碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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「あなたのことはそれほど」 共感できないヒロインに興味 

2017年06月25日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評



毎日新聞のリレーコラム「週刊テレビ評」。

今回は、ドラマ「あなたのことはそれほど」について書きました。


「あなたのことはそれほど」 
共感できないヒロインに興味

今期は、「小さな巨人」(TBS系)、「緊急取調室」(テレビ朝日系)、「CRISIS 公安機動捜査隊特捜班」(フジテレビ系)など刑事ドラマが林立していた。おかげで目立ったのが、今週最終回を迎えた「あなたのことはそれほど」(TBS系)である。

ヒロインは、優しい夫・涼太(東出昌大)との2人暮らしに物足りなさを感じていた美都(波瑠)。中学時代に憧れていた同級生・有島(鈴木伸之)と出会い、不倫関係に陥る。原動力は美都がこの再会を「運命」と感じたことだ。一方の有島は妻・麗華(仲里依紗、好演)の出産という、実にわかりやすいタイミングだった。

このドラマが異色なのは、主な登場人物である4人の誰にも「共感」できない、もしくはしづらいことだ。何よりヒロインである美都のキャラクターが乱暴で、既婚者意識や倫理観どころか、躊躇(ちゅうちょ)という文字さえほとんどない。

また不自然な笑顔で美都への愛情を主張する涼太。美都にとっては「運命の人」かもしれないが、夫としても愛人としても軽過ぎる有島。そして、じわじわと怖くなっていく麗華。いわゆる「共感」とは距離のある人物ばかりである。

美都の暴走や涼太の狂気には息苦しいコンプライアンス社会からの無意識の脱出、逃走という要素があったのかもしれない。結果的に多くの視聴者の関心を集め、特に若者たちの間で話題になった。

大学の二つの授業で、学生たちに「見ている人は?」と聞いてみて驚いた。ある授業では、なんと約60%の学生が、そして別の授業でも約50%の学生が手を挙げたのだ。過去20年、同様の“教室内視聴率調査”を行ってきたが、この数字はとびぬけて高い。同じ枠の「逃げるは恥だが役に立つ」や「カルテット」も遠く及ばない。

視聴理由については、「縛られないヒロインの行く末」「正常な人がいないドラマ」「罪悪感のない妻とサイコパスな夫」「普通に見えた人が徐々に変わっていく怖さ」などが並んだ。

全体として、ヒロインに対して一般的な「共感」を抱いているわけではなく、また単純な「反感」でもない。自分たちとは大きく異なるがゆえに気になる。むしろ共感できないからこそ見たい。いわば、のぞき見感覚で4人の様子を観察していたようだ。また制作側によるフェイスブックやツイッターなどSNSを活用した情報発信も有効だった。

若者のテレビ離れ、ドラマ離れがずっと言われてきた。今回の局地的調査によれば、「あなたのことはそれほど」は、この20年間で「大学生に最も見られたドラマ」ということになったのだ。

(毎日新聞 2017年6月23日)