碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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年末特別企画『2010年、テレビは何を映してきたか』2月編

2010年12月17日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年
(トトロの指人形コレクション)


『日刊ゲンダイ』に連載している私のコラム「テレビとはナンだ!」。

このテレビ時評を読み直すことで、2010年を振り返る“年末特別企画”(笑)です。

この1年、テレビは何を映してきたのか。

今日は、2月編。


2010年、テレビは何を映してきたか(2月編)

「ザ・逆流リサーチャーズ」テレビ東京

 “逆転の発想”ならぬ“逆流の発想”である。テレビ東京「ザ・逆流リサーチャーズ」は、身近にある様々なモノを、その“始まり”まで遡っていく、いわばリサーチ・バラエティーだ。
 たとえばペットボトルがどうやって作られるか、ご存知だろうか。元になるのは「プリフォーム」と呼ばれる試験管のような小さな筒。これは加熱して空気を吹き込むと膨張する。ペットボトルの形をした金型の内側にプリフォームを装着し、一気に膨らませるのだ。
 ちなみに、なぜペットボトルというのか。材料が「ポリ・エチレン・テレフタレート」というポリエステルの一種で、その頭文字からPETボトルと名付けられたのだ。ふーん、知らなかった。まるで“オトナの社会科見学”である。
 また「逆流映像クイズ」のコーナーでは、最初に現在の姿・形を見せておいて、次に「これは何?」と問いかける。ある時はモノをミキサーにかけて粉々にし、またある時は鍋の中で煮込む。画面には鍋のアップ。VTRが逆回転(逆流)し、徐々に「元の姿」が見えてくる間に答えを探すのだ。色や溶け具合から想像するのだが、これが意外と“頭の体操”になる。
 スタジオには関根勤やおぎやはぎ、優木まおみなどがいて、適度な賑やかさ。「隙間狙いのオリジナル企画」というテレビ東京らしい1本だ。
(2010.02.01)


「ザ・ソングライターズ」NHK

 昨年の夏にNHK教育で放送された「ザ・ソングライターズ」。名だたるシンガーソングライターに「音楽と言葉」をめぐる話をじっくりと聞く番組だ。インタビュアーは佐野元春。登場したのは小田和正、矢野顕子など6人である。
 現在、総合テレビで水曜深夜に再放送中で、先週は松本隆の回だった。松本といえば松田聖子という感がある。だが、ある世代以上にとっては伝説のバンド「はっぴいえんど」だ。当時は日本語ロックと呼ばれたが、松本をはじめ細野晴臣、大瀧詠一、鈴木茂というメンバーは今も刺激的だ。
 この番組での松本は終始リラックスしている。いや、それは松本に限らず、どのゲストにも共通する。音楽を分かっている佐野を聞き役にしたおかげだ。テーマである歌詞についても「風とか水、流動的なものが好き。形のあるものは信じない」と率直に語っていた。
 収録は佐野の母校・立教大学の教室だ。聴衆は他大学も含む学生たちで、最後には質疑応答もある。見ていて、これは「アクターズ・スタジオ・インタビュー」だと思った。アメリカの有名な演劇専門学校で行われる、現役俳優へのインタビューを番組化したもので、NHKでも放送していた。そのソングライター版だ。
 今週のゲストはスガシカオ。夏には第2シリーズも放送予定だ。音楽ファンにはおススメです。
(2010.02.08)


「泣かないと決めた日」フジテレビ

 NHKの朝ドラに出ていた瞳(榮倉奈々)が、里子の世話やヒップホップダンサーを諦めて就職したのかと思った。フジテレビのドラマ「泣かないと決めた日」である。慣れないOL(制服姿はカワイイ)の榮倉が社内イジメに遭う物語だ。
 配属された部署の連中がひどい。陰口や無視は当たり前。仕事の邪魔をする。自分のミスをなすりつける。窃盗犯に仕立てようとする。冷凍庫に閉じ込める(もはや殺人未遂だ)。さらに榮倉に成り済ましてブログを立ち上げ、上司や先輩の悪口を書きまくるのだ。
 過剰とも思われるイジメの場面は辛い。しんどくなる。ただ耐えるばかりの榮倉も鈍臭く見える。また、若い視聴者層にしてみれば、就職難で苦労した上、入社後も陰惨なイジメが待っているんじゃ堪らない。そんな未来は見たくないのだ。視聴率が10%前後と振るわないのも分かる。
 このドラマ、若者向けだと思うからいけない。就職した子どもを持つ親が見るべきなのだ。描かれるイジメの数々は、制作側が現役OLなどにリサーチした上で脚本に盛り込まれている。ある種の“再現ドラマ”だ。
 かわいい我が子が、ようやく入った会社でこんな目に遭っているかもしれない。家族にも言えず悩んでいるかもしれない。だからこそ、ヒロイン瞳の、いや榮倉の“反撃”方法に注目したいのだ。
(2010.02.15)


「極嬢ヂカラ」テレビ東京

 「ブラジリアンワックス」をご存じか?リオのカーニバルでは女性たちが極小ビキニで踊る。アンダーヘアの処理は必須だ。で、ワックスを使った脱毛法が発達。それがブラジリアンワックスである。私は水曜深夜のテレビ東京「極嬢ヂカラ」で初めて知った。
 この番組が凄いのは脱毛の“現場”に密着していること。モニターは34歳の美女だ。普段は「ほったらかし」だが、彼のために(ヘアを)可愛いハート型にしたいと言う。下半身の衣類を全て脱ぎ、ベッドに寝そべる。脱毛したい部分に熱いワックスが塗られる。それが乾燥したら、後はベリッとやるだけだ。痛かろうに。
 施術中の美女の姿を想像して欲しい。ほとんど産婦人科の診察台である。微妙なカメラワークと編集で放送可能にはしているが、かなり際どい。
 そんなVTRを肴にスタジオでおしゃべりするのが、大橋未歩アナやYOUなど4人の女性だ。大橋アナは「私の(ヘア)は無法地帯」などと言い放つし、YOUも「(脱毛して)誰に見せる気だ?」と突っ込む。このアッケラカンぶりが、いっそ気持ちいい。えげつないけど、下品じゃない。
 エンドロールを見たら、スタッフ全員が女性だった。女性が作る女性向け番組だが、女性客が集まれば自ずと男性視聴者も寄ってくる。エグくて、エロくて、結構戦略的な深夜番組なのである。
(2010.02.22)


*テレビ時評としての「記録性」保持のため、
 文章はすべて新聞掲載時のままにしてあります。

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