美濃屋商店〈瓶詰の古本日誌〉

呑んだくれの下郎ながら本を読めるというだけでも、古本に感謝せざるを得ない。

偽書物の話(九十二)

2017年06月07日 | 偽書物の話

   「そうそう、これまで私は書物が文字を集めて別世界を語ると述べて来ました。私の言う別世界は、念のためですが、読み物としての、あるいは、読書に没頭する時間の経過としての遊魂の世界、特殊の虚脱体験を透写しているものと速断しないでもらいたいのです。書かれたことは書物になった時から現実の世界に密に重なり合い、それにより加増する世界の階層ごとで、張り巡らされた回廊が縦横に拡がり、未踏の(未開のと言ってもかまいませんが)思惟を宛てがいに容れた綺室が左右に造営されて行く、そのように転々新たな運動の様相を注ぎ足して行く過程を、私は具体事に徴して解明したかったのです。
   奇抜極まる話ではあるが、目に見えない重力が普く存在し支配する世界の、その重力全体が書物の現われるたび、刻々に新しい組立てへと改まっているかも分らない。重力の構成が変転、変化するとは、即ち、時空自身が内奥から構成を変えて行くことを意味するので、重力の組替えにつれて我々の存在も、さながら飴のように引き伸ばされ、千切られ、ひっつけられしているということです。」

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 真正の人でない者(孟子) | トップ | 幻影夢(十七) »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

偽書物の話」カテゴリの最新記事