カナ文字文庫 (漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

トラガリ 1

2017-05-21 | ナカジマ アツシ
 トラガリ

 ナカジマ アツシ

 1

 ワタシ は トラガリ の ハナシ を しよう と おもう。 トラガリ と いって も タラスコン の エイユウ タルタラン シ の シシガリ の よう な ふざけた もの では ない。 ショウシン ショウメイ の トラガリ だ。 バショ は チョウセン の、 しかも ケイジョウ から 20 リ ぐらい しか へだたって いない ヤマ の ナカ、 と いう と、 イマドキ そんな ところ に トラ が でて たまる もの か と いって わらわれそう だ が、 なにしろ イマ から 20 ネン ほど マエ まで は、 ケイジョウ と いって も、 その キンコウ トウショウモン-ガイ の ヒラヤマ ボクジョウ の ウシ や ウマ が よく ヨナカ に さらわれて いった もの だ。 もっとも、 これ は トラ では なく、 ヌクテ と いう オオカミ の イッシュ に とられる の で あった が、 とにかく コウガイ の ヨナカ の ヒトリアルキ は まだ キケン な コロ だった。 ツギ の よう な ハナシ さえ ある。 トウショウモン-ガイ の チュウザイショ で、 ある バン ジュンサ が ヒトリ ツクエ に むかって いる と、 キュウ に おそろしい オト を たてて がりがり と イリグチ の ガラスド を ひっかく もの が ある。 びっくり して メ を あげる と、 それ が、 なんと おどろいた こと に、 トラ だった と いう。 トラ が ―― しかも 2 ヒキ で、 アトアシ で たちあがり、 マエアシ の ツメ で、 しきり に がりがり やって いた の だ。 ジュンサ は カオイロ を うしない、 さっそく ヘヤ の ナカ に あった マルタンボウ を カンヌキ の カワリ に トビラ に あてがったり、 アリッタケ の イス や テーブル を トビラ の ウチガワ に つみかさねて イリグチ の ツッカイボウ に したり して、 ジシン は ハイトウ を ぬいて みがまえた まま いきた ココチ も なく ぶるぶる ふるえて いた と いう。 が、 トラ ども は 1 ジカン ほど ジュンサ の キモ を ひやさせた ノチ、 やっと あきらめて どこ か へ いって しまった、 と いう の で ある。 この ハナシ を ケイジョウ ニッポウ で よんだ とき、 ワタシ は おかしくて おかしくて シカタ が なかった。 ふだん、 あんな に いばって いる ジュンサ が ―― その コロ の チョウセン は、 まだ ジュンサ の いばれる ジダイ だった。 ―― どんな に その とき は うろたえて、 イス や テーブル や、 その ホカ の アリッタケ の ガラクタ を オオソウジ の とき の よう に トビラ の マエ に つみあげた か を かんがえる と、 ショウネン の ワタシ は どうしても わらわず には いられなかった。 それに、 その やって きた 2 ヒキ-ヅレ の トラ と いう の が ―― アトアシ で たちあがって がりがり やって ジュンサ を おどしつけた その 2 ヒキ の トラ が、 どうしても ワタシ には ホンモノ の トラ の よう な キ が しなくて、 おびやかされた とうの ジュンサ ジシン の よう に、 サーベル を さげ ナガグツ でも はき、 ぴんと はった ハチジヒゲ でも なであげながら、 「おい、 こら」 とか なんとか いいそう な、 チキ まんまん たる オトギバナシ の クニ の トラ の よう に おもえて ならなかった の だ。

 2

 さて、 トラガリ の ハナシ の マエ に、 ヒトリ の トモダチ の こと を はなして おかねば ならぬ。 その トモダチ の ナ は チョウ ダイカン と いった。 ナマエ で わかる とおり、 カレ は ハントウジン だった。 カレ の ハハオヤ は ナイチジン だ と ミナ が いって いた。 ワタシ は それ を カレ の クチ から したしく きいた よう な キ も する が、 あるいは ワタシ ジシン が ジブン で カッテ に そう かんがえて、 きめこんで いた だけ かも しれぬ。 あれだけ したしく つきあって いながら、 ついぞ ワタシ は カレ の オカアサン を みた こと が なかった。 とにかく、 カレ は ニホンゴ が ヒジョウ に たくみ だった。 それに、 よく ショウセツ など を よんで いた ので、 ショクミンチ アタリ の ニホン の ショウネン たち が きいた こと も ない よう な エドマエ の コトバ さえ しって いた くらい だ。 で、 イッケン して カレ を ハントウジン と みやぶる こと は ダレ にも できなかった。 チョウ と ワタシ とは ショウガッコウ の 5 ネン の とき から トモダチ だった。 その 5 ネン の 2 ガッキ に ワタシ が ナイチ から リュウサン の ショウガッコウ へ テンコウ して いった の だ。 チチオヤ の シゴト の ツゴウ か ナニ か で おさない とき に たびたび ガッコウ を かわった こと の ある ヒト は おぼえて いる だろう。 ちがった ガッコウ へ はいった ハジメ の うち ほど いや な もの は ない。 ちがった シュウカン、 ちがった キソク、 ちがった ハツオン、 ちがった トクホン の ヨミカタ。 それに リユウ も なく シンライシャ を いじめよう と する イジ の わるい タクサン の メ。 まったく なにひとつ する にも わらわれ は しまい か と、 おどおど する よう な イシュク した キモチ に おいたてられて しまう。 リュウサン の ショウガッコウ へ テンコウ して から 2~3 ニチ たった ある ヒ、 その ヒ も ヨミカタ の ジカン に、 「コジマ タカノリ」 の ところ で、 サクラ の キ に かきつけた シ の モンク を ワタシ が よみはじめる と、 ミナ が どっと わらいだして しまった。 