碓井広義ブログ

<上智大学教授のメディア時評> 見たり、読んだり、書いたり、話したり、時々考えてみたり・・・

書評した本: 大下英治 『高倉健の背中~監督・降旗康男に遺した男の立ち姿』ほか

2017年02月24日 | 今週の「書評した本」



「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。

大下英治 
『高倉健の背中
~監督・降旗康男に遺した男の立ち姿』

朝日新聞出版 1944円

高倉健が主演したテレビドラマは、わずか4本しかない。『あにき』(TBS系、77年)はその中の1本で、ドラマ初主演作でもある。何代も続くとび職「神山組」の頭、神山栄次を演じた。この時、脚本の倉本聰は、高倉健という俳優がセリフで感情を表現するタイプではなく、セリフをしゃべらなくてもいろいろなものを表現できる人だとわかった。

主演・高倉健、監督・降旗康男という組み合わせでの第一作が、映画『冬の華』(78年)だ。その脚本を、倉本は高倉への私的ラブレターのつもりで書いた。その後、高倉と降旗は何本もの作品を生み出していく。

同じ倉本脚本の『駅 STATION』(81年)。山口瞳原作の『居酒屋兆治』(83年)。俳優・ビートたけしが光った『夜叉』(85年)。元野球選手の板東英二を起用した『あ・うん』(89年)。「日本アカデミー賞」最優秀主演男優賞、「ブルーリボン賞」主演男優賞を受賞した『鉄道員(ぽっぽや)』(99年)。田中裕子と共演した『ホタル』(01年)。そして、最後の主演作品となった『あなたへ』(12年)である。

著者はこれらの作品の制作過程を追いながら、関係者への取材をもとに“全身俳優”の実像を探っていく。たとえば、高倉は本番で何をやるかわからない。テストもやらない。段取りの確認はしても、本気の芝居は本番まで見せない。撮影の木村大作が、その一発勝負を撮り逃さないことを知っていたからだ。

また役柄であっても、自分自身が許せないキャラクターを演じることを拒否した。脚本、もしくは原作にあるキャラクターが「自分のなかにストンと入ってこないと駄目」なのだ。映画の残像や映像、演じた人間性などが年輪のように積み重なり、「高倉健」が出来上がったのかもしれないと著者は言う。

タイトルの「立ち姿」は、いわば高倉の象徴だ。立っている後ろ姿だけで、今も観る者を引きつける。


寺崎 央 
『伝説の編集者H・テラサキのショーワの常識』

エンジェルパサー 1944円

著者は12年末に亡くなったが、その博識と洒脱が甦る一冊だ。「ま、聞けや」という懐かしい説教スタイル。“尻取り雑報”を自称する文章は、たとえばディラン・トマスに始まり、田口トモロヲ、葛飾立石のトリ屋を経て映画『リトル・ダンサー』へと至る贅沢三昧だ。


根木正孝 
『ビートルズ原論~ロックンロールからロックへ』

水曜社 1944円

来日から半世紀。なぜビートルズは世界的な存在となり得たのか。その出現以前からの歴史を踏まえ、音楽の流れ、ベビーブーマーをはじめとする社会的背景、レコードプレーヤーの普及など多角的視点で検証している。60年代という時代と文化を再認識させる一冊。


穂村 弘 『野良猫を尊敬した日』
講談社 1512円

北海道生まれの歌人が地元紙に寄せたエッセイが並ぶ。高校時代は天文部。北大ではワンダーフォーゲル部。勤めた会社で遭遇したセクハラ大王。そしてインターネット未接続の自宅。どのページも、伊藤整文学賞受賞者のやわらかな“生活と意見”に満ちている。


小山慶太:編著『漱石と「學鐙」』
丸善出版 1728円

丸善が発行する「學鐙」の創刊は明治30年。120年の歴史をもつ日本最古の広報誌だ。夏目漱石は大量の洋書を購入する上客であり、寄稿者でもあった。本書ではこの雑誌に掲載された漱石の「カーライル博物館」、そして小宮豊隆などによる漱石論25編が読める。

(週刊新潮 2017年2月23日号)
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