ドゥテルテ大統領「フィリピンには麻薬中毒者が300万人いる。虐殺してやりたい」100日間で麻薬犯罪容疑者約4000人を殺害

2016-10-13 | 国際/中国/アジア

2016.10.17
麻薬犯虐殺の次は原発も視野に…フィリピン大統領の暴走はまだ序の口?
意外としたたかな面も見えてきた
 大塚 智彦 PanAsiaNews記者
■相変わらずの“ドゥテルテ流”
 フィリピンのドゥテルテ大統領が6月30日の大統領就任から100日、いわゆる「お手並み拝見」のハネムーン期間を終えた。
 就任直後からの失言、暴言、言いたい放題、やりたい放題の独自路線は100日を過ぎても依然として国民から高い支持を受けており、それをテコにさらに「我が道」一直線に突っ走っている。
 ドゥテルテ大統領の舌鋒が向かう先はオバマ米大統領、潘基文国連事務総長(当時)、在フィリピン米軍からユダヤ人まで相変わらず広範囲に及び、名指しされた本人やその周辺、さらに国際世論の反応を見てはドゥテルテ自身、大統領府、外務相などが訂正、謝罪、説明してフォローするという手法もほぼ定着した感がある。
 海外のマスコミもようやくこうした“ドゥテルテ流”に慣れてきたようで、かつてほどは過剰反応しなくなってきている。
 とはいえ、数ある失言の中でもドゥテルテ大統領自身が直接謝罪せざるを得なかったのが、ナチスドイツのヒトラーに自分をなぞらえて「麻薬犯を虐殺する」という発言だった。
 9月30日の記者会見で麻薬犯罪対策での強硬策が欧米などから「超法規的殺人」と指摘されていることに反発して、こう言ってのけた。
 「ヒトラーはユダヤ人を300万人虐殺した。フィリピンには麻薬中毒者が300万人いる。私も虐殺してやりたい」
  「私は彼らを喜んで虐殺する。ドイツにはヒトラーがいた。フィリピンにもいる」
 これにはさすがにアベラ報道官が「ホロコーストでユダヤ人600万人の命が失われたことを軽視する意図は大統領にはない」と弁明、補足説明をして擁護した。
 しかし「ヒトラー」「ホロコースト」は欧米人の琴線に触れる問題だけに欧米各国、ユダヤ人組織が猛反発。さすがのドゥテルテ大統領も反省して、10月2日、「虐殺されたユダヤ人を貶める意図は全くなかった。ユダヤ人社会に心から謝罪する」と、一転して非を認めた。
 こうした「発言→釈明・謝罪」というお決まりのパターンをみていると、「最初から言わなければいいのに」とも思うわけだが、やはりそこがドゥテルテ大統領の強い個性でありフィリピン人の国民性なのかもしれない。
■100日間で約4000人を殺害
 大統領就任直後からドゥテルテ大統領が最優先課題として取り組んでいる麻薬犯罪対策は、目覚ましい「成果」を挙げている。
 しかしながらその成果が、国際社会や人権団体、キリスト教団体などから「超法規的殺人」として厳しい批判を招き、国連の調査団を受け入れる結果を招いたのも事実だ。
 問題の「成果」をおさらいしてみよう。
 大統領に就任した6月30日から10月7日までの100日間に殺害された麻薬犯罪容疑者は3944人。そのうち1523人は取り締まりに当たる警察官によって現場で射殺された。それはつまり、残る約2400人は警察官以外の自警団や一般人などによって殺害された、ということになる。
 逮捕者は全国で2万6861人に達し、自首した麻薬関係者はなんと73万6247人。その内訳は麻薬密売人5万3212人、麻薬常習者68万3035人となっている。
 この数字が示すように、現在、多数の逮捕者と自首した容疑者によってフィリピン国内の刑務所は過剰な定員オーバー状態となっており、その過密ぶりはテレビのニュースでも伝えられている。

 
  〔PHOTO〕gettyimages
 自首してきた麻薬常習者や密売人は「シャバにいれば殺されかねない」という理由から塀の中を志願した。彼らにとってみれば、どんなに劣悪な環境であっても「殺されないだけマシ」であり、刑務所はさながら「駆け込み寺」となっているのが実情だ。
 こうしたフィリピン政府の麻薬犯罪への強硬姿勢は麻薬犯罪者の減少という確実な成果を生み出しているのと同時に、「麻薬の密売価格の高騰」という招かれざる効果も生み出していることがわかった。
