歐亞茶房(ユーラシアのチャイハナ) <ЕВРАЗИЙСКАЯ ЧАЙХАНА> 

「チャイハナ」=中央ユーラシアの町や村の情報交換の場でもある茶店。それらの地域を含む旧ソ連圏各地の掲示板を翻訳。

再び生存報告+新疆の情報封鎖が未だに続いている件(2)

2010-05-03 21:53:54 | 東トルキスタン関係

→(1)からの続き

あちらのお上は、何故ここまでして新疆の一般人民(特にウイグル人)を国外の情報から遮断したがっているのか?彼ら自身の言い分によれば、新疆における一連の民族問題は全て“外在的な”要因に基づくから、なのだそうです。

要は、

“何か、ウイグル人がたまに訳の分からないことを言って暴れてるけど、そういうのは全部、外国の怪しい宗教結社の奴らや、ラビヤとかいう米国のスパイに唆されてるからなんだよね。で、そいつらを操っているのは中国の解体と再植民地化を狙う悪の列強ってわけ。怖いね。うちらは何にも悪くないんだよ

ってことで。

カシュガル旧市街、オステンボイ通り(吾斯塘博依巷)の住宅の壁に貼ってあった標語

“民族分裂を試みる者どもは、必ずや敗北する!”

2009年10月頃、管理人撮影

※ 中共用語。彼らの理屈では、中国の領域内に住む全ての民族は人口の圧倒的多数を占める漢人と共に“中華民族”という大きなまとまりを成している。故に、ウイグル人やチベット人等で中国からの分離独立を主張するような思想は“民族分裂主義”、それを唱える人間は“民族分裂主義者”ということになるらしい。日本語だと“分離主義”とか“分離主義者”に置き換えた方がより自然かも。なお、これの反意語は“民族団結”。この場合の“民族”も同じく“中華民族”のことを指す。


↓ウルムチのウイグル人地区の中心、ドン・キョウリュック(漢語名:二道橋)旧ラビヤ=カーディル商業ビル(通称“ラビヤ・ビル”)そばにあった看板

 “各民族共通の敵が、ラビヤ率いる三種の勢力(分離主義者、テロリスト、イスラーム原理主義者)であることを、はっきりと認識しよう!”

2009年10月頃、管理人撮影


↓同じくウルムチのドン・キョウリュック(漢語名:二道橋)地区の裏通りで見かけた横断幕(多分、一つの長いスローガンの後半部分だと思われるが、前半の方は周囲には見あたらなかった。)

“....行動を起こし、民族分裂主義との断固たる戦いを遂行しよう!” 

2009年10月頃、管理人撮影


ふと思ったのですが、“中国”を“日本”に、“列強”を“死ね死ね団”に、“怪しい宗教結社”を“御多福教団”、“ラビヤ女史”を“魔女イグアナ”に置き換えれば、まんま“レインボーマン”ではありませんかw。

まあ、“死ね死ね団”には、“日本民族を皆殺しにする”という実に明確な最終目標がありましたけどねw。

“列強”のそれは一体何なのでしょう?漢民族の殲滅か?世界的な景気回復が中国頼みというこの御時世に、その中国の内政が不安定になって喜ぶ“列強”なんてあるのかね?

というか、もし仮に彼らの言い分が正しかったとして、国外の“悪い情報”を完全に遮断することなど出来るのでしょうか?

文革時代みたいに今に比べて通信手段が未発達で、中国が世界から孤立していた頃なら、それも可能だったのかもしれません。

でも、ベルリンの壁が崩壊してから、もう20年も経つのですよ。

何よりも、中国はその間に事実上、資本主義の方向に舵を切り、今では世界経済と密接に繋がっている。

このような状況下では、いかにネットや電話に制限を加えようが、人々の移動(とそれに伴う口コミの情報)までも完全に止めるのは不可能でしょう。

昨年来、色んな地域のウイグル人と話した限りでは、彼らは昨年の7.5事件の顛末や在外ウイグル人の動向について、意外と正確に把握しているように思えました。“ああ、誰々なら今、日本に居るんでしょ?”みたいな感じで。

ネットや国際電話が使えなくても、口コミのネットワークで情報が回っているらしい。

その一方で、南部の田舎の方では

“どっかの漢人がウイグル人の赤ん坊を料理して、食っている動画がYoutubeにアップされてる!”

