碓井広義ブログ

<上智大学教授のメディア時評> 見たり、読んだり、書いたり、話したり、時々考えてみたり・・・

「恋愛ドラマ」が消える!?

2016年11月08日 | メディアでのコメント・論評



週刊現代で、「恋愛ドラマ」についてコメントしました。

フジテレビだけ置いてきぼり?
テレビドラマから「恋愛」が消える日 
なぜミステリー、職業モノばかりなのか

トレンディドラマの時代からおよそ20年。いまや恋愛至上主義のドラマは一部を除いてほとんどない。厳しい現実と向きあっている視聴者は、浮き世離れした男女の恋物語など興味がないのだ。
ジャニーズもいらない

「今年の夏はリオ五輪があったため、各局とも秋のドラマに大物俳優を起用して勝負をかけていました。その結果はテレビ朝日の完勝に終わりそうですね。マーケティング担当者のシミュレーションでも、これで今年のゴールデンタイムの年間視聴率1位はテレ朝でほぼ確定しました。勝因は『恋愛ナシ』と『安定感』でしょう」(大手広告代理店社員)

テレ朝は、米倉涼子がフリーランスの天才外科医を演じる『ドクターX ~外科医・大門未知子~』の第4シリーズが、初回視聴率20・4%を記録し、大台を超えた。

「『ドクターX』は、極端なキャラクターがたくさん登場し、主人公には『私、失敗しないので』という決め台詞があり、最後には難手術を成功させて患者を救って結果を出す。毎回そんな分かりやすいストーリーだから、F2層(35歳~49歳の女性)やF3層(50歳以上の女性)が安心して見られるんです。

もし主人公が恋愛をしたら、女性視聴者は賛否に分かれて、ドラマは途端にダメになるでしょう。色恋沙汰はナシと大胆に割り切ったからこその人気なんですよ」(コラムニスト・ペリー荻野氏)

同作の主要キャストは、米倉のほか、西田敏行、泉ピン子、岸部一徳、吉田鋼太郎、生瀬勝久、草刈民代と実力派揃い。恋愛の要素はまったくなくても、見応えは十分だ。

優等生の女優が多いなかで、私生活でも奔放なイメージがある米倉に、権力に媚びずに言いたいことをズバズバ言う女医役はハマリ役です。

作り込まれた明快なストーリーに、役柄に合った俳優を起用していけばドラマは当たるんですよ。どんな設定のドラマでも必ず男女の色恋を入れなければヒットしないというセオリーはもう古いんです」(テレ朝関係者)

テレ朝の早河洋会長が、9月の定例会見でSMAP解散に関連して、記者から「事務所の力は強いか? と質問され、「プロダクションはいっぱいあるわけで、その中の優れた俳優をそろえて編成していく」「事務所の影響力で(テレビ局が)右往左往しているように見られるのは、ちょっと残念です」と答えたことが、テレビ業界で話題になった。

「ジャニーズのタレントに頼らなくてもヒットドラマは作れると言っているわけです。ジャニーズの若手を起用すると、ターゲットがF1層(20歳~34歳の女性)になり、どうしても恋愛がテーマになる。

しかし、その層はもはやテレビドラマを見ないので、数字が取れない。早河会長は米倉のことを『涼ちゃん』と呼ぶほど信頼を置いている。今回の『ドクターX』第1話において、米倉が大好きなニューヨークでロケが行われたのはまさにご褒美です」(前出・広告代理店社員)

さらにテレ朝は今クールに『相棒』シリーズ15作目と『科捜研の女』シリーズ16作目を投入している。これらも15%前後の高視聴率は確実だ。『ドクターX』と共通するのは、20代の人気俳優はほとんど出演せず、「恋愛」「結婚」といったテーマは皆無なことだ。

真面目に頑張る人を描く

「『相棒』には人気女優の仲間由紀恵がエリート警察官として3番手で出演していますが、もちろん色恋はない。仲間はここで主演の水谷豊に認められれば、反町隆史の後釜に座る可能性もありますから、気合が入っています。

