「私たち夫婦に育てられなければ…。娘に対しても申し訳ない」母親は法廷で何度も謝罪した 元名大生 殺人・タリウム事件

2017-04-04 | 社会/生命犯/少年

<タリウム事件 告白録>殺人願望止められず
 名古屋地裁は24日、元名大生に無期懲役の判決を言い渡した。知人女性殺害に至るまで、元名大生は劇物混入や放火未遂など犯行をエスカレートさせていった。数々の異常な言動に気付きつつ、暴走を防げなかった家族や学校関係者たち。公判や取材で語られた告白録から戒めを探る。(報道部・斉藤隼人)
◎元名大生裁判(上)家族 外への相談は手遅れ
 「被告人を無期懲役とする」。死刑に次ぐ重い判決にも微動だにしなかった。
 名古屋地裁で2カ月余りに及んだ元名古屋大女子学生(21)=仙台市出身、事件当時未成年=の裁判員裁判。素顔を間近で見てきた裁判員の男性は閉廷後の記者会見で「もう少し早く異変に気付き、良い方向に導けていたら事件は起きなかった」と嘆息した。
 元名大生は他人に共感できない発達障害があり、そううつ病も患っていた。判決は精神障害の影響を「限定的」とする一方、犯行に至るまでに数々の異常な言動や見逃されたサインがあったことを認定した。
 「人を殺してみたかった」と告白した元名大生。凶悪犯罪は前触れなく起きたものではなかった。
 幼少期から賢く、周囲を驚かせた。赤ん坊の頃、本を見て複雑な折り紙を折り、就学前に難しい計算問題を解いた。父親の指導でピアノはすぐに上達した。
 母親は法廷で成育歴をとつとつと語った。忘れ物が多く落ち着きがなかったが、小学校生活は楽しそうだった。幸せな日々にひずみが生まれたのは思春期の初めごろだ。
 「今日からあんたを呼び捨てにする」。中学に上がる前、母親にこう宣言した。自身を「俺」と呼んだ。
 父親に教えられた毒キノコの性質を中1の自由研究にした。夏休み明けから4カ月間、不登校に。不眠を訴え、児童精神科を受診したが具体的な治療には至らなかった。
 中3に上がる頃、母親から神戸市の連続児童殺傷事件の話を聞き、猟奇的事件を熱心に調べ始めた。小学校高学年の時に担任の給食にホウ酸を入れようとしたと告白したのもこの時期。
 高校に入ると刃物や毒性の強い薬品を買い集め、常に持ち歩いた。妹に「人を殺したい」と繰り返すようになる。母親は異常な言動に気付く度に注意した。
 劇物のタリウム混入事件直前、父親が薬品を見つけ没収した。数日後、娘を伴い、仙台北署に赴いた。それでも異常な行動に歯止めをかけられなかった。いつしか母親は「学校に相談すれば娘は退学になる」と事なかれ主義に傾き、父親も関与を諦めた。
 名大1年だった2014年8月。「あんたはもっと早く、俺を精神科に連れて行くべきだった」と母親にキレた。ぞっとすると同時にチャンスと感じ、翌月、仙台市の発達障害の専門機関に、15年1月にも名古屋市の専門機関に相談した。
 精神科の受診を強く促されたが、遅かった。既に劇物混入、火炎瓶製造、放火、殺人など6件の罪を犯していた。
 母親にとっては、名大に現役で合格した自慢の娘。凶器の手おのやナイフを目にしても、「事件を起こす少年と、うちの子は違う」と心から信じていた。
 「私たち夫婦に育てられなければ…。娘に対しても申し訳ない」。母親は法廷で何度も謝罪した。
 2017年03月26日日曜日
                 * * * * *

