全てが、壊れて行く。
自分の思想も、自分の地位も、自分の信頼していた騎士達でさえも。
全てが自分の手を離れ、自分の知らない所にいってしまう。
それが信じられない。
信じたくはなかった。
けれど現実は残酷で決してアルマに甘くはなかった。
信じていた彼らからの裏切りに近いそれは自分から全てを奪い去っていた。
少なくとも、あの時まではそう思っていた。
自分の頬に衝撃が来た時、呆然と惚けてしまった。
目の前には真剣な顔をしているエルトがいて。
叱咤されたのだと気がついた時にはもう泣き出したくなってしまった。
この人なら。
エルトなら私を信じてくれる。
私を裏切らない。
それがどれだけ嬉しかった事か。
どれだけエルトに救われたか。
全てが崩壊して哀しくないわけがはない。
けれど、たった一つ残ったものがある。
それがエルト=フォーエンハイムその人だった。
全てを無くしたのに、心の奥底で少し安堵し、悦んでいるのは彼がいるから。
エルトが私だけの人になったから!
こんな事誰にも言えない、聞かせられない。
醜い私の心。
エルトが選んだのは国でもなく妹でもなくイージスでもなくキャロルでもない。
エルトが選んでくれたのはこの私。
心の中でどれ程歓喜したか、一生誰にも教えない。
それは私だけの特別。
私だけの幸せ。
本当は知っていた。
イージスとキャロルから嫉妬染みた視線を寄越されていることには。
彼らの気持ちも、十二分に理解していた。
その気持ちは私と同じものだったから。
私も嫉妬していた。
決して同じ目線で、同じフィールドに立つ事すら許されなかった私にはイージスやキャロル達がどれ程羨ましかった事か。
王女として決して私はエルトの隣りには立てなかった。
けれど今は違う。
今や私とエルトの世界にはお互いしかいない。
この世界に私達は2人きり。
私にはエルトが、エルトには私しかいない。
それに歓喜を憶えてしまった私はもうどうしようもないのだろう。
この悦びを味わえるのならば、例え誰に何を言われようと構わない。
この感情が人の上に立つ者として相応しくない事も理解している。
けれど今の私には何もない。
ならば全てと引き換えにただ1人を選んだとて良いではないか。
私にはただ1人の味方がいるのだから。
私は不幸ではない。
全てをなくして。
一番大切な者をこの手の中に手に入れられたのだから。
コメント:イージス&キャロルの続きというか。アルマ編。
ある意味一番大切な者を手に入れたアルマ。