あかく なりながら イッショウ ケンメイ に よみなおせば よみなおす ほど、 ミンナ は わらいくずれる。 シマイ には キョウシ まで が クチ の アタリ に ウスワライ を うかべる シマツ だ。 ワタシ は すっかり いや な キモチ に なって しまって、 その ジカン が おわる と オオイソギ で キョウシツ を ぬけだし、 まだ ヒトリ も トモダチ の いない ウンドウジョウ の スミッコ に たった まま、 なきだしたい キモチ で しょんぼり ソラ を ながめた。 イマ でも おぼえて いる が、 その ヒ は キョウレツ な スナボコリ が ふかい キリ の よう に アタリ に たちこめ、 タイヨウ は その うすにごった スナ の キリ の オク から、 ツキ の よう な うすきいろい ヒカリ を かすか に もらして いた。 アト で わかった の だ けれども、 チョウセン から マンシュウ に かけて は 1 ネン に たいてい イチド ぐらい は このよう な ヒ が ある。 つまり モウコ の ゴビ サバク に カゼ が たって、 その サジン が とおく はこばれて くる の だ。 その ヒ、 ワタシ は はじめて みる その もの すさまじい テンコウ に アッケ に とられて、 ウンドウジョウ の サカイ の、 タケ の たかい ポプラ の コズエ が、 その しろい ホコリ の キリ の ナカ に きえて いる アタリ を ながめながら、 すぐに じゃりじゃり と スナ の たまって くる クチ から、 たえず ぺっぺっ と ツバ を はきすてて いた。 すると とつぜん ヨコアイ から、 キミョウ な、 ひきつった、 ひやかす よう な ワライ と ともに、 「やあい、 はずかしい もん だ から、 むやみ と ツバ ばかり はいて やがる」 と いう コエ が きこえた。 みる と、 わりに セ の たかい、 やせた、 メ の ほそい、 コバナ の はった ヒトリ の ショウネン が、 アクイ と いう より は チョウショウ に みちた ワライ を みせながら たって いた。 なるほど、 ワタシ が ツバ を はく の は たしか に クウチュウ の ホコリ の せい では あった が、 そう いわれて みる と、 また サキホド の 「テン コウセン を むなしゅう する なかれ」 の ハズカシサ や、 ヒトリボッチ の マ の ワルサ、 など を まぎらす ため に ヒツヨウ イジョウ に ぺっぺっ と ツバ を はいて いた こと も たしか に ジジツ の よう で ある。 それ を シテキ された ワタシ は、 さらに サキホド の 2 バイ も 3 バイ も の ハズカシサ を いちどきに かんじて、 かっと する と、 ゼンゴ の ミサカイ も なし に、 その ショウネン に むかって ベソ を かきながら とびかかって いった。 ショウジキ に いう と、 なにも ワタシ は その ショウネン に かてる と おもって とびかかって いった わけ では ない。 カラダ の ちいさい ヨワムシ の ワタシ は、 それまで ケンカ を して かった ためし が なかった。 だから、 その とき も、 どうせ まける カクゴ で、 そして それゆえに、 もう ハンブン ナキツラ を しながら とびかかって いった の だ。 ところが、 おどろいた こと に、 ワタシ が さんざん たたきのめされる の を カクゴ の うえ で メ を つぶって むかって いった とうの アイテ が あんがい よわい の だ。 ウンドウジョウ の スミ の キカイ タイソウ の スナバ に とっくみあって たおれた まま しばらく もみあって いる うち に、 ク も なく ワタシ は カレ を くみしく こと が できた。 ワタシ は ナイシン やや この ケッカ に おどろきながら も、 まだ ココロ を ゆるす ヨユウ は なく、 ムチュウ で メ を つぶった まま アイテ の ムナグラ を こづきまわして いた。 が、 やがて、 あまり アイテ が ムテイコウ なの に キ が ついて、 ひょいと メ を あけて みる と、 ワタシ の テ の シタ から アイテ の ほそい メ が、 マジメ なの か わらって いる の か わからない ずるそう な ヒョウジョウ を うかべて みあげて いる。 ワタシ は ふと なにかしら ブジョク を かんじて キュウ に テ を ゆるめる と、 すぐに たちあがって カレ から はなれた。 すると カレ も つづいて おきあがり、 くろい ラシャフク の スナ を はらいながら、 ワタシ の ほう は みず に、 サワギ を きいて かけつけて きた ホカ の ショウネン たち に むかって、 きまりわるそう に メジリ を ゆがめて みせる の だ。 ワタシ は かえって こちら が まけ でも した よう な マ の ワルサ を おぼえて、 ミョウ な キモチ で キョウシツ に かえって いった。
 それから 2~3 ニチ たって、 その ショウネン と ワタシ とは ガッコウ の カエリ に おなじ ミチ を ならんで あるいて いった。 その とき カレ は ジブン の ナマエ が チョウ ダイカン で ある こと を ワタシ に つげた。 ナマエ を いわれた とき、 ワタシ は おもわず ききかえした。 チョウセン へ きた くせ に、 ジブン と おなじ キュウ に ハントウジン が いる と いう こと は、 まったく かんがえて も いなかった し、 それに また その ショウネン の ヨウス が どう みて も ハントウジン とは おもえなかった から だ。 ナンド か ききかえして、 カレ の ナ が どうしても チョウ で ある こと を しった とき、 ワタシ は くどくど ききかえして わるい こと を した と おもった。 どうやら その コロ ワタシ は ませた ショウネン だった らしい。 