 大統領府麻薬取締局(PDEA)の調査によると、ドゥテルテ大統領就任前の今年1から6月までの覚せい剤の末端密売価格は1グラムあたり1200~1万1000ペソ(約2700円~2万4600円)だったのに対して、10月8日にはそれが1200~2万5000ペソ(約5万6000円)にまで値上がりしているという。
 しかし、PDEA関係者は、「価格高騰はブツが市場に不足している証拠である」として政府が進める麻薬対策が奏功していると強調する。
■麻薬の次は「煙草」
 麻薬対策はまだ道半ばとして、現在の方針をさらに継続することを明らかにしているが、10月10日、今度は「フィリピン全土の公共の場での全面禁煙」という方針が新たに示された。
 これはポーリン保健相が明らかにしたもので、「公共の場での全面禁煙」とする大統領令に、ドゥテルテ大統領が10月末までに署名するという。
 「公共の場」とは単に公共施設内を指すだけでなく、保健相によると「公園、バス停、車内など、屋内外に関わらず公共の場」とみなされることから、事実上、個人宅以外での喫煙がほぼ全面的に禁止されることになるという。
 ドゥテルテ大統領は大統領就任前のミンダナオ島ダバオ市長時代に同様の「全市禁煙条例」で喫煙率削減の効果をあげている。
 麻薬対策も、もともとダバオ市内で自警団、私設処刑団による麻薬犯罪者殺害を暗黙の了解として認めたことにより絶大な効果を収めている。ドゥテルテ大統領が打ち出す過激な政策は、実はどれも市長時代に取り組み、それなりの実績を残したものばかりなのだ。
 市レベルから国レベルに対象を拡大した背景には、市政で得た自信の裏付けがあるわけで、実は有能な政治家なのではないか、との見方も広がっている。
 フィリピン国民の高い支持率にも、こうした「実績に基づく決断力、行動力」という側面への評価と期待が込められているのは間違いないだろう。
■原発稼働にも前のめり
 ドゥテルテ大統領が次々と打ち出した「ドゥテルテ色」が、その強烈な個性と、揺るぎない信念に基づく実行力とによって、国民の絶大な支持を得ているのは繰り返すまでもない。
 10月6日に公表されたドゥテルテ政権の政策に対する「満足度」の世論調査(9月24日~27日に成人1200人を対象に民間の調査機関SWSが実施)では、「満足」と回答した人が76%に達した。これは歴代政権と比較してもラモス大統領に次ぐ高い数字となっている。
 さらに10月12日に発表された別の世論調査(9月25日~10月1日に全国で1200人を対象に実施=民間調査会社パルス・アジア)では86%の国民がドゥテルテ大統領の業績を評価し信頼していることがわかった。
 こうした高い支持率に背中を押された結果なのか、ドゥテルテ政権は歴代政権が踏み切れなかったもう一つの禁断の実に手を付けようとしている。原子力発電所である。
 首都マニラの西、マニラ湾を挟んだバターン半島モロンにフィリピン初の原発がある。この原発は、1977年にマルコス大統領の指示で建設が開始されほぼ完成していたが、1986年にマルコス政権が崩壊したため、コラソン・アキノ大統領によって稼働が凍結された経緯がある。
 その後、慢性的なフィリピンの電力不足の切り札として歴代政権が「原発稼働」を打ち出したが、安全面や財政面の問題、さらに東日本大震災による福島での原発事故などの影響もあり、本格的な稼働は見送られてきた。
 ほぼ完成している原発だけに、維持費がかさむことから、近年では、入場料を徴収して観光客に施設内部を見学させるなど、一種の観光地と化していた。
 ドゥテルテ政権発足後、エネルギー省のクシー長官は、国際原子力機関(IAEA)関係者に対して「2030年までに年平均5%増の電力需要が見込まれている」と原発の必要性を説明したという。
 そして9月16日には国内外のメディア関係者、上院エネルギー委員会のメンバーなどを同省が招待して原発視察ツアーを実施。国家電力公社の職員が内部を案内するなど原発稼働に向けた動きが活発化しているのだ。
 ただ、長年凍結状態にあった原発を稼働させるには少なくとも10億ドルの費用が必要との試算もあり、地熱発電や風力発電など現在進めている電力政策でも十分に需要は賄えるとの指摘もある。
 さらに財政面に加えて最も関心が集まる「安全面」については、まだまだクリアしなければならない課題が多く、本格的な稼働には時間がかかるのが現状だ。それだけに、周辺国からも拙速な対応は避けるべきだとの声があがっている。