みたいな、とんでもないデマもまた、流れていたんですけどね。

あの、ただでさえエロ+グロに厳しいYoutubeがその手の動画を野放しにするなんて有り得ない話であり、少し考えれば嘘だって分かりそうなものですが、そういうことは、多分、我々が普通にネットを使える環境で暮らしているからこそ、言えることなんでしょう。

あちらでは、ネットが禁止される大分前から、(中国領の他の地域と同じく)Youtubeなんてものは見れなくなっており、確認のしようが無いわけで。

デマと言えば、漢人の側でも昨年の9月頃、ウルムチで“ウイグル人が、HIVのウィルスのついた針で漢人を無差別に刺しまくっている”等の噂が広まり、不安に駆られた漢人系住民が治安の強化を求めて大規模なデモを起こす、といった騒動がありました。

彼らが必要以上に不安を増大させ、そうした噂を信じるに至った原因の一端もまた、ネットを始めとする通信規制にあったといわれています。

 今回の情報統制の目的は“外部からの<悪しき情報>を遮断”すると同時に、“民族間の対立を煽るような言説が拡がるのを阻止”することにあった、というのがあちらのお上の言い分なわけですが、現実には、そうした規制はかくの如く人々の間に疑心暗鬼を生じさせ、却って民族対立を悪化させただけなのですよ。

でもって、“外部からの<悪しき情報>”なんかも彼らが思っているほどには遮断なんてできてないはずで....。

全然ダメじゃないですか。

この10ヶ月の間、ネットが使えなかったことで大きな打撃を受けたのは、町のネット屋だけではないでしょう。旅行会社なんかも大変だったらしい。その手の経済的な損失がどれほどの額に登るか、詳しいことはよく分かりませんが、結局のところ、それらは、単なる“ムダ”だったということになります。

↓ウルムチのウイグル人地区、ドン・キョウリュック(漢語名:二道橋)で見かけた政府広報。

“3つの不可分性 - 漢人を少数民族から分かつことはできない。少数民族を漢人から分かつことはできない。それぞれの少数民族を互いに分かつことはできない”

※中共の中の人たちは、本当に“三”という数字が好きらしい。“三光作戦”とか“三種の敵対勢力”とか“サンバルカン”とかね。あ、最後のはちょっと違うかw。

ちなみに、約800万というウイグル人の人口は、中央アジアの主要民族の中ではウイグル人、カザフ人に次いで3番目。この辺では立派に“大民族”の部類に入る。それが、どうして漢人と一くくりにされて“少数民族”なんて呼ばれねばならないのか?

すぐ隣にあるクルグズスタン(キルギス共和国)の基幹民族であるクルグズ人なんて、新疆側で暮らす同族を合わせても400万に満たないにも拘わらず、独立国家を持っている。その2倍以上の人口を有するウイグル人がどうしてダメなのか?

そうした素朴な疑問にきちんと答えられない限り、この手のスローガンは意味を持たないだろう。

いや、ムダですよ。本当に。 今回のネットの件に限らず、新疆に関する中共のやり口を見ていて感じるのは、道義的に善いとか悪いとかいった以前に、とにかく無駄が多いということです。

国際情勢の変化も、自国の社会構造の変動も理解できない、“頭の中が完全に文革時代で止まってしまったような”党官僚が、自ら問題をこじらせて、ひたすら統治というか包摂コストを上昇させている。お陰でウイグル人も漢人も、たまに彼の地に出入りする外国人も迷惑を被っている。そんな感じですか。

最近の、彼の地でのゴタゴタの根底にあるものが、決してお上が言っているよな“外在的な要因”なんかではなく、

“高等教育からのウイグル語の排除など、民意を無視した強引な同化政策”

だとか、

“漢人移民の増加により、従来の生活圏が破壊されることへの原住民族の不満”

だとか、

何よりも

“自治区政府とは別個に存在する、<国家の中の国家>のような党直結の屯田兵組織(=生産建設兵団)が利権を独占するような歪な経済構造と、それに基づく南北間の大きな経済格差”