ワタシ は アイテ に、 ジブン が ハントウジン だ と いう イシキ を もたせない よう に ―― これ は この とき ばかり では なく、 ソノゴ イッショ に あそぶ よう に なって から も ずっと ―― つとめて キ を つかった の だ。 が、 その ココロヅカイ は ムヨウ で あった よう に みえた。 と いう の は、 チョウ の ほう は ジブン で いっこう それ を キ に して いない らしかった から だ。 げんに みずから すすんで ワタシ に その ナ を なのった ところ から みて も、 カレ が それ を キ に かけて いない こと は わかる と ワタシ は かんがえた。 しかし ジッサイ は、 これ は、 ワタシ の オモイチガイ で あった こと が わかった。 チョウ は じつは この テン を ―― ジブン が ハントウジン で ある と いう こと より も、 ジブン の ユウジン たち が その こと を いつも イシキ して、 オンケイテキ に ジブン と あそんで くれて いる の だ、 と いう こと を ヒジョウ に キ に して いた の だ。 ときには、 カレ に そういう イシキ を もたせまい と する、 キョウシ や ワタシタチ の ココロヅカイ まで が、 カレ を スクイヨウ も なく フキゲン に した。 つまり カレ は みずから その こと に こだわって いる から こそ、 ギャク に タイド の ウエ では、 すこしも それ に コウデイ して いない ヨウス を みせ、 ことさら に ジブン の ナ を なのったり など した の だ。 が、 この こと が ワタシ に わかった の は、 もっと ずっと アト に なって から の こと だ。
 とにかく、 そうして ワタシタチ の アイダ は むすばれた。 フタリ は ドウジ に ショウガッコウ を で、 ドウジ に ケイジョウ の チュウガッコウ に ニュウガク し、 マイアサ イッショ に リュウサン から デンシャ で ツウガク する こと に なった。

 3

 その コロ ―― と いう の は ショウガッコウ の オワリゴロ から チュウガッコウ の ハジメ に かけて の こと だ が、 カレ が ヒトリ の ショウジョ を したって いた の を ワタシ は しって いる。 ショウガッコウ の ワタシタチ の クミ は ダンジョ コンゴウグミ で、 その ショウジョ は フク キュウチョウ を して いた。 (キュウチョウ は オトコ の ほう から えらぶ の だ。) セ の たかい、 イロ は あまり しろく は ない が、 カミ の ゆたか な、 メ の キレ の ながく うつくしい ムスメ だった。 クミ の ダレカレ が、 ショウジョ クラブ か ナニ か の クチエ の、 カショウ とか いう サシエ ガカ の エ を、 よく この ショウジョ と ヒカク して いる の を きいた こと が あった。 チョウ は ショウガッコウ の コロ から その ショウジョ が すき だった らしい の だ が、 やがて その ショウジョ も やはり リュウサン から デンシャ で ケイジョウ の ジョガッコウ に かよう こと と なり、 ユキカエリ の デンシャ の ナカ で ちょいちょい カオ を あわせる よう に なって から、 さらに キモチ が こうじて きた の だった。 ある とき、 チョウ は マジメ に なって ワタシ に その こと を もらした こと が あった。 ハジメ は ジブン も それほど では なかった の だ が、 トシウエ の ユウジン の ヒトリ が その ショウジョ の ウツクシサ を ほめる の を きいて から、 キュウ に たまらなく その ショウジョ が とうとく うつくしい もの に おもえて きた と、 その とき カレ は そんな こと を いった。 クチ には ださなかった けれども、 シンケイシツ な カレ が この こと に ついて も また、 ことあたらしく、 ハントウジン とか、 ナイチジン とか いう モンダイ に くよくよ ココロ を なやましたろう こと は スイサツ に かたく ない。 ワタシ は まだ はっきり と おぼえて いる。 ある フユ の アサ、 ナンダイモン エキ の ノリカエ の ところ で、 ぐうぜん その ショウジョ に (まったく センポウ も どうか して いて、 ひょいと そう する キ に なった らしい の だ が) ショウメン から アイサツ され、 めんくらって それ に おうじた カレ の、 サムサ で ハナ の サキ を あかく した カオツキ を。 それから また おなじ コロ やはり デンシャ の ナカ で、 ワタシタチ フタリ と その ショウジョ と が のりあわせた とき の こと を。 その とき、 ワタシタチ が ショウジョ の こしかけて いる マエ に たって いる うち に、 ワキ の ヒトリ が セキ を たった ので、 カノジョ が ヨコ へ よって チョウ の ため に (しかし、 それ は また ドウジ に ワタシ の ため とも とれない こと は ない の だ が) セキ を あけて くれた の だ が、 その とき の チョウ が、 なんと いう こまった よう な、 また、 うれしそう な カオツキ を した こと か。 …………ワタシ が なぜ こんな くだらない こと を はっきり おぼえて いる か と いえば ―― いや、 まったく、 こんな こと は どうでも いい こと だ が ―― それ は もちろん、 ワタシ ジシン も また、 こころひそか に その ショウジョ に せつない キモチ を いだいて いた から だった。 が、 やがて、 その カレ の、 いや ワタシタチ の かなしい レンジョウ は、 ツキヒ が たって、 ワタシタチ の カオ に しだいに ニキビ が ふえて くる に したがって、 どこ か へ きえて いって しまった。 ワタシタチ の マエ に ツギ から ツギ へ と とびだして くる セイ の フシギ の マエ に、 その スガタ を みうしなって しまった、 と いう ほう が、 より ホントウ で あろう。 この コロ から ワタシタチ は しだいに、 この キカイ に して ミリョク に とめる ジンセイ の オオク の ジジツ に ついて するどい コウキ の メ を ひからせはじめた。 フタリ が ―― もちろん、 オトナ に つれられて の こと では ある が、 ―― トラガリ に でかけた の は ちょうど その コロ の こと だ。 しかし ツイデ だ から、 ジュンジョ は ギャク に なる が、 トラガリ は アトマワシ に して、 ソノゴ の カレ に ついて、 もうすこし はなして おこう と おもう。 それから ノチ の カレ に ついて おもいだす こと と いえば、 もう、 ほんの フタツ ミッツ しか ない の だ から。