■せめぎあう「メンツ」と「実利」
 ドゥテルテ大統領は東南アジア諸国連合(ASEAN)の首脳会議出席のため9月にラオスを訪れたのが初の外遊となったが、ASEAN域外への初めての外遊として10月18日から21日まで中国を公式訪問、その後、25日からは日本を公式訪問する。
 ドゥテルテ大統領は当初、初の域外外遊先として日本を予定していたが、中国政府の「ぜひ日本より先に中国を訪問して欲しい」との意向に基づく駐フィリピン中国大使の強力なアピールによって順序が逆転した経緯がある。
 中国政府はこの結果を「外交的勝利」として、習近平主席以下政府要人が最大級のもてなしで歓迎する準備を整えている。フィリピン側もドゥテルテ大統領に同行する経済関係者を当初の20人から250人に拡大して、大経済ミッションを送りこむ予定だ。
 こうした一連の動きを冷静に、そしてドゥテルテ流を勘案して観察してみると、「メンツを重んじる中国」に対して、メンツや建前よりも経済支援という「実を選んだフィリピン」という構図がみえてくる。
 中国は日本を出し抜き、南シナ海問題を、フィリピンと2国間で解決する糸口にしようと「大盤振る舞い」で迎えようとしている。
 これに対しフィリピンは、中国を先に訪問したところで「大人の国」である日本は怒らないと判断したのだろう。南シナ海問題については、言質を取られない程度に中国の秋波になびくそぶりをみせ、経済援助だけはしっかり確実にせしめる腹積もりである。
 思い出してほしい、フィリピンは南シナ海の領有権問題で中国をオランダ・ハーグの仲裁裁判所に提訴し、7月12日に全面的勝利の裁定を得ているのだ。
 「裁定は紙屑」「南シナ海問題は2国間で話し合いを」と主張する中国に対し、ドゥテルテ大統領は時に応じるそぶりをみせてラモス元大統領を特使として中国に派遣した。
 その一方でヤサイ外相は「裁定は最終的なもので拘束力がある」「(中国と)領有権問題で対話する用意はない」「フィリピンは領有権問題で譲歩はしない」などと強硬姿勢もみせた。
 この使い分け、言い分けこそがドゥテルテ大統領の「したたかさ」といえる。
■したたかな「カラバオ」
 国際社会では海千山千の中国外交だが、ドゥテルテ大統領はその中国をすら手玉に取ろうとしている。
 彼が「したたかな曲者」であることに中国はまだ気が付かないのか。あるいは、とっくに気付きながらもアフリカ外交と同様に「なんだかんだ言っても結局は金になびく」と過剰な自信を持っているのか。真相はわからない。
 この中国VSフィリピンのつばぜり合いは、老練で巨大な「竜(中国の国獣)」に挑む若く意気軒高は「カラバオ(水牛の一種=フィリピンの国獣)」 の対戦にも見えてくる。
 その後に予定される日本での首脳会談では、安倍晋三首相に対して、「超法規的殺人」への国際社会の懸念を伝えるよう期待が寄せられているというが、果たして安倍首相はズバリと指摘することができるだろうか。
 できたとしても、ドゥテルテ大統領が単なる外交辞令で応えるのか、「内政問題だ」と袖にするのか、見ものである。こちらはさしずめ「雉(きじ=日本の国獣)とカラバオの闘い」とでもいえようか。
 いずれにしても、ドゥテルテ大統領の中国、日本での言動からは目が離せない。この男が、米国の大統領候補ドナルド・トランプ氏と肩を並べるほど稀有なキャラクターを持つ「ニュースな人物」であることだけは疑う余地がない。
*大塚 智彦 TOMOHIKO OTSUKA
 1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞に入社し、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、2014年からはPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材執筆を続ける。著書に『アジアの中の自衛隊』『民主国家への道 ジャカルタ報道2000日』など。

 ◎上記事は[現代ビジネス]からの転載・引用です
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