美濃屋商店〈瓶詰の古本日誌〉

呑んだくれの下郎ながら本を読めるというだけでも、古本に感謝せざるを得ない。

偽書物の話(九十三)

2017年06月14日 | 偽書物の話

   水鶏氏は再び三度元に還り、結局は自分に言い聞かせるように書物論の上に手を延べ、有り勝ちな誤解の皺を敷き均そうとしているやに見受けられた。他方、意外の回路を結んでしまったことから、持論の改削をも想起させるに及んだ黒い本と一旦距離を置くために、自照に徹して書物論を質し直す姿勢とも窺えた。覆いかぶさって来た偽書物は水鶏氏書物論の足をすくうのか、氏の論を格段豊かにするのか、私の卑小な頭では先行きを憶断するのさえ恐れ多い。会話の始まりからずっと、水鶏氏の思考は右にし左にししながら動きを止めない。氏の背中を見失わないでいるには長く気を抜いていられなかったが、実のところは何度も見失っていたのである。
   「黒い書物の声が書物一般に通有のものであるとは、時をおかずして確かめなければなりませんが、暫時それを棚上げして言わせていただければ、書物が内身に記された文字の規整に囚われない独自の声を発すると立論したときには、それら独自の声が振起する乗数的に重層する別世界、次元を異にする光彩を幾重にも浴びる世界の描出がさだめし求められるでしょうね。

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