『親鸞』完結編~群集と争乱 竜大山遵念寺 「越後の姉上に文を送って…」「恵信に、知らせたのか」

2014-05-21 | 仏教・・・

『親鸞』完結編 310 [作・五木寛之][画・山口 晃]
 中日新聞朝刊 2014/5/14 Wed.
 群集と争乱(1)
 竜大山遵念寺(りゅうたいさんじゅんねんじ)。 

      

 親鸞は唯円とともに、その寺をめざして歩いていた。笠に杖、そして黒衣(こくえ)といういでたちだった。(略)
「唯円どの、あれをみなされ」
 指ししめす先に、異様な寺の姿があった。
 山門と本堂、そして鐘楼。
 こぶりながら三重塔もそなわっている。
 それらのすべてが極彩色で塗りつくされ、周囲の紅葉を圧倒する鮮やかさだ。(略)
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『親鸞』完結編 312 [作・五木寛之][画・山口 晃]
 中日新聞朝刊 2014/5/16 Fri.
 群集と争乱(3)
 (上段 略) 

      

 青い瓦に極彩色の造作という外見のわりに、本堂の内部は簡素だった。正面に、
 〈帰命尽十方無碍光如来(きみょうじんじっぽうむげこうにょらい)〉
 と大書した名号がかけられているだけだ。あとはどこにでもあるような道場の造りである。(略)
「天井の絵を見るがよい」
 と、親鸞は薄暗い天井に描かれた絵をみあげていった。一枚一枚の四角い絵が組み合わされて、どうやら物語のようになっているらしい。
「これは----」
 唯円がおどろきの声を上げた。
「吉水の草庵から、六条河原の斬首の場面までが描かれております。安楽房遵西どのの物語でございますね」(略)
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『親鸞』完結編 313 [作・五木寛之][画・山口 晃]
 中日新聞朝刊 2014/5/17 Sat.
 群集と争乱(4)
「親鸞さま」
 と、その影がいった。
「ようこそおこしくださいました。お礼を申し上げます」
 声の主は、ゆったりとした黒衣に身をつつんだ竜夫人だった。その背後に、申麻呂と常吉、そして長次の姿もあった。(略)
「名号のみの設(しつら)いは----」
 と、親鸞はいった。
「これは竜夫人どののお考えかの」
「いえ。越後の姉上に文を送って相談いたしましたところ、数日前に返事がございまして、このようになさいとお教えいただいたのです」
「恵信に、知らせたのか」
「いまは唯一の身内でございますゆえ」
 親鸞は思わずため息をついた。唯一の身内、という言葉が、深く胸につきささったのだ。(略) 

       

 やがて鐘楼から澄んだ鐘の音が流れた。
 竜夫人が本堂の正面にすすみでると、一瞬、それまでの喧騒が嘘のようにしんと静まり返った。人々が全員、竜夫人のほうをみつめている。
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『親鸞』完結編 「鹿野どの、か」「誰かが先頭にたって人びとを導いていく、そのような念仏ではない」 2014-05-12 
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五木寛之著『親鸞』激動編/裸身の観音 2011-02-26  
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