他にも山本耕史が後釜という声もあり、次の相棒役は誰かというのも視聴者の楽しみの一つです。『科捜研の女』の沢口靖子は中高年男性にとって、永遠のアイドル。もはや『笑点』と同じレベルで、中高年層に視聴習慣がついているんです」(テレ朝関係者)

今クールでこの3本以外に高視聴率を獲得したのが、初回が13・1%だったTBSの日曜劇場『IQ246』である。

「家族で安心して見られることが、日曜劇場のウリですから、恋愛はナシ。ただし局側はシリアスな『相棒』を意識していて、一方、主演の織田裕二はコメディドラマをやりたかった。今後、テレ朝の3本に迫れるかは微妙です。ちなみに来年1月からの日曜劇場は木村拓哉主演ですが、設定は外科医。キムタクドラマでさえ恋愛は封印します」(テレビ誌ライター)

歴史や実話をもとにしたNHKの大河ドラマや朝ドラ『べっぴんさん』も含め、今クールで視聴率10%以上を獲得し、視聴者から高評価を得ているテレビドラマはいずれも「恋愛」をメインにした作品ではない。

石原さとみが主演する日本テレビの『校閲ガール』は、出版社の校閲者という「言葉のプロフェッショナル」を主役にした職業ドラマである。

TBSの『逃げるは恥だが役に立つ』は、若者に人気がある新垣結衣と星野源が出演する男女の物語だが、いわゆる「恋愛ドラマ」ではない。

新垣が演じるのは、文系の大学院で学んだものの就職先が見つからない求職中の女性。彼女は生活していくために、家事代行業の仕事先で知り合った会社員の男性(星野)と「契約結婚」(事実婚で性的な関係はなく、女性は給料をもらって家事を担当)する……というストーリーだ。

元毎日放送プロデューサーで同志社女子大学教授の影山貴彦氏はこう解説する。

「このドラマは社会的な問題に一石を投じています。大学院生が仕事で報われない社会システム、特に女性に対しては厳しいままだという裏テーマがあるんです。主人公は社会の不条理さに怒りながらも、置かれた立場で花を咲かそうとする。

非現実的な設定なようで、一皮むくと、そこに厳しい現実が描かれています。中高年の鑑賞にも十二分に堪えうるドラマです」

『校閲ガール』や『逃げるは恥だが役に立つ』は、「地に足をつけて真面目に働く女性」の物語なのである。それは『半沢直樹』や『下町ロケット』と同じテイストなのだ。

月9は一昔前のメロドラマ

一方で、フジテレビの看板「月9ドラマ」だけが、いまだにピントが外れている。元テレビプロデューサーで上智大学教授(メディア論)の碓井広義氏が語る。

「見た目のいい男女が、すれ違いながら、最後は結ばれる。そんなバブル期の恋愛ドラマの作り方を引きずっているんです。いくら目先を変えても、若い視聴者からは『私たちだって恋愛のことばかり考えているわけじゃない』と、そっぽを向かれてしまっている。

人生経験豊富な40~50代の女性も『月9みたいな恋愛ドラマはもう見たくない』と飽きてしまっています。そんな状態が、ここ何年も続いています」


今クールの月9『カインとアベル』も初回視聴率8・8%と低迷しているが、それも当然だろう。主演はジャニーズの人気アイドル・山田涼介で、大手不動産会社社長の次男である主人公を演じる。副社長を務める優秀な兄との葛藤のなか、兄の恋人と三角関係に陥る……まるで一昔前のメロドラマである。

ドラマ評論家の黒田昭彦氏が語る。

「恋愛ドラマが数字を取れなくなってきた決定的な分岐点は、やはり'11年3月の東日本大震災です。そのため'12年の月9は、『嵐』の松本潤や大野智を主演に起用しても恋愛モノにはしなかった。