といった、ことごとく“内在的”な問題であることは、もはや誰の目にも明らかな訳です。

→(3)に続く



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10 コメント

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Unknown ( )
2010-05-04 13:13:19
まあ、いくら民族の団結とうたったところで実体は漢民族が主体でそのほかの民族は漢族に合わせろってことですからねえ
アメリカにおいていくら一つのアメリカ!とか言っても社会の実権を握ってるのは結局は白人系だったりするのと同じようなもんでしょ
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Unknown (Unknown)
2010-05-04 14:33:11
でも、「大日本帝国」に比べればかなりましな統治だと思うんだけどな
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Unknown (Unknown)
2010-05-04 14:53:52
>ちなみに、約800万というウイグル人の人口は、中央アジアの主要民族の中ではウイグル人、カザフ人に次いで3番目。この辺では立派に“大民族”の部類に入る。

2つ目の「ウイグル人」は「ウズベク人」でしょうか?
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深い 深すぎます (vec)
2010-05-04 16:02:41
内容が深い、、、しかも現地って凄い、、何者?
革命とか、、、凄すぎるし、、、しかも状況分析とか面白いし、、。
勉強になりました。
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Unknown (Unknown)
2010-05-04 17:31:15
大日本帝国は半世紀以上前にすでに消滅してるっすよ
中国はなんかまだあの時代の感覚とごっちゃになってる感じがする
でかすぎるからかもしれないけど
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Unknown (Unknown)
2010-05-04 18:25:33
漢人はどこも破壊してんな
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Unknown (マーシャ)
2010-05-04 21:28:05
日本に来るような中国人には、政府の民族政策を冷めた目で見てる人もけっこういる印象です・・・。国で教えられたことを心から信じてる人も中にはいますが、北京オリンピックを境に、「中華民族熱」は徐々に落ち着いて来たのかと思ってました。
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Unknown ( )
2010-05-04 23:48:13
中国の中の人はこれでも「親切な統治を行っているつもり」なんでしょうかやっぱり・・・
日本が朝鮮を併合していた時代ならまだ通じたやりかたでしょうが、今のご時世「インフラ整備してやるから中華民族にな~あれ♪」では無茶があります。
そもそも宗教も文字も違うのに民族民族言ってるのは端から見ると非常に不自然なのですが、強引に「改訂版漢民族」をクリエイトしちゃった人たちは不自然には感じないのですかね。
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Unknown (裸族のひと)
2010-05-06 23:14:58
>“各民族共通の敵が、ラビヤ率いる三種の勢力(分離主義者、テロリスト、イスラーム原理主義者)であることを、はっきりと認識しよう!”

う~ん。俺的には各民族共通の敵とは、共産主義者、武装警察(人民解放軍)、中華思想(原理主義者)であることを、はっきりと認識しよう!・・・てな感じなんだがwww

そもそも、現在の所謂”漢族”など昔の漢民族とは何の関係も無く、支配者が便宜的に統治するのに都合良く作られた制度にしか過ぎない。
自分のアイデンティー(民族と文化)がはっきりとしない大多数の連中を纏めるのに都合が良いだけ、なんですよねぇ。五輪の頃からのスローガン”ワンドリーム・ワンチャイナ”みたいな感じで「中国の中のひと」にとっては不自然だろうが何だろうが、とにかく”洗脳”したいんですな。

3つの不可分性とやらにしても、裏を返せば”漢人を少数民族から分かつことは困る。少数民族を漢人から分かつことは困る。それぞれの少数民族を互いに分かつことも困る”という事ですから、「オイ。本音のまんまじゃねーか!」と思わず突っ込みたくなります。


まぁ、昔から中共は「内在的な問題」を「外在的な問題」に強引にすり替えてきましたが、とにかく頭の悪い無駄なやり方だと思います。党幹部の連中は文革時代から思考停止したままでコレが一番だと考えているのでしょうが、実は何の解決にもなっていないよ・・・。
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Unknown (管理人)
2010-05-11 23:17:42
>2010-05-04 14:53:52-dono
>2つ目の「ウイグル人」は「ウズベク人」で
>しょうか?

Goshiteki arigatou gozai masu.Uchimachigai
desu ne. Naoshite oki masu.

>裸族-dono
>3つの不可分性とやらにしても、裏を返せば
>”漢人を少数民族から分かつことは困る。少
>数民族を漢人から分かつことは困る。それぞ
>れの少数民族を互いに分かつことも困る”と
>いう事ですから、「オイ。本音のまんまじゃ
>ねーか!」と思わず突っ込みたくなります。

Motto hineri you ga nai ka to omoun desu ga ne.

Hitotsu no DOGMA wo houjiru heisa-teki na soshiki dewa, mina baka ni natte iku no dato omoware masu.
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