 4

 がんらい、 カレ は キミョウ な こと に キョウミ を もつ オトコ で、 ガッコウ で やらせられる こと には ほとんど すこしも ネッシン を しめさなかった。 ケンドウ の ジカン など も タイテイ は ビョウキ と しょうして ケンガク し、 マジメ に メン を つけて シナイ を ふりまわして いる ワタシタチ の ほう を、 レイ の ほそい メ で チョウショウ を うかべながら みて いる の だった が、 ある ヒ の 4 ジカン-メ、 ケンドウ の ジカン が おわって、 まだ メン も とらない ワタシ の ソバ へ きて、 ジブン が キノウ ミツコシ の ギャラリー で ネッタイ の サカナ を みて きた ハナシ を した。 たいへん コウフン した クチョウ で その ウツクシサ を とき、 ぜひ ワタシ にも み に いく よう に、 ジブン も イッショ に、 もう イチド いく から、 と いう の だ。 その ヒ の ホウカゴ ワタシタチ は ホンマチ-ドオリ の ミツコシ に よった。 それ は おそらく、 ニホン で もっとも はやい ネッタイギョ の ショウカイ だったろう。 3 ガイ の チンレツバ の カコイ の ナカ に はいる と、 シュウイ の マドギワ に、 ずっと スイソウ を ならべて ある ので、 ジョウナイ は スイゾクカン の ナカ の よう な ほのあおい ウスアカリ で あった。 チョウ は ワタシ を まず、 マドギワ の チュウオウ に あった ヒトツ の スイソウ の マエ に つれて いった。 ソト の ソラ を うつして あおく とおった ミズ の ナカ には、 5~6 ポン の ミズクサ の アイダ を、 うすい キヌバリ の コウチワ の よう な うつくしい、 ヒジョウ に うすい ひらべったい サカナ が 2 ヒキ しずか に およいで いた。 ちょっと カレイ を ―― タテ に おこして およがせた よう な カッコウ だ。 それに、 その ドウタイ と ほとんど おなじ くらい の オオキサ の サンカクホ の よう な ヒレ が いかにも みごと だ。 うごく たび に イロ を かえる タマムシ-めいた カイハクショク の ドウ には、 ハデ な ネクタイ の ガラ の よう に、 アカムラサキイロ の ふとい シマ が イクホン か あざやか に ひかれて いる。
「どう だ!」 と、 ネッシン に みつめて いる ワタシ の ソバ で、 チョウ が とくいげ に いった。
 ガラス の アツミ の ため に ミドリイロ に みえる キホウ の ジョウショウ する ギョウレツ。 ソコ に しかれた こまかい しろい スナ。 そこ から はえて いる ハバ の せまい スイソウ。 その アイダ に ソウショク-フウ の オビレ を タイセツ そう に しずか に うごかして およいで いる ヒシガタ の サカナ。 こういう もの を じっと ながめて いる うち に、 ワタシ は いつのまにか ノゾキメガネ で ナンヨウ の カイテイ でも のぞいて いる よう な キ に なって しまって いた。 が、 しかし また、 その とき、 ワタシ には チョウ の カンゲキ の シカタ が、 あまり ぎょうぎょうしすぎる と かんがえられた。 カレ の 「イコクテキ な ビ」 に たいする アイコウ は マエ から よく しって は いた けれども、 この バアイ の カレ の カンドウ には オオク の コチョウ が ふくまれて いる こと を ワタシ は みいだし、 そして、 その コチョウ を くじいて やろう と かんがえた。 で、 ひととおり みおわって から ミツコシ を で、 フタリ して ホンマチ-ドオリ を さがって いった とき、 ワタシ は カレ に わざと こう いって やった。
 ―― そりゃ きれい で ない こと は ない けれど、 だけど、 ニホン の キンギョ だって あの くらい は うつくしい ん だぜ。 ――
 ハンノウ は すぐに あらわれた。 クチ を つぐんだ まま ショウメン から ワタシ を みかえした カレ の カオツキ は ―― その ニキビ の アト-だらけ な、 レイ に よって メ の ほそい、 ビヨク の はった、 クチビル の あつい カレ の カオ は、 ワタシ の、 センサイ な ビ を かいしない こと に たいする ビンショウ や、 また、 それ より も、 イマ の ワタシ の イジ の わるい シニカル な タイド に たいする コウギ や、 そんな もの の まじりあった フクザツ な ヒョウジョウ で たちまち みたされて しまった の で ある。 ソノゴ 1 シュウカン ほど、 カレ は ワタシ に クチ を きかなかった よう に おぼえて いる。 …………

 5

 カレ と ワタシ との コウサイ の アイダ には、 もっと ジュウヨウ な こと が たくさん あった に ソウイ ない の だ が、 それでも ワタシ は こうした ちいさな デキゴト ばかり バカ に はっきり と おぼえて いて、 ホカ の こと は たいてい わすれて しまって いる。 ニンゲン の キオク とは だいたい そういう ふう に できて いる もの らしい。 で、 この ホカ に ワタシ の よく おぼえて いる こと と いえば、 ―― そう、 あの 3 ネンセイ の とき の、 フユ の エンシュウ の ヨル の こと だ。