<タリウム事件>衝撃の真相 消えぬ「なぜ」
 無期懲役を宣告された元名古屋大女子学生(21)=事件当時未成年、仙台市出身=の裁判員裁判を名古屋地裁で取材した。殺人や劇物のタリウム混入など六つの事件を次々に起こし、1人を殺害し、5人を殺そうとした。新聞の見出しだけを見れば「史上まれに見る少年凶悪犯」に違いない。ただ、約2カ月半、計22回の公判を傍聴してきた立場からすると、少し異なる所感を抱いた。
◎元名大生裁判を取材して 河北新報社報道部・斉藤隼人(32)
 1月16日の初公判で、元名大生が裁判長から本人確認を求められた。ついに肉声を聞くことができた。「はい、間違いありません」。やや高く、幼さの残る声に思わず息をのんだ。
 黒髪は目元まで伸び、マスクで顔の大部分は覆われていた。証言台でマスクを外した素顔はあどけなさを残していた。凶悪事件の数々を起こした「モンスター」のイメージは、3メートル先の小柄な女性と結び付かなかった。
 法廷での所作はまるで就職の面接のようだった。渡された長文の公判資料を黙々と読み、質問にはきはきと答える。動じることなく淡々と話す一方、丁寧な言葉遣いと、節目節目にお辞儀する礼儀正しさが印象に残った。判決を含めて計22回を数えた公判は最長8時間に及んだが、最後まで疲れた様子を見せなかった。
 他方で元名大生が発する一言一言は、胸をえぐられるほど衝撃的だった。
 「生物学的なヒトなら誰でも良かった」
 「人を殺したい気持ちは今も週1、2回生じる」
 「個々がかけがえのない人だという感覚がない」
 殺意の矛先は家族や親友にとどまらず、法廷の裁判官や弁護人、傍聴者にも向けられた。
 異様過ぎる供述の数々を聞き、当初は、重い精神障害による無罪を主張する弁護方針に沿った「戦略」と感じた。だが、傍聴を重ねるにつれ、法廷戦略という皮相な見方を改めた。
 精神鑑定をした3人の医師に共通していたのは、元名大生が広汎性発達障害で他者への共感性が欠けているという点だった。
 「相手がどう思うか」に無頓着な上、深い反省ができない。興味は著しく偏り、対象は偶然にも「人の死」や「人体の変化」に向かっていった。「心の闇」とくくられる他の少年事件とは本質的に異なり、供述や犯行はただ本能に「真っすぐ」に従っただけのようにも見えた。
 必要なのは刑罰か医療か-。裁判で浮上した論点に最後まで頭を悩ませた。実は今も個人的には答えを出せないでいる。
 元名大生は高校を卒業するまで仙台で過ごした。取材班は2015年の事件発覚当初から、事実の解明と並行し、「事件を食い止められなかったか」を念頭に取材を進めてきた。
 関係者の証言が集まるにつれ、「なぜ」という疑問が急速に膨らんだ。劇物を教室で同級生になめさせるなど、問題行動は16歳前後に顕著になった。家族や高校、同級生、さらに警察と数多くの関係者が危険な「兆候」を感じ取っていた。
 高校は、被害男性のタリウム中毒が判明し、劇物混入事件につながる可能性をつかんだ後も積極的な調査を怠った。宮城県警は視力が著しく低下した被害男性から「クラスに変な子がいる」「白い粉を周囲になめさせていた」と決定的な情報を得ていたのに聴取すらしなかった。
 19歳で名古屋の知人女性を殺害するまで、いくつもの不作為が積み重なった。「結果論だ」と自己弁護をするのはたやすい。ただ、「人を殺してみたかった」という理不尽な理由で命を奪われた女性と遺族、研究者への夢を絶たれた元同級生らの立場に立って、真摯(しんし)に省みる必要がある。
 社会を震撼させた事件の実相と彼女の人物像を正確に報じることができたのか-。新聞記者として今も自問している。
[元名大生殺人・タリウム混入事件]名古屋地裁判決によると、2014年12月に名古屋市昭和区の自宅アパートで知人の森外茂子(ともこ)さん=当時(77)=を殺害。仙台市内の私立高に通っていた12年5~7月、中学と高校の同級生男女2人に硫酸タリウムを飲ませ、殺害しようとした。元名大生は広汎性発達障害やそううつ病を抱えていたが、3月24日の地裁判決は完全責任能力を認め、「複数の重大かつ悪質な犯罪に及んでおり、罪は誠に重い」として無期懲役を言い渡した。
 2017年04月03日月曜日

