美濃屋商店〈瓶詰の古本日誌〉

呑んだくれの下郎ながら本を読めるというだけでも、古本に感謝せざるを得ない。

偽書物の話(九十七)

2017年07月12日 | 偽書物の話

   「呪力ある文字が群れ集まり、数知れぬ文字は束ねられ、不壊の精神性を具現した書物が生まれる。私は、私自身の思考や意識に生じる臨界的発火に引き照らして、書物を考えて来ました。及ばずながら自戒しているのは、乱暴な擬人化によって、有り勝ちな牽強付会を論中にまぶし入れざるを得なくなり、遂には書物論を半端物にしてしまうことです。現実の世界に別世界を付加するのは、文字の叫びや囁きであって、書物に格別の地位をあてがい、書物を存在の高い権能と定立するのは、謎や神秘の現前を望む低級な憧れに溺れているからではないかと危惧したのです。
   だけれど、埒もない時間のすきまを狙って横入りした椿事ではあっても、書物からの声を直接に見聞きしたとなれば、私の危惧はいささかなりとも和らぐことになります。私が現に見聞きした声は、私の書物論を受け入れる書物側からのサインと読めないこともない。文字を携え、装釘を整えた書物が、文字を統御して別世界をもたらす、のみならず、文字の織りなす表層からは汲み取り得ない新奇の世界を声に表して追補する。黒い本とともに夕間暮れに沈む私は、書物が指し示す複層世界への階段を見渡す想いがしました。

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