 それ は、 たしか 11 ガツ も スエ の、 カゼ の つめたい ヒ だった。 その ヒ、 3 ネン イジョウ の セイト は カンコウ ナンガン の エイトウホ の キンジョ で ハッカ エンシュウ を おこなった。 セッコウ に でた とき、 こだかい オカ の ソリン の アイダ から シタ を ながめる と、 そこ には しろい スナハラ が とおく つらなり、 その ナカホド アタリ を にぶい ハモノイロ を した フユ の カワ が さむざむ と ながれて いる。 そして その はるか ウエ の ソラ には、 いつも みなれた ホクカンサン の ごつごつ した サンコツ が アオムラサキイロ に ソラ を くぎって いたり する。 そうした フユガレ の ケシキ の アイダ を、 ハイノウ の カワ や ジュウ の アブラ の ニオイ、 または エンショウ の ニオイ など を かぎながら、 ワタシタチ は イチニチジュウ かけずりまわった。
 その ヨル は カンコウ の キシ の ロリョウシン の カワラ に テンマク を はる こと に なった。 ワタシタチ は つかれた アシ を ひきずり、 ジュウ の オモミ を カタ の アタリ に いたく かんじながら、 あるきにくい カワラ の スナ の ウエ を ざっく ざっく と あるいて いった。 ロエイチ へ ついた の は 4 ジ-ゴロ だったろう。 いよいよ テンマク を はろう と ヨウイ に かかった とき、 イマ まで はれて いた ソラ が キュウ に くもって きた か と おもう と、 ばらばら と オオツブ な ヒョウ が はげしく おちて きた。 ひどく オオツブ な ヒョウ だった。 ワタシタチ は イタサ に たえかねて、 まだ はり も しない で スナ の ウエ に ひろげて あった テント の シタ へ、 ワレサキ に と もぐりこんだ。 その ミミモト へ、 テント の あつい ヌノ に あたる ヒョウ の オト が はげしく なった。 ヒョウ は 10 プン ばかり で やんだ。 テント の シタ から クビ を だした ワタシタチ は ―― その おなじ テント に 7~8 ニン、 クビ を つっこんで いた の だ。 ―― たがいに カオ を みあわせて イチド に わらった。 その とき、 ワタシ は チョウ ダイカン も やはり おなじ テント から イマ、 クビ を ぬきだした ナカマ で ある こと を みいだした。 が、 カレ は わらって いなかった。 ふあんげ な あおざめた カオイロ を して シタ を むいて いた。 ソバ に 5 ネンセイ の N と いう の が たって いて、 ナニ か けわしい カオ を しながら カレ を とがめて いる の だ。 イチドウ が あわてて テント の シタ へ もぐりこんだ とき、 チョウ が ヒジ で もって、 その ジョウキュウセイ を つきとばして、 メガネ を たたきおとした と いう の らしかった。 がんらい ワタシタチ の チュウガッコウ では ジョウキュウセイ が はなはだしく いばる シュウカン が あった。 ミチ で あった とき の ケイレイ は もとより、 その ホカ ナニゴト に つけて も ジョウキュウセイ には ゼッタイ フクジュウ と いう こと に なって いた。 で、 ワタシ は、 その とき も チョウ が おとなしく あやまる だろう と おもって いた。 が、 イガイ にも ―― あるいは ワタシタチ が ソバ で みて いた せい も ある かも しれない が ―― なかなか すなお に あやまらない の だ。 カレ は イコジ に だまった まま つったって いる ばかり だった。 N は しばらく チョウ を にくさげ に みおろして いた が、 ワタシタチ の ほう に イチベツ を くれる と、 そのまま ぐるり と ウシロ を むいて たちさって しまった。
 ジツ を いう と、 この とき ばかり で なく、 チョウ は マエマエ から ジョウキュウセイ に にらまれて いた の だ。 だいいち、 チョウ は カレラ に ミチ で あって も、 あまり ケイレイ を しない と いう。 これ は、 チョウ が キンガン で ある にも かかわらず メガネ を かけて いない と いう ジジツ に よる こと が おおい もの の よう だった。 が、 そう で なくて も、 がんらい トシ の わり に ませて いて、 カレラ ジョウキュウセイ たち の おもいあがった コウイ に たいして も ときとして ビンショウ を もらしかねない カレ の こと だし、 それに その コロ から カフウ の ショウセツ を タンドク する くらい で、 コウハ の カレラ から みて、 いささか ナンパ に すぎて も いた ので、 これ は ジョウキュウセイ たち から にらまれる の も トウゼン で あったろう。 チョウ ジシン の ハナシ に よる と、 なんでも 2 ド ばかり 「ナマイキ だ。 あらためない と なぐる ぞ」 と いって、 おどかされた そう だ。 ことに この エンシュウ の 2~3 ニチ マエ など は ガッコウ ウラ の スウセイデン と いう、 ムカシ の リ オウチョウ の キュウデン アト の マエ に ひっぱられて、 あわや なぐられよう と した の を、 おりよく そこ を セイトカン が とおりかかった ため に あやうく まぬがれた の だ と いう。 チョウ は ワタシ に その ハナシ を しながら クチ の マワリ には レイ の チョウショウ の ヒョウジョウ を うかべて いた が、 その とき、 また、 キュウ に マジメ に なって こんな こと を いった。 ジブン は けっして カレラ を おそれて は いない し、 また、 なぐられる こと を こわい とも おもって いない の だ が、 それ にも かかわらず、 カレラ の マエ に でる と ふるえる。 ナニ を バカ な とは おもって も、 シゼン に カラダ が コキザミ に ふるえだして くる の だ が、 いったい これ は どうした こと だろう、 と その とき カレ は マジメ な カオ を して ワタシ に たずねる の だった。 カレ は いつも ヒト を コバカ に した よう な ワライ を うかべ、 ヒト から みすかされまい と つねに ミガマエ して いる くせ に、 ときとして、 ひょいと こんな ショウジキ な ところ を ハクジョウ して みせる の だ。 もっとも、 そういう ショウジキ な ところ を さらけだして みせた アト では、 かならず、 すぐに イマ の コウイ を コウカイ した よう な オモモチ で、 また モト の レイショウテキ な ヒョウジョウ に かえる の では あった が。
