＜少年と罪 続・ネットの魔力＞第５部（上） 発端 引けぬ応酬 命を奪う
2017/11/19 朝刊
未明のカラオケボックス。四人の少年少女が歌い、はしゃぐ。その輪の中で十六歳のリサは、スマートフォンの画面を見つめて苛立（いらだ）ちを募らせていた。
2013年6月、広島市中心部の繁華街。リサは、交際相手や友達とカラオケに興じる一方で、無料通信アプリのLINEで口論を続けていた。相手は、別の場所にいた同年齢の少女だった。
地元の知人ら約50人が参加する「グループトーク」が舞台。リサが、少女と他の人のやりとりに加わり「（少女は）都合のいいやつよ」と書き込んで非難すると、すぐに反撃された。「嫌い」
高等専修学校の同級生だった2人。ラインの応酬は急速に加熱する。「さっさしねやぶすが」「だまれや」。グループの衆人環視の中で、他の参加者が「全面戦争」とはやし立てる。リサの仲間が同調し、少女への暴言を書き連ねた。
開始から10分後。リサは頭に血が上り、カラオケどころではなくなった。トークに参加していたエミやナオと別々にラインなどで連絡を取り「見方」を装って少女を呼び出すよう依頼。一緒にカラオケ店にいたユキは友人の瀬戸大平＝当時（21）＝に、車で迎えに来るよう頼んだ。スマホの画面から舞台を移し、現実社会で少女を痛めつける手はずが整った。瞬く間に。
少女は、エミとナオからラインで「味方につく」と騙されて強気になり、リサを挑発する書き込みを続けた。カラオケ店を出たリサは「しゃべれんようにしたる」と宣告し、瀬戸のワゴン車で、街に誘い出した少女の元へ向かった。リサら7人が乗る車の3列目に彼女を押し込み、すぐに暴行が始まった。
殴る、蹴る、たばこの火を押しつける。集団リンチはラインで個別に「実況中継」された。暴力の歯止めは利かなくなり、少女を人目のない山中へ連れて行き、首を絞めて殺害。口論開始のわずか4時間後、遺体を斜面から投げ捨てた。
この年、高校生のスマホ所有率が初めて8割を超えた。若者の「スマホ元年」とも言われ、ラインが電子メールに取って代わった。3人以上のやりとりが同時に可能で、ときには考える暇さえない速度で会話が進む。その書き込みを巡るトラブルが事件につながる例は今も絶えない。
7人は逮捕され、リサは強盗殺人罪などで懲役13年の判決を受けた。担当弁護士の中田憲悟は「ラインがなければ起きなかった事件」と話す。「虚勢を張り、引くに引けなくなる。若者特有の集団心理にラインが拍車をかけた。衝動をコントロールできない子どもが使うと、ものすごい早さで物事が進んでしまう」
リサは今年9月、服役先の刑務所から本紙記者へ手紙を寄せた。「面と向かってのケンカは勝負がつきやすく・・・終わりやすい」「ラインは全く逆で（相手と直接）向かい合わない分、強気に出られる」。周囲があおり立てるから「どんどん悪い方へ働く」。善悪の区別は付いていたはずなのに、制御不能に陥った理由を、こう振り返る。
服役中にスマホから離れ、21歳になったリサ。画面上のささいな口論から人の命を奪った過ちを、心から悔いる。「私のした事がどれ程に残虐だったか」。少女の恐怖を想像し、苦痛で歪んだ表情を思い出すと「耐えられなくなる」という。
（敬称略 未成年の加害者は仮名）
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生活から切り離せない存在になったスマホ。神奈川県座間市で9人の遺体が見つかった事件で会員制交流サイト（SNS）のツイッターが使われたように、進化を続けるインターネットは犯罪に影を落とす。広島県で起きた「ライン殺人事件」から、少年事件とSNSの関係を探る。
◎上記事は[中日新聞]からの書き写し（＝来栖）
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