many books 参考文献

好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

金沢・酒宴

2011-02-18 20:30:07 | 読んだ本
吉田健一 1990年 講談社文芸文庫版
まあ、とくに何というわけでもないが、読んだことのない吉田健一を読んでみようと思い立った。
金沢ったら、金沢競馬しか行ったことないんだけどね、私の場合。また行ってみたいなー(競馬ぢゃなくて)と去年の秋頃ふと思ったとき、この小説にたまたま行き当たった。
独特の文体ということは、なんとなくウワサにきいていたが、そういうのは要は音楽みたいなリズム感の問題なんで、読んできゃそのうち馴染むもんだと思ってたんだけど、なかなか文章の波に上手に乗ることができなかった。
たとえば、>それが金沢だったのはその理由を既に言ったようなもので一つの町が変らずに一つの場所でその町であるのは伝統とか何とかいうことに説明を求めなくてもそこに住む人間の生活の問題であり、これは逆に伝統とか何とかいうのはその場所に住んでいる人間の生活に求めなければならないということである。みたいな文、スラっといかず、一度戻って読み直しちゃうことが多い。
それはそうと、何の話かっていうと、東京に職業(経営者かな)も住居も持っている男が、なぜか金沢が気に入って一軒の家を借りて、時間ができるたびに金沢に通ってきては無為の日々を過ごし、その土地で出会ったちょっと変わった感じの酔狂なタイプのひとたちに招かれて旨いものを食べたり酒を飲んだりするって話なんだが。
そのあたり、第2章に入ったところで著者自らが、>「やはり既に書いたことで解る通り、これは或る所で何もしないでいた一人の人間にそこで起った色々なことの話である」って書いてるように、主人公は何をするってわけでもないことは確かである。
途中、読んでると、これは男の身の上に起きた夢だか現だかわかんないって感覚に襲われたりして、ちょっと不思議な感じの小説。この文庫の解説で四方田犬彦は「ユートピア小説」と呼んでるけど、私が受けた感じは、うまく説明できないけど、諸星大二郎の「桃源記」を思い出させるものだった。
コメント
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