碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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倉本聰の総決算ドラマ「やすらぎの郷」

2017年04月20日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



日刊ゲンダイに連載しているコラム「TV見るべきものは!!」。

今週は、倉本聰脚本「やすらぎの郷」」について書きました。


テレビ朝日系「やすらぎの郷」
「言いたいことは言っておく」
倉本聰の総決算

2008年に放送されたドラマ「風のガーデン」(フジテレビ系)。その脚本を書き上げた時、倉本聰は新聞などで「これが最後の連ドラになるかも」と語っていた。「質は考えず視聴率だけで評価する」テレビ局に憤っていたのだ。実際その後10年近く、倉本は連ドラを書いていない。

視聴率だけで評価するテレビ局の目は、いつも若者層に向けられてきた。スポンサーが喜ぶ、消費と購入を繰り返してくれるからだ。一方、消費と購入が緩慢な高齢者は切り捨てられる。この層はずっと「見たいものがない」状態に置かれていた。

「やすらぎの郷」は、高齢者による、高齢者のための、高齢者に向けたドラマだ。脚本の倉本が82歳。出演者も八千草薫(86)、有馬稲子(85)、浅丘ルリ子(76)、加賀まりこ(73)、そして主演の石坂浩二(75)と70~80代の役者が並ぶ。

いずれも大物だが、若者狙いのドラマが氾濫する時代には、活躍の場が限られてしまう。しかし、その存在と演技には凡百の役者が及ばない本物感がある。過去への執着、病や死の恐怖、芸術や芸能への未練などの葛藤。この年代でなければ表現できない世界があるのだ。

同時にこのドラマは倉本自身の総決算でもある。物語の中に厳しいテレビ批判や社会批判も入れ込んだ、「言いたいことは言っておく」ドラマだ。やはり目が離せない。

(日刊ゲンダイ 2017.04.19)

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