 ジョウキュウセイ との アイダ に イマ いった よう な イキサツ が マエ から あった ので、 それで カレ も、 その とき、 すなお に あやまれなかった の で あろう。 その ユウガタ、 テンマク が はられて から も、 カレ は なお フアン な おちつかない オモモチ を して いた。
 イクジュウ か の テンマク が カワラ に はられ、 ナイブ に ワラ など を しいて ヨウイ が できる と、 それぞれ、 ナカ で ヒ を おこしはじめた。 ハジメ の うち は マキ が いぶって、 とても ナカ には いたたまれなかった。 やがて、 その ケムリ も しずまる と、 アサ から ハイノウ の ナカ で こちこち に かたまった ニギリメシ の ショクジ が はじまる。 それ が おわる と、 イチド ソト へ でて ジンイン テンコ。 それ が すんで から カクジ の テンマク に かえって、 スナ の ウエ に しいた ワラ の ウエ で やすむ こと に なる。 テント の ソト に たつ ホショウ は 1 ジカン コウタイ で、 ワタシ の バン は アケガタ の 4 ジ から 5 ジ まで だった から、 それまで ゆっくり スイミン が とれる わけ だった。 その おなじ テンマク の ナカ には ワタシタチ 3 ネンセイ が 5 ニン と (その ナカ には チョウ も まじって いた。) それに カントク の イミ で フタリ の 4 ネンセイ が くわわって いた。 ダレ も ハジメ の うち は なかなか ねそう にも なかった。 マンナカ に スナ を ほって こしらえた キュウセイ の ロ を かこみ、 ホカゲ に あかあか と カオ を ほてらせ、 それでも ソト から と、 シタ から と しみこんで くる サムサ に ガイトウ の エリ を たてて クビ を ちぢめながら、 ワタシタチ は タワイ も ない ザツダン に ふけった。 その ヒ、 ワタシタチ の キョウレン の キョウカン、 マンネン ショウイ ドノ が あやうく ラクバ しかけた ハナシ や、 コウグン の トチュウ ミンカ の ウラニワ に ふみいって、 その イエ の ノウフ たち と ケンカ した こと や、 セッコウ に でた 4 ネンセイ が ずらかって、 ひそか に カイチュウ に して きた ポケット ウイスキー の ビン を かたむけ、 かえって から、 イイカゲン な ホウコク を した、 など と いう つまらない ジマンバナシ や、 そんな ハナシ を して いる うち に、 けっきょく いつのまにか、 ショウネン-らしい、 イマ から かんがえれば じつに あどけない ワイダン に うつって いった。 やはり 1 ネン の ネンチョウ で ある 4 ネンセイ が おもに そういう ワダイ の テイキョウシャ だった。 ワタシタチ は メ を かがやかせて、 ケイケンダン か それとも カレラ の ソウゾウ か わからない ジョウキュウセイ の ハナシ に ききいり、 ほんの つまらない こと にも どっと たのしげ な カンセイ を あげた。 ただ、 その ナカ で チョウ ダイカン ヒトリ は たいして おもしろく も なさそう な カオツキ を して だまって いた。 チョウ とて も、 こういう シュルイ の ハナシ に キョウミ が もてない わけ では ない。 ただ、 カレ は、 ジョウキュウセイ の ちょっと した ジョウダン を さも おもしろそう に わらったり する ワタシタチ の タイド の ナカ に 「ヒクツ な ツイショウ」 を みいだして、 それ を にがにがしく おもって いる に ちがいない の だ。
 ハナシ にも あき、 ヒルマ の ツカレ も でて くる と、 めいめい サムサ を ふせぐ ため に たがいに カラダ を くっつけあいながら ワラ の ウエ に ヨコ に なった。 ワタシ も ヨコ に なった まま、 ケ の シャツ を 3 マイ と、 その ウエ に ジャケツ と ウワギ と ガイトウ と を かさねた ウエ から も なお ひしひし と せまって くる サムサ に しばらく ふるえて いた が、 それでも いつのまにか うとうと と ねむって しまった もの と みえる。 ひょいと ナニ か たかい コエ を きいた よう に おもって、 メ を さました の は、 それから 2~3 ジカン も たった アト だろう か。 その トタン に ワタシ は なにかしら わるい こと が おこった よう な カンジ が して、 じっと キキミミ を たてる と、 テント の ソト から、 また、 ミョウ に かんだかい コエ が ひびいて きた。 その コエ が どうやら チョウ ダイカン らしい の だ。 ワタシ は はっと おもって、 ヨイ に ジブン の トナリ に ねて いた カレ の スガタ を もとめた。 チョウ は そこ に いなかった。 おそらくは ホショウ の ジカン が きた ので ソト へ でて いる の だろう。 が、 あの、 ミョウ に おびやかされた コエ は? と、 その とき、 コンド は はっきり と フルエ を おびた カレ の コエ が ヌノ 1 マイ へだてた ソト から きこえて きた。
 ―― そんな に わるい とは おもわん です。
 ―― なに? わるい と おもわん? ―― と コンド は ベツ の ふとい コエ が のしかかる よう に ひびいた。
 ―― ナマイキ だぞ。 キサマ!
