「f植物園の巣穴」（梨木 香歩）

　「f植物園の巣穴」（梨木 香歩）を読みました。植物園の園丁が、椋の木の巣穴に落ち込むお話です。前世は犬だった歯科医の家内、ナマズ神主、カエル小僧、稲荷、漢籍を教える儒者、アイルランドの治水神などなど。そこは、主人公となにか因縁のありそうな登場人物が跋扈する、過去と現在が入り交じった世界なのです。
　直視することができず、心の奥深くにしまいこんできた過去の記憶へと一歩一歩降りていく主人公の姿が、物語が進むにつれて明らかになっていきます。読み進むにつれて、僕自身の記憶の奥底へと進んでいくような、そんな不思議な気持ちになりました。
　誰にだって一つや二つはあるのだろうな、心の奥深くにしまいこんでいる過去の記憶というものは。それを直視した後の再生のイメージがさわやかな一冊でした。