独立記者の挑戦 中国でメディアを語る

27年間の記者生活を土台に、国境を超えた普遍的な価値を追求する

【日本取材ツアー③】合鴨博士が語った自然情報と人工情報

2017-04-05 08:10:04 | 日記
3月26日は午前中、朝倉の山田堰を視察した後、泥打ち祭り取材班を残し、私は学生4人(うち1人は九州大学博士課程履修中の中国人留学生)を引率して桂川町の農家に向かった。朝倉から車で1時間ほど。目指すは「合鴨家族」の表札がある古野隆雄宅だ。家族で運営するサイトには、

「農薬は一切使わない。福岡県嘉穂郡桂川町にて、35年間古野隆雄、久美子と五人の子供たちを中心に家族で完全無農薬有機農業を行ってきました。2010年からは長男・隆太郎が就農し親子で有機農業の規模拡大・新しい技術の開発に取り組んでいます」

と自己紹介がある(http://aigamokazoku.com/)。アイガモを飼育し、水田に放つ。ヒエなどの雑草を食べさせて除草をすると同時に、ふんはそのまま稲の養分となる。育ったカモは食肉として収入を支える。米から肉、野菜まで家族が食べるものすべてを、家族総出で育てる。だから「合鴨家族」。もう一つの表札には、「百姓百作」とも書かれている。名刺の肩書は「農業博士 百姓」だ。苦労人である。失敗を繰り返しながら、ようやく今にたどりついた。なお、新たな農法を模索中だ。





合鴨農法を紹介してくれたのは旧知の元NHK北京特派員で、現在はNHK福岡放送局にいる小田真記者。気さくで、フットワークの良い記者だ。NHKスペシャルで古野氏を取り上げたことがあり、そのことを教えてくれた(http://www.nhk.or.jp/professional/2007/0724/)。実は翌日、NHK福岡放送局を訪問する予定になっており、その手配も小田記者がやってくれた(NHK訪問については別途、紹介する)。

我々が古野農場に到着して最初に案内されたのが、地元の貴船神社だ。春には五穀豊穣を願い、秋には豊作に感謝するお祭りが行われる。泥打ち祭りと同様、自然と向き合う農業と祭祀が密接に結びついていることを学生たちは学んだ。古野氏が小さな神社の境内で、学生に尋ねた。周囲にはイチョウなどの大木が並んでいる。

「どうしてここの木はこんなに太く、高く育っていると思いますか?」

学生たちは頭をひねる。日当たりがいいからか、神が守っているからか・・・。古野氏の答えは簡潔だ。

「だれも伐らなかったからですよ」

森林を無造作に切り開き、あるいは完全に放置し、共生、ともにある記憶を忘れた私たちは、大事なことを見落としている。つねにそばにあって見守っている存在。ゆっくりとたゆまず育ち続ける生命の尊さ。古野氏の貴重なメッセージは、遠方から来た若者の心に、水が染み入るように伝わったはずだ。農園をめぐりながら古野氏の講義はまだまだ続く。アイガモ飼育小屋では、

「アイガモの雄雌はどうやって見分けるかわかりますか?」
「・・・」

「首のところが少し青いでしょ。人間界は女性がお化粧をするけど、動物の世界は雄が着飾るのが普通。雌を引き付ける必要があるからね。冬が近づくと、この青がさらに鮮やかになる。越冬の準備をするため、たくさん食糧を体にたくわえるから。人間からすると、この時期が一番おいしく食べられるということになる」

なるほどーーとうなづく学生たちに、古野氏は語り掛ける。

「みんなはメディアを学んでいるでしょ。こういうふうに実体験から得られる情報は自然情報、本やメディアから、別の人の目や口を通して得られるのは人工情報。やはり自然情報を多く学ぶことが、世の中を正しく理解することになる」

畑に出ると、古野氏はまた問いをぶつける。



「イチゴは冬場の果物だと思っているでしょ。とんでもない。あれはクリスマスケーキの時期で高く売れるから、それに合わせてビニールハウスで栽培、出荷しているだけ。イチゴが本当においしいのは太陽が注ぐ5月だよ。うちの孫はふだんからそのイチゴを食べているから、本当の甘みを知っていて、冬のイチゴはおいしくないとちゃんとわかっている」

田植え前の田んぼは今、二毛作の麦が育っている。

「うちの娘がこれでパンを作るんですよ。すごくおいしいよ」

自然と共生するというのはこういうことなのかーー。学生の一人がつぶやいた。「百姓」を自任する農業博士による得難い野外講義だった。もちろん私も聴講生の一人である。(続)






ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 【日本取材ツアー②】「加油!... | トップ | 【日本取材ツアー④】ビール栓... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

日記」カテゴリの最新記事

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL