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画業一本の釘を打つ 平賀亀祐

2012年01月04日 21時32分50秒 | 三重県の情報

三重県志摩市が生んだ洋画家・平賀亀祐(ひらが かめすけ)をご存知ですか?


平賀亀祐(1889-1971)

16歳という若さで三重県から移民という形でアメリカ サンフランシスコへ飛び、
様々な仕事を通して学費を稼ぎ、美術学校で修行を積みます。
36歳の頃には、フランスへ飛び、本格的な画家活動をはじめます。
37歳で国際公募展『ル・サロンで金賞をとらなければ、母国に錦を飾れない』と
決心し「ル・サロン」での金賞を目指し、作品を作り続けます。

ル・サロンとは?
330年以上という世界最古の伝統を持つフランスで行われる国際公募展。
ミレ、ドーミエ、マネ、モネ、ピサロ、ルノワール・ロダンといった
偉人も生み出している。

そして、65歳で日本人初の金賞を受賞します。

66歳で日本に帰国し、それ以降も全世界を廻りながら絵を描き続け、
82歳の時にパリで亡くなるまで1万枚以上の絵を描き続けました。


彼は、自分の人生を「一本の釘」に例えています。

「自分が選んだただ一本の釘だけをいっしょうけんめいに叩け。
 まわりに、どんなにおもしろい釘や変わった釘があらわれても、
 その誘惑に乗らずに、あくまでも自分が選んだ釘を打ちつづけていくことだ。
 そうしてこそ、初めて他人がまねることもできない深みにまで達しられる。」

-平賀亀祐著「一本の釘」より抜粋


「一本の釘」現物。ipadよりも大きい。
志摩市内の図書館や県立図書館等で借りることができる。


亀祐が、当時の新聞記者から「エッセイを書いてみないか」と進められ、
海外から新聞記者に当てた手紙が、著書「一本の釘」にはまとめられています。


1970年に出版されたこの本だが、読み始めてみると全く色あせていない。


小さい頃から絵ばかりを描いていた。
学校の先生に鞭で叩かれても、絵を描いていたというから驚きだ。

幼い頃に両親は離婚し、継母によって育てられたが、
このいじめがひどかった。
しかし、その酷い扱いの中からも彼は信念を見出し、
「人間万事塞翁が馬」だと、書いている。
あの頃の死をも意識し、自殺もはかったほどの苦しみが、
結果的に丈夫な体と屈強な精神をもたらしたのだと後に語っている。

アメリカに飛んでからは、自分の体だけでお金を稼いだ。
農家、料理店、宝石商、時計修理、漁師、土木工事など、
様々な仕事を通して、自らを磨いている。

特に、両親が漁師であったことを生かして、
自らで船を作り上げ、お金を稼いだ話は痛快だ。
読んでいて、これが絵描きのエッセイか、と思えるほど壮絶だからだ。

仕事をしてお金を稼ぎ、美術学校に通って絵描きとして修行する毎日を描いた
章は本当におもしろい。
それに、この時代、こんなにも移民として日本から遠く離れたアメリカに
日本人が住んでいたと思うとロマンがある。
色々調べてみると、元々漁師というのは海に出て行く仕事であるから、
海外への移民として出稼ぎに行く者は多かったそうだ。
イメージ的には、現代の日本にアジアの人々が出稼ぎに来ているような感じだろう。


37歳から本格的な絵描きとして活躍する亀祐は画業に専念している。

彼の絵はアカデミック(よく言えば伝統的、悪く言えば前時代的)だと
評されたこともあったそうだが、同じ時代に生きたフランスの画家ブラックは、
「リアルな印象派のリファイン」と評している。
つまり、自らの絵に磨きに磨きをかけて、
リアルのその先にあった「亀祐」の絵がそこにあるということだ。

亀祐の考えでは、絵とは基本的に師の真似事をする必要は一切ないという。
自らで絵を描き続け、様々な、素晴らしいと感じられる絵から学び、
自らの絵を描き重ねることで洗練されていくと語っている。


他人が10日以上かけて描いている絵を、
亀祐はほんのわずかな時間で描いてしまう。
だから、生涯で1万枚もの絵を残すことができた。
今でも志摩市内の家庭には亀祐の絵を大切に保管している人が沢山いるそうだ。

絵が早いと言えば、こんなエピソードもある。

志摩育ちなこともあって、特に魚を描くことが好きだった亀祐には
漁港で魚の絵を描いていたら漁師が集まってきたことがあったそうだ。、
漁師が後ろから亀祐の描いている様子を見て驚いたという。
真っ白だったキャンパスがあっという間に美しい絵になってしまったからだ。
60年間打ち続けた釘は、絵を描く早さにも表れている。


ちなみに、非常に興味深い彼の生き様に出会える場所が
2011年4月に志摩市に完成した。


三重県志摩市大王町波切に出来た美術ギャラリーだ。
ここには、亀祐の絵や愛用した鞄、筆などにも出会える。
勝田も一度訪れたが、非常に良かった。オススメします。

場所・開館時間等について、
詳しくはコチラをご覧下さい。


今年2冊目となった本は非常に興味深く楽しめた本だった。
エッセイや絵画が好きな方にはとても楽しめる本になっていると思う。

オススメの1冊です。

「一本の釘」
平賀亀祐 著
出版社:求竜堂(1970)
*現在は絶版となっています。
*三重県図書館や志摩市内の図書館で借りることができます。


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