碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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2014年の放送業界を振り返る

2014年12月09日 | 「北海道新聞」連載の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今年のラストということで、この1年を総括しました。


今年の業界を振り返って
NHK会長 問題発言連発
ドラマ充実 女優たち牽引

波乱の幕開けだった。1月、NHK会長に就任した籾井勝人氏がいきなり従軍慰安婦や特定秘密保護法について問題発言を連発したのだ。特に「政府が右と言っているものを、われわれが左と言うわけにはいかない」という言葉は、権力を監視し、必要な批判を行うジャーナリズムの使命を放棄するに等しい。この籾井会長に関しては、1500人を超すNHKのOBが辞任を求める要望書を提出するなどの動きが現在も続いている。

続いて起きたのがドラマ「明日、ママがいない」(日本テレビ系)の騒動だ。実在の児童養護施設から内容・表現に対する抗議があり、スポンサーがCMを自粛。放送中止も論じられる異常事態となった。原因はエンターテインメント性を優先させるあまり、現実を物語に取り込む際に必要な配慮と丁寧さを欠いていた点にある。また一方で、今後扱うテーマや表現について萎縮や自粛が生じる可能性、負の遺産を残してしまった。

とはいえ今年のドラマには見るべきものも多かった。NHK朝の連続テレビ小説「花子とアン」は、全話を通じた平均世帯視聴率は関東地区で22.6%と過去10年の最高記録を達成。朝ドラの王道である女性の成長物語に、大正期の不倫スキャンダルなど通俗性を加味した展開が見事だった。もちろん、それを体現したのは吉高由里子と仲間由紀恵だ。

「花子とアン」に限らず、今年のドラマの特色として女優たちの牽引力が挙げられる。「続・最後から二番目の恋」(フジテレビ系)の小泉今日子。「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)の米倉涼子。「きょうは会社休みます。」(日本テレビ系)の綾瀬はるか。「さよなら私」(NHK)の永作博美と石田ゆり子など。中でも「さよなら私」は今年のベストとも言えるドラマだ。

高校時代からの親友同士が41歳になり、永作は専業主婦、石田は独身の映画プロデューサーとして働いている。しかもふとしたきっかけで永作は夫(藤木直人)の浮気相手が石田であることを知る。言い争う2人だったが、突然互いの心(意識)が入れ替わってしまう。不安と戸惑いの中で過ごすうち、今度は永作がガンに冒されていることが分かる。

脚本は「続・最後から二番目の恋」も手掛けた岡田惠和だ。この年代の女性たちの微妙な心理を、本音と建前も含めて丁寧に描き出す。また永作と石田は複雑な役柄を繊細な演技で表現。大人が見るべき1本になっていた。

(北海道新聞 2014年12月08日)


【気まぐれ写真館】 2014年12月8日の夕景 

2014年12月09日 | 気まぐれ写真館