正直に言うと、70年代後半のエヴァンスはトリオの新作を発表しておらず、当時の人気は下降線、ジャズ界では過去の人という扱いになりつつあったのだ。
前作、"I Will Say Goodbye" (77年録音、80年発表)にも同じことがいえるのだが、本作が発表されたのは彼の死後、1981年のことである。
エヴァンスは "You Must Believe In Spring" を遺し、そして伝説となった。
"I Will Say Goodbye" から3ヶ月後、同じメンバーによる演奏とあって、同様のコンセプトで作られたアルバムだと思われるのだが、かなり印象が異なる作品になっている。
メロディアスな楽曲が揃っているというのもあるし、短調の曲が多いのもある。
しかし、それ以上に、エヴァンスのピアノの全ての音が、痛いくらいシリアスに響くのである。
また、エディ・ゴメスも素晴らしい。本作における彼の役割はオブリガートを奏することに徹している。ベースが唄っているのだ。
You Must Believe in SpringBill EvansRhino/Warner Bros.このアイテムの詳細を見る
1977年、ビル・エヴァンスは、Fantasy レーベルから Warner Bros. へ移籍する。
同年5月に録音された "I Will Say Goodbye" は、エヴァンスが Fantasy に残した最後のレコーディングである。
しかし、本作が発売されたのは1980年1月のことだ。ピアノ・トリオは(少なくともアメリカでは)売れない。そういう時代だったのである。
ビル・エヴァンス(p)、ハロルド・ランド(ts)、ケニー・バレル(g)、レイ・ブラウン(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)という5人編成による演奏だが、いわゆるオールスター・セッション的なものではなく、大半の曲において、綿密にアレンジされた楽曲がプレイされている。しかも、当時のエヴァンス・トリオの緊張感と違い、非常にリラックスした雰囲気が漂っているのが特徴といえよう。
(3) "Second time Around" は、ブラウン、ジョーンズとのトリオによる佳曲で、僕は個人的に70年代のトリオ演奏の中で一番好きな演奏だ。なんといっても、レイ・ブラウンのベースがいい。低音が腹に鳴り響くのである。エヴァンスのピアノもお洒落だと思う。どうして、こんな名演奏がわずか3分45秒でフェイドアウトしてしまうのか。全く理解できないのである。
(6) "Nobody Else But Me" は、オリジナル LP に収録されなかったボーナス・トラック。ベースとギターのデュオから始まり、ジャム・セッション風の演奏になっているが、アレンジされた演奏を重視したエヴァンスは、このトラックをボツにしてしまった。この曲があるとないとでは、かなりアルバムの雰囲気が違うと思うのだが。
QuintessenceBill EvansOriginal Jazz Classicsこのアイテムの詳細を見る