無の中からポコリと生まれる気泡のように、自我に対する初発の感取は忽然と生じるが、その機縁の正体は白昼の思考のみによって把捉できる圏内にはない。自我への感取は、踏み台のないところで起こる跳躍であり、それ以前の経験意識、踏むべき敷石は全き無の中にあったものである。前触れなく瞬発する自我という閃光は、宇宙開闢と同じ拠り所からやって来たのかもしれないが、それは予測可能な現象であるのだろうか。ひょっとすれば夢幻のみ存在する無の中で、一つの元(意識以前にあるものども)としてそれまで帰属していた集合を、忽然に感触(対象化)する足場は必ずどこかから調達されて来たものである。更にまた、その集合内から跳躍して当該集合を元(形象)とする新たな集合へ跳躍し、次々これを繰り返して行くには、それを可能とした始まりの契機がなくてはならない。ただ、帰属集合を蹴破っては埒外へ跳躍し、見返り見返りしては対象化し続けることを可能にする感応認識の実在は、それ自体の軌跡によって顕在する現象であるとは言い難い。
死者は自らの死後を觀察することができないとしたら、それでは、それまで無であった生者を生者として感取した未醒の発端が自我意識を震撼するというのは首尾の一貫性に欠くことであり、非存在にある(あった)存在の存在としての自明の運命とするのは、ほとんどつじつまが合わないことと思われる。思考の究極の先には思考の辿る理路とはまったく異相の整合性が寝そべっていると夢想することは、一つの稀有な誘惑となり得るのだ。
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