 それ と ともに、 あきらか に ぴしゃり と ヒラテウチ の オト が、 そして ツギ に ジュウ が スナ の ウエ に たおれる らしい オト と、 さらに また はげしく カラダ を ついた よう な にぶい オト が 2~3 ド、 それ に つづいて きこえた。 ワタシ は トッサ に スベテ を リョウカイ した。 ワタシ には わるい ヨカン が あった の だ。 フダン から にくまれて いる チョウ の こと では あり、 それに ヒルマ の よう な デキゴト が あったり した ので、 あるいは コンヤ の よう な キカイ に やられる の では ない か と、 ヨイ の うち から ワタシ は そんな キ が して いた。 それ が イマ、 ホントウ に おこなわれた らしい の だ。 ワタシ は テント の ナカ で ミ を おこした が、 どう する わけ にも ゆかず、 ただ ムネ を とどろかした まま、 しばらく じっと ソト の ヨウス を うかがって いた。 (ホカ の ユウジン たち は ミナ よく ねむって いた。) やがて ソト は、 2~3 ニン の たちさる ケハイ が した アト は しいん と した シズケサ に もどった。 ワタシ は ミジマイ を して、 そっと テンマク を でて みた。 ソト は おもいがけなく マッシロ な ツキヨ だった。 そうして テント から 2 ケン ほど はなれた ところ に、 ツキ に てらされた マッシロ な スナハラ の ウエ に、 ぽつん と くろく、 ちいさな イヌ か ナニ か の よう に ヒトリ の ショウネン が しゃがんだ まま、 じっと カオ を ふせて うごかない で いる。 ジュウ は ソバ の スナ の ウエ に たおれ、 その ケンサキ が きらきら と ツキ に ひかって いた。 ワタシ は ソバ に いって カレ を みおろした まま 「N か?」 と たずねた。 N と いう の は ヒルマ カレ と イサカイ を した 5 ネンセイ の ナマエ だった。 チョウ は、 しかし、 シタ を むいた まま、 それ に こたえなかった。 しばらく して、 とつぜん、 わっ と いう コエ を たてて カラダ を つめたい スナ の ウエ に なげだす と、 セナカ を ふるわせながら、 おうおう と コエ を あげて アカンボウ の よう に なきはじめた。 ワタシ は びっくり した。 10 メートル ほど へだてて、 トナリ の テンマク の ホショウ も みて いる の だ。 が、 チョウ の、 この、 ヘイゼイ に にない シンソツ な ドウコク が ワタシ を うごかした。 ワタシ は カレ を たすけおこそう と した。 カレ は なかなか おきなかった。 やっと だきおこす と、 ホカ の テンマク の ホショウ たち に みられたく ない ココロヅカイ から、 カレ を ひっぱって ナガレ の チカク へ つれて いった。 18~19 ニチ アタリ の ツキ が ラグビー の タマ に にた カッコウ を して サムゾラ に さえて いた。 マッシロ な スナハラ の ウエ には サンカクケイ の テンマク が ずらり と たちならび、 その テンマク の ソト には、 いずれ も 7~8 ツ ずつ ジュウケン が くみあわされて たって いる。 ホショウ たち は マッシロ な イキ を はきながら、 つめたそう に ジュウ の ダイジリ を ささえて たって いる。 ワタシタチ は それら の テンマク の ムレ から はなれて カンコウ の ホンリュウ の ほう へ と あるいて いった。 キ が ついて みる と、 ワタシ は いつのまにか チョウ の ジュウ を (スナ の ウエ に たおれて いた の を ひろって) カレ の カワリ に になって いた。 チョウ は テブクロ を はめた リョウテ を だらり と たらして シタ を むいて あるいて いった が、 その とき、 ぽつん と ―― やはり カオ を ふせた まま で、 こんな こと を いいだした。 カレ は まだ ないて いた ので、 その コエ も オエツ の ため に ときどき とぎれる の で あった が、 カレ は いった。 あたかも ワタシ を とがめる よう な チョウシ で。
 ―― どういう こと なん だろう なあ。 いったい、 つよい とか、 よわい とか、 いう こと は。 ――
 コトバ が あまり カンタン な ため、 カレ の いおう と して いる こと が はっきり わからなかった が、 その チョウシ が ワタシ を うった。 フダン の カレ-らしい ところ は ミジン も でて いなかった。
 ―― オレ は ね、 (と、 そこ で イチド カレ は コドモ の よう に なきじゃくって) オレ は ね、 あんな ヤツラ に なぐられたって、 なぐられる こと なんか まけた とは おもい や しない ん だよ。 ホントウ に。 それなのに、 やっぱり (ここ で もう イチド すすりあげて) やっぱり オレ は くやしい ん だ。 それで、 くやしい くせ に むかって いけない ん だ。 こわくって むかって いけない ん だ。 ――
 ここ まで いって コトバ を きった とき、 ワタシ は、 ここ で カレ が もう イチド オオゴエ で なきだす の では ない か と おもった。 それほど コエ の チョウシ が せまって いた。 が、 カレ は なきださなかった。 ワタシ は カレ の ため に テキトウ な ナグサメ の コトバ が みつからない の を ザンネン に おもいながら、 だまって、 スナ の ウエ に くろぐろ と うつった ワタシタチ の カゲ を みて あるいて いった。 まったく、 ショウガッコウ の ニワ で ワタシ と とっくみあった とき イライ、 カレ は ヨワムシ だった。
