神奈川絵美の「えみごのみ」

五十両、受け取り 申 さ ず - 二月文楽第三部 -

(前回の続き)

-籠(かご)の鳥なる梅川に焦がれて通う廓雀(さとすずめ)-

さて、梅の帯を締めて向かった国立劇場小劇場。


今回の『冥途の飛脚』は
主人公 忠兵衛と友人の八右衛門とのやりとりが軽妙な
「淡路町の段」、
遊郭で公金300両をばらまいてしまう「封印切の段」、
そして死を覚悟した忠兵衛と梅川が新口村へ向かう途中の
「道行相合かごの段」
でした。


プログラム中のインタビューは、
昨秋の「広島カープ」のアドリブで
すっかり心を持っていかれた、咲太夫さん

淡路町の段 口
今回、印象に残ったのは、
ご病気で休演の豊竹松香太夫さんの代役を務めた
豊竹咲甫太夫さん。
以前も思いましたが、口調が滑らかで軽快、
耳につくような癖がなくて、私はとても聞きやすかったです。
何と言うか、若い世代の観客に受けそうな語り。
(私が若い世代に入るのかは疑問ですが
声量がやや控えめなのと、もう少し重みや滋味みたいなのが
出れば、とも思ったりしますが(すみません)、
でも、こういう持ち味のままでいいようにも思います。
お顔立ちも、好み

『冥途の飛脚』は、近松の年表から推察するに
京都から大坂に住居を移してからの作品で、
随所に、いい意味での俗っぽさ、毒気があって
こんなに面白いんだ!と再発見。

例えば、有名な一節
「過ぎ行かれし親父の話に、鼻紙びんびと使う者は曲者じゃと言はれたが…」
が、廓通いで身を崩すことの暗喩になっているとは…。
これはプログラム中の解説を読まなければ私、
わかりませんでした。


淡路町の段 奥
こちらは口に引き続き、おふざけなやりとりから、
公金の300両を持った忠兵衛が
「一度は思案、二度は不思案、三度は冥途」と
散々迷って梅川のもとへ行ってしまう、物語のキーとなる場。
見せ場が多い分、豊竹呂勢太夫さんの“引き出しの多さ”も
活きて、とても見応え、聞きごたえありました。

記事のタイトルにした、有名な
「金子五十両、受け取り申さず候~」以下、お人形も浄瑠璃も
テンポよく、躍動感があり、
最後の、これまた有名な
「おいてくれうか、いてのけうか」も
これは太夫さんの裁量なのでしょうか、上方的な、しつこいくらいの
繰り返しで、
忠兵衛のつま先に観客の目が集中する一部始終、
面白いけれども緊張感もありました。
(そういえば、このつま先は足使いさんなのでしょうか、
それとも玉男さん? よく見ておらず


封印切の段
こちらは何と言っても、豊澤富助さんと、
舞台で禿が弾く太棹とのユニゾン。
もちろん、人形は“ふり”だけですが
吉田蓑之さん、練習したのでしょうね。。。
富助さんと手の動きがそっくり、ぴったりで
観客は嬉しいやら感心するやら。

八右衛門と忠兵衛とのかけあいも
見せ場なのですが、
どうも、八右衛門の思慮深さ、友達思いの面が弱いような。
歌舞伎では、徹底した悪役だそうなので、わかりやすそうですが…。
忠兵衛も、ごめんなさい、玉男さんが遣うと
私には清廉潔白な正直者に見えてしまう…


プログラムの写真は、
玉男さんと勘十郎さんのコンビ。


梅川は下級の遊女で、
「らしさ」を出すために胸元ざっくりの着方なんだそうです。


道行相合かごの段
こちらは、竹澤團七師匠を頭とし、5人の太棹さんが
並び(太夫さんも5人)壮観。
鶴澤清丈(丈の右上に点)さんと、豊澤龍爾さんが
並んでいらして、
私、この段はほとんどの時間、舞台よりも、床のこのお二人を
オペラグラスで観ていました…不謹慎でスミマセン。
みぞれ交じりの野道を、
羽織を着せかけたり、笠をのせたり、
互いに労わりあいながら歩んでいく…という場なのですが、

こんな苦労してまで、死までをも覚悟して、
なぜ、梅川は、この(いいとこなしの)男についていくのか。
そう思ってしまうとなかなか、感情移入しにくいもの。

でも、最近は
理詰めではどうにもならない「情」を
そういうこともあるよね、と受容することも
楽に、そして人に対して優しく生きていくすべかなあと
思えるようになってきました。
文楽作品の中でも、身代わりものはどうにも
心痛むものがありますが、
心中ものは、基本、恋に落ちてしまったものは仕方ない。
国立劇場に何度も通って、年月を経て、
その気持ちに共感できるようになってきたような気がします。

コメント一覧

神奈川絵美
香子さんへ
こんにちは
>住太夫さんからお稽古
わっ、そうなのですね。今後におおいに期待ですね!

>みんなで心配してるのに忠兵衛ったら〜
そうなんですよね。文楽では徹底したダメ男(笑)。
歌舞伎はずいぶん、この辺りの描かれ方は
違うそうですね。

>清丈さんと龍爾クン
ともに精悍なお顔立ちですよね。
名実ともに、太棹さんの未来を担って欲しいです。
香子
咲甫さん、住太夫さんからお稽古付けられてるそうです。
なので心境著しいですよね、期待してるんです (^-^)b
文楽でははっちえもんを始め、みんなで心配してるのに
忠兵衛ったら〜な感じですが、歌舞伎だとはっちえもんが
これでもかと言わんばかりに忠兵衛をイヂるんですよね。
それで我慢出来ずに封印切っちゃうという(苦笑)
ま、歌舞伎は主役の役者を目立たせてナンボですから。
清丈さんと龍爾クンは同意、わかるわ〜
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