フジだって現場は薄々分かっていたんですが、過去の栄光を忘れられない上層部が『月9は恋愛ドラマだ』と言い出して、恋愛ドラマに回帰してしまったのでしょう」

かつてトレンディドラマをプロデュースしていた大多亮氏や亀山千広氏が、'12~'13年からそれぞれ常務、社長に就任し、明らかに迷走が始まった。

昨年11月の定例会見で、亀山氏は、月9についてこう語っている。

「今まで押し出してきたワクワク感だったり、ドキドキ感だったり、少し浮き世離れしたお祭り感がどこかで絵空事に見えてしまうようになったのかなと思います」

フジの若手社員はタメ息まじりにこう明かす。

「分かっているなら、なぜ変えないのか……。上層部は'90~'00年代前半に大手芸能事務所にお世話になった恩義があります。そのためキャスティングにしがらみが残っていて、いまだに大手事務所が売り出し中の若い俳優を起用する必要があるんです。

すると恋愛モノを作るしかなくなる。ギリギリの人間性を表現する本格ミステリーや社会派の作品にはベテランの演技力がいりますからね」

恋愛ドラマが視聴者に受け入れられない理由について、中央大学教授・山田昌弘氏は社会学の視点からこう分析する。

「第一点は、若者に恋愛離れが起きているということ。恋愛自体に興味関心がない若者が増え、交際相手がいる割合は減少している。さらに彼氏彼女が欲しいと思っている人も減っている。若者全般に恋愛に対するあこがれがなくなってきたということです。ただし結婚はしたいと思っている。

つまり、結婚に結びつくマニュアルになるならまだ見たいけれど、恋愛はもういらない、ということなのでしょう。ドラマの恋愛はモデルにならなくなった、ということです」

何度も都合よく男女が偶然出会う話は参考にならない。そもそも、SNSで24時間相手の動向がわかる現代では「すれ違い」や「会えない時間の辛さ」といった要素は、もはや何の共感も呼ばないのだ。

「さらに言えば、中高年はいまさら『若者がこういう恋愛をしている』というドラマを見させられてもまったく意味がありません」(山田氏)

やるならよほど上手くないと

前出の碓井氏が嘆く。

「とは言っても、人を好きになるという基本的な感情に変わりはありません。その点では、作り手の力量が問われている。いい脚本といい役者がいたら、いまでも映画『君の名は。』のように恋愛モノはヒットする。しかし、テレビにはその2つがないということです」


作り手である30代の民放テレビ局ドラマプロデューサーが語る。

「単純に恋愛モノで主役を張れるような、幅広い世代から支持を受けている20~30代の若手男性俳優がほとんどいないんですよ。各局とも恋愛ドラマを捨てたわけではないですが、よほどよくできた原作がないと、会議で通らないんです」

各局のプロデューサーはリスクも高い恋愛ドラマに及び腰だという。

「まず過激なベッドシーンはいまの時代できないので、無難な絵になります。しかも恋愛ドラマはツイッターなどで話題が広がりにくい。ミステリーやサスペンスが有利なのは、その後の展開予測でネットが盛り上がってくれるから。

また、いまのドラマは『相棒』のように人気が出たら映画化や続編も作るというのが主流ですが、恋愛ドラマは続きが描きづらいため、ヒットしても儲からない」(前出・プロデューサー)

観るほうも、民放各局の作り手も「恋愛ドラマ」を求めていないのだ。

そんな中、このクールで異彩を放つのがNHKのドラマ。『運命に、似た恋』ではクリーニング店店員役の原田知世が新進デザイナー役の斎藤工と恋に落ちる。また、観月ありさ主演のNHKプレミアムドラマ『隠れ菊』は不倫がテーマだ。

「1話に愛人が3人も出てくるドラマって、なかなかないですよ(笑)。ドロドロした愛憎劇が好きな少数派の受け皿は、今はNHKになっています」(前出・ペリー荻野氏)

今秋はNHKだけが恋愛ドラマの良作を作っているのが現状だ。時代に合った新しいタイプの恋愛ドラマは今後生まれるのだろうか―。

(週刊現代 2016年11月5日号)
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