 ―― つよい とか、 よわい とか って、 どういう こと なん だろう…… なあ。 まったく。 ―― と、 その とき、 カレ は もう イチド その コトバ を くりかえした。 ワタシタチ は いつのまにか カンコウ の ホンリュウ の キシ まで きて いた。 キシ に ちかい ところ は、 もう イッタイ に うすい コオリ が はりつめ、 チュウリュウ の、 おうよう と ながれて いる ブブン にも、 かなり な オオキサ の コオリ の カタマリ が イクツ か ただよって いた。 ミズ の あらわれて いる ところ は うつくしく ツキ に かがやいて いる けれども、 コオリ の はって いる ブブン は、 ツキ の ヒカリ が スリガラス の よう に けされて しまって いる。 もう、 ここ 1 シュウカン の うち には すっかり ヒョウケツ して しまう だろう、 など と かんがえながら スイメン を ながめて いた ワタシ は、 その とき、 ひょいと カレ の さっき いった コトバ を おもいだし、 その かくれた イミ を ハッケン した よう に おもって、 がくぜん と した。 「つよい とか よわい とか って、 いったい どういう こと だろう なあ」 と いう チョウ の コトバ は ―― と、 その とき ワタシ は はっと キ が ついた よう に おもった。 ―― ただ ゲンザイ の カレ イッコ の バアイ に ついて の カンガイ ばかり では ない の では なかろう か、 と その とき、 ワタシ は そう おもった の だ。 もちろん、 イマ から かんがえて みる と、 これ は ワタシ の オモイスゴシ で あった かも しれない。 ソウジュク とは いえ、 たかが チュウガク 3 ネンセイ の コトバ に、 そんな イミ まで かんがえよう と した の は、 どうやら カレ を かいかぶりすぎて いた よう にも おもえる。 が、 つねづね ジブン の ウマレ の こと など を キ に しない よう に みせながら、 じつは ヒジョウ に キ に して いた チョウ の こと では あり、 また、 ジョウキュウセイ に いじめられる リユウ の イチブ をも その テン に みずから きして いた らしい カレ を、 よく しって いた ワタシ で あった から、 ワタシ が その とき そんな ふう に かんがえた の も、 あながち ムリ では なかった の だ。 そう かんがえて、 さて、 ジブン と ならんだ チョウ の しおれた スガタ を みる と、 そう で なくて も ナグサメ の コトバ に きゅうして いた ワタシ は、 さらに なんと コトバ を かけて いい やら わからなく なり、 ただ だまって スイメン を ながめる ばかり だった。 が、 それでも ワタシ は なにかしら ココロ の ウチ で うれしかった。 あの ヒニクヤ の、 キドリヤ の チョウ が、 イツモ の ヨソユキ を すっかり ぬいで ―― マエ にも いった よう に、 これまで にも ときとして、 そういう こと も ない では なかった が、 コンヤ の よう な ショウジキ な ハゲシサ で ワタシ を おどろかせた こと は なかった。 ―― ハダカ の、 ヨワムシ の、 そして ナイチジン では ない、 ハントウジン の、 カレ を みせて くれた こと が、 ワタシ に マンゾク を あたえた の だった。 ワタシタチ は そうして しばらく さむい カワラ に たった まま、 ツキ に てらされた、 タイガン の リュウサン から トクソンケン や セイリョウリ へ かけて の しらじら と した ヤケイ を ながめて いた。 …………
 この ロエイ の ヨル の デキゴト の ホカ には、 カレ に ついて おもいだす こと と いって は べつに ない。 と いう の は、 それから まもなく (まだ ワタシタチ が 4 ネン に ならない マエ に) カレ は とつぜん、 まったく とつぜん、 ワタシ に さえ ヒトコト の ヨコク も あたえない で、 ガッコウ から スガタ を けして しまった から だ。 いう まで も なく、 ワタシ は すぐに カレ の イエ へ たずねて みた。 カレ の カゾク は もちろん そこ に いた。 ただ カレ だけ が いない の だ。 シナ の ほう へ ちょっと いった から、 と いう カレ の チチオヤ の フカンゼン な ニホンゴ の ヘンジ の ホカ には、 なんの テガカリ も えられなかった。 ワタシ は まったく ハラ を たてた。 マエ に なんとか ヒトコト ぐらい アイサツ が あって も いい はず なの だ。 ワタシ は、 カレ の シッソウ の ゲンイン を いろいろ と かんがえて みよう と した が、 ムダ だった。 あの ロエイ の バン の デキゴト が チョクセツ の ドウキ と なった の だろう か。 あの こと だけ で、 ガッコウ を やめる ほど の リユウ に なろう とも おもえなかった が、 やはり イクブン は カンケイ が ある よう な キ も した。 そう かんがえる と、 いよいよ、 レイ の、 カレ の いった 「つよい、 よわい」 ウンヌン の コトバ が イミ の ある もの に おもわれて くる の だった。
 やがて、 カレ に かんする イロイロ な ウワサ が つたわって きた。 カレ が ある シュ の ウンドウ の イチミ に くわわって カツヤク して いる と いう ウワサ を ひとしきり ワタシ は きいた。 ツギ には、 カレ が シャンハイ に いって ミ を もちくずして いる と いう よう な ハナシ も ―― これ は やや アト に なって では ある が ―― きいた。 その いずれ も が ありうる こと に おもえた し、 また ドウジ に、 リョウホウ とも ネ の ない こと の よう に かんがえられ も した。 こうして、 チュウガク を おえる と すぐに トウキョウ へ でて しまった ワタシ は、 ソノゴ、 よう と して カレ の ショウソク を きかない の だ。
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