19
(18より続く)
はじめてのキスは、日本で一番地価の高い交差点で、信号待ちの最中にだった。誰にも見られないように、ほんの一瞬唇を合わせては離し、見つめ合い、微笑んだ。
次のキスは、真珠店の前のクリスマスツリーだった。周囲は、家族連れや、カップルや自撮り写真を撮るOLなどでごった返していた。大通りから左に折れ、ブランドショップやファッションビルが続くイルミネーションに飾られた通りで、三度目のキスをした。
「この木って本当にマロニエの木なの?」
「5月に赤い花を咲かせるのを見たことがある。ベニバナトチノキと言う交雑種。マロニエはセイヨウトチノキで白い花が咲く。」
らせん階段を上がる。JRの駅の向かいにある低いビルの屋上で、新幹線が走り抜けるのを見ながら、四度目のキスをした。
「あそこの建物何?」
彼女はガラスづくりの箱舟のようなビルを指さす。
「20年くらい前からあそこに建ってるけど。ラ・フォル・ジュルネとかもやってるイベントスペース的な複合施設」
「そうか、昔東京ミレナリオが行われたころ、行ったことあるかもしれない」
数分のちには、ガード下をくぐり、その場所に私たちはいた。ケヤキの木の下で五度目のキスをする。
そして、シャンパンゴールドに彩られた長い並木道、彫像のそばで六度目のキスをした。彼女の言葉に刺激されてか、一瞬ミレナリオの映像が蘇った。時の流れを遡るように、その通りを逆に進む。
行く手には大通りをはさんで二つの高いオフィスビルがあり、彼女は向こうの新しい方がいいと言った。
中層階に、外に出られる場所があり、ライトアップされた煉瓦造りの駅舎を見ながら私たちは七度目のキスをした。
駅の正面が近づく。手をつないで横断歩道を渡ると、大勢の人ごみの中に、見知った顔が二つ現れた。なぜ、佐和子がメガネをかけなかったのか、彼女が離れた時間に何をしていたのか、数々の謎が氷解する。
聡美は私に、瑠衣は佐和子にと抱きついてくる。涙がこぼれる。
ありがとう。愛すべきガーディアン・ストーカーたちよ。
(fin)
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この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関わりありません。
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