチに入場してくるとき、過半数をトルコファンに陣取られてしまったドイツ側のファンも
負けずにみんなでプラカードを掲げて大きな文字を作った。

その言葉は、同じく「Heimspiel」 。


地理的には遠く離れた国どおしのこの試合は、まぎれもなく「ダービーマッチ」である。
どっちにとっても、ハイム・シュピール。



私は、このダービーマッチを複雑な気分で観ていた。

ドイツ代表の方には、私の大好きな選手でこの夏前までWerderにいたMesut Özilがいる。
いつもはカタカナ書きも添えるけど・・・Oウムラウトは絶対にカタカナでは書き表せないなあ!
日本では、ウジルだかエジルだかオジルだか、好き放題書かれているみたいけど・・・
まあ強いていうなら、ィウーズィル?やっぱ違う・・・

Özilは、ルール地方のゲルゼンキルヒェンで生まれ育ったトルコ系3世。
ドイツからもトルコからも熱烈なラブコールを受けて、結局彼は両親や家族と相談した上で
ドイツ代表になることを選んだ。

ブレーメンで見かけるトルコ系の顔立ちをした人たちは、小さい子からおじさんまで
みんなこぞってWerderのユニフォームにÖzilの背番号を入れ、WMの時はトルコが出ないので
その分Özilのいるドイツ代表を応援していた。
ドイツとトルコの架け橋のような選手だった。少なくとも、ブレーメンでは。少なくとも、
Werderファンのあいだでは。


ドイツ対トルコの直接対決なると、話は別だった。

テレビで観ていてもよく分かるくらい、Özilにボールが渡るだけですごいブーイングで、
それが試合中ずっと続いていた。
もう、ブレーメンでこの試合やれば良かったのに・・・。
もしベルリンのチームHertha ヘァタに在籍した選手だったのなら事情は違っていたのかもしれないけど、
Özilになんの思いいれも無いベルリンのトルコ人たちには、むしろ「裏切り者」としてしか
映らなかったんだろう。

彼は後半にゴールを決めたけれど、その表情は、アナウンサーが「静かな歓喜」と小綺麗に表現するには
ちょっと深すぎたと思う。



トルコ代表でドイツ生まれと言うと、Altintop(ドイツ語ではアルティントップ、
トルコ語ではアルトゥントップ、かな)兄弟が有名だと思う。
2人は双子で、Özilと同じゲルゼンキルヒェン出身。

もしくは、今年のブンデスリーガでかなり注目されているSahin シャーヒンという
若いDortmundの選手。
ドルトムントでもトルコ代表でも最年少出場記録を持つ彼は、Özilの生まれた町から
50キロくらい離れたリューデンシャイト出身で、年もÖzilと同じ。
今シーズンのはじめにZDFのスポーツスタジオに生出演した時、そのコメントが謙虚かつ
自信があるもので(有名な選手と比較されて、自分は自分!と言い切ったんだけど、傲慢な態度では
決してなかった)けっこう気に入った選手。


WMの時、メァケル首相はÖzilたち移民系の子でドイツ代表で活躍する選手を
「ドイツへ統合できた移民のお手本のような存在」と称えたことが話題になった。
私は、アルティントップやシャーヒンがドイツではなくトルコ代表を選んだからといって
「統合できていない」わけではないと思う。
(メァケルさんももちろん、そこまでは言ってない)

自分のルーツと違う国で育ち、一体自分はナニジンなんだろうとどれほど考えたことだろう。
それでもいつかは、どちらかの国を1つだけ選ばなければならない局面。

その苦悩は同じような環境で育った人でもそれぞれだと思うし、私には到底分かりっこない。


このダービーの数日前に、ちょっとアルティントップとÖzilの口撃戦みたいのがあり
そのせいでÖzilがトルコ人ファンからブーイングを受けたり、そんなトルコ人の態度が
ドイツ人ファンに批判されたりもうぐちゃぐちゃになってしまった。こうなると、
もう誰が悪いの?って話じゃない。

(ひどいなと思ったのは、日本語で書かれている、おそらく日本在住だろうドイツ代表ファンの人が
トルコをひたすら批判している日記やコメントなんか。
私もそうだけど、やっぱり孤立した島国で生まれ育った日本人には、移民の感情も、
(移民に囲まれた)ドイツ人の感情も、正しく理解することは不可能だと思う。)



理解はできなくても1つだけ私がしっかりと心に留めておきたいと思ったことは、
Özilがゴールを決めたにも関わらず喜びを表現することなく視線を落とした、あの複雑な表情を
ドイツ人もトルコ人も(日本人も)忘れてはいけないということ。


「一体どっちのハイムシュピールなのか?」 ではなくて、

「どっちにとってもハイムシュピールである」 と楽天的な考えは、やっぱり私が日本人だから
できることなんだろうか。。。




ところでウサギのお気に入り・Werderに所属するBoenisch(これまたカタカナ表記は難しい・・・
ボェーニッシュ?)という若い選手は、ドイツでも今のところまだあまり知られていないのだけど
このEM予選から、生まれ故郷のポーランド代表になる決断をしました。

去年の夏はU-21のドイツ代表として、EMユース大会のドイツ優勝にも貢献。

なので「生まれはポーランド・育ちはドイツ」ということも私は知らなかったし、そうだとしても
このままドイツ代表になることを選ぶんだろうなと思っていた。
きっと彼の中でも、簡単に言葉に出来ない感情や決断があったんだろうなあ。

ポーランド代表でも、応援してます。


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