美濃屋商店〈瓶詰の古本日誌〉

呑んだくれの下郎ながら本を読めるというだけでも、古本に感謝せざるを得ない。

偽書物の話(六十一)

2016年11月02日 | 偽書物の話

   「手記の中身が荒唐無稽な夢想の世界をだらだら書き記したものと見られるのは、先刻私が言い募った通りです。異世界の体験談として読み取るのはいかさま苦し過ぎるとは、再々断るまでもない。そうではあるが、いったん文字になってここにこうして形ばかりであれ書物として残り、そうしてまた別個の世界が残ったということに目をつぶることはできません。実在の真偽を巡る無限の螺旋軌道から永遠に解放された別世界が、書物の形を与えられて現世界に残ることになる。空事であるとどんなにか貶め誹謗しても少しも揺るがない世界が、一冊と数える単位で次々に追加され、いくらでも残って行くことを私は感謝せずにはいられないのですよ。」
   水鶏氏の本心によれば、書物となった文字は残り、残った文字は真偽証明の範疇から永遠に脱け出てしまう。一冊、一冊ごとに別々の世界が出来上がって行き、その世界の真偽を問いかけることは無意味なのである。
   書物という形で書き残された文字は、仮にあるとした現世界を映しているようでいながら、実は現世界を透して存在し得る限りのありとあらゆる世界を伝えるものに違いない。もしかしたらそれ以上に、存在の影すら垣間見えなかった世界を呼び醒まし現世界を脅かしてしかるべきものだと、そう水鶏氏は言いたいのかも知れない。

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