 ◎上記事は[河北新報]からの転載・引用です
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<記者の目>元名大生の殺人・劇物混入判決=金寿英(中部報道センター)
2017年4月4日 毎日ジャーナリズム
■発達障害、理解深めて
 大学1年時に高齢女性を殺害し、高校2年時に同級生ら2人に劇物の硫酸タリウムを飲ませたなどとされる元名古屋大学生の女(21)=事件当時16~19歳=の裁判員裁判で、名古屋地裁は求刑通り無期懲役の判決を言い渡した。判決は元学生の発達障害が事件に一定の影響を与えたと認め、21回を重ねた公判の審理で元学生の異変や特異な言動が見過ごされていたことが明らかになった。傍聴を終え、悲惨な事件を避ける道はなかったかと考えている。
 裁判で元学生は事件について「人が死ぬところを見たかった」「(被害者に中毒症状が出たと知り)興奮した」と語った。審理の最後でも「今でも人を殺したい気持ちが湧き上がってきて不安になる」と述べ、人の死や薬品による体の変化への強い関心が浮き彫りになった。判決が採用した検察側証人の医師の精神鑑定は、元学生について▽極めて限られた狭い対象に関心を抱く傾向がある▽他人への共感性がない--として、発達障害があったと説明した。
 発達障害にはさまざまな症状があるが、こだわりや興味・関心の偏り、対人関係の障害が代表的な特性の一つとされる。心理カウンセリングの専門施設、こころぎふ臨床心理センター(岐阜市)の長谷川博一センター長(臨床心理士)は「限定した興味は9歳ごろから思春期までの間に、かなり固定化される傾向がある」と話す。この時期に偶然受けた刺激に脳が過剰反応し、本人の意思と無関係に反社会的な願望が芽生えることもあると解説する。
 元学生は中学生の頃、1997年に神戸市で起きた連続児童殺傷事件の話を母親から聞き、猟奇的な事件に強い関心を持った。高校で化学の成績が良かったため薬品にも興味を抱き、2005年に静岡県で女子高校生が母親にタリウムを飲ませた事件を知り、自分も他人に投与したいと思うようになったという。
■見過ごされた特異な言動
 こうした関心は言動に表れた。高校に入るとサバイバルナイフを買い、少年犯罪への憧れを同級生らに語った。タリウム事件の前には高校の教室で毒性のある薬品を数人の男子生徒になめさせ、父親が部屋で別の薬品を見つけて警察に相談していた。
 元学生はタリウム事件後、友人に混入を告白し、殺害事件前には「もっと早く精神科に連れて行くべきだった」と母親に語っている。タリウム事件後、高校側は元学生の関与を疑ったが、一部でしか共有されなかった。母親も薬品収集などをしかっていたものの、法廷では「事件を起こす子は学力低下が著しかったり、過酷な家庭環境で育っていたりする印象があった。うちは違うと思っていた」と涙声で振り返った。
 長谷川さんは4年前にセンターを開設して以降、元学生に似た特徴のある10代の子ども約10人と関わった。その中に自宅で夜中、家族に包丁を振り回す女子中学生がいた。センターを紹介されて来た際は「なぜ人を殺してはいけないのか分からない」と言い、ストレスが高まると「人を殺してみたい」と話した。「自分ではどうしていいか分からない」と戸惑ってもいた。
 複数の検査で中学生の発達障害や副次的な障害の特性を把握した長谷川さんは、学校の理解を得ながらスタッフ数人で約1年間かけてフォローし「考え方のゆがみ」を矯正していった。その結果、殺人への興味は絵を模写することに変わり、今では問題なく高校生活を送っているという。スタッフとの交流を通じ、共感性も徐々に育った。
■専門機関通じ適切な対処を
 発達障害があるからといって何か事件を起こすわけでないことは強調しておきたい。ただ、興味・関心の偏りが犯罪や人を傷つけることに向く可能性はあり得る。長谷川さんは「周囲が子どもの異変に少しでも早く気付き、専門機関の支援で適切な対処がされれば、興味・関心を社会が受け入れられるものに置き換えることは不可能でない」と指摘した。そうなれば、取り返しの付かない状況を防げる。
 長谷川さんは元学生について「高校の友人らが言動を教員に善意で相談し、高校が組織として対応していれば」と話した。元学生は難関国立大に現役合格するほど成績が良く不登校でもなかったため、積極介入にはハードルが高かったとしつつも「学校は万一の事態への進行を防ぐ責任感を持ってほしい」と訴えた。
 昨年5月に発達障害者支援法が改正され、「切れ目ない支援」が国や自治体の責務と明記され、国民も個々の障害の特性に理解を深めるよう求められた。支援への取り組みは進みつつあるものの、地域差なども指摘されている。
 社会全体で発達障害への理解を深め、発達障害のある子どもに偏見を持たず、一方で特性をしっかり受け止めることが不可欠だと思う。勉強ができ、一定の社交性もある元学生のような子どもは、特に見過ごされやすい。異変を早期に把握し適切な医療などが施される仕組みを定着・強化していけば、発達障害のある人との不幸な摩擦を和らげるとともに、誰も事件の当事者にならない状況をつくり出せるだろう。

 ◎上記事は[毎日新聞]からの転載・引用です
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名大女子学生 いびつな願望 「佐世保事件が影響」か 殺人事件・タリウム事件・放火容疑(焼死体に興味)・・・
「タリウム女子」は法廷で「検事も弁護人も殺したい」 「19歳殺人鬼」顔・実名隠しに何の意味があるのか 『週刊新潮』2017/3/2号
◇  「酒鬼薔薇君、大好き♪ 少年法マンセー!」心に魔物を育てた名大女子学生の履歴書 『週刊新潮』 2015年2月12日号  
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大阪教育大付属池田小学校児童殺傷事件 宅間守 『殺人者はいかに誕生したか』長谷川博一著
神戸連続児童殺傷事件 『絶歌』を読み解く 長谷川博一
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