昭和少年漂流記

破壊、建設、発展と、大きく揺れ動いた昭和という時代。大きな波の中を漂流した少年たちの、いくつかの物語。

1969年。僕たちの宵山 ―昭和少年漂流記第二章―28(最終)

2017年04月18日 | 日記
「もうええやろう。みんな、そのくらいにしとき」 奥からおっちゃんが出てきた。僕たちのやり取りを耳にしながら、顔を出すタイミングを計っていたようだ。 玄関の引き戸が開き、カズさんが入ってくる。カズさんもまた、入るタイミングを待っていたようだ。とっちゃんからは、玄関の擦りガラスに映るカズさんの姿が見えていたのかもしれない。 「もうええか?みんな。夕刊、頼むで」 カズさんのいつもの大人の笑顔が、 . . . 本文を読む
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1969年。僕たちの宵山 ―昭和少年漂流記第二章―27

2017年04月13日 | 日記
翌朝、とっちゃんに掛ける言葉を考えながら、いつものように新聞を配り終えた。 そっと販売所の引き戸を開けると、とっちゃんの顔が真正面にあった。とっちゃんは、いつものようにいつもの場所に腰掛け、いつものようにタバコを咥えていた。 「グリグリ~~。お疲れさん~~」 その声もまたいつものように明るく、大きかった。 階段下には、珍しくみんなが揃っている。 何かを考えている顔の大沢さんの横に桑原君。 . . . 本文を読む
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1969年。僕たちの宵山 ―昭和少年漂流記第二章―26

2017年04月11日 | 日記
翌朝。しかし、とっちゃんは思いの外元気だった。 「おお、グリグリ~~。お帰り~~。宵山よかったの~~」 配達が終わって帰ってきた僕に、いつもの場所から大きく手を振ってくる。 「宵山、何かええことあったんか~~?」 カウンターから首を出したおっちゃんの顔がにやついている。どう応えていいかわからず黙って微笑む。 「きれいなネエチャンいっぱいおったもんなあ。なあ、グリグリ~~」 その快活さを . . . 本文を読む
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1969年。僕たちの宵山 ―昭和少年漂流記第二章―25

2017年04月08日 | 日記
彼らの視線をなぞると、そこに見えてきたのは意外な人物だった。 “白髪”だった。“白髪”は京都からいなくなったわけではなかった。 「“おっさん”やないか。宵山に来はったんやなあ、“おっさん”も」 これはいいチャンスと、とっちゃんの腕を取る。“白髪”だったら、声を掛けて合流すれ . . . 本文を読む
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1969年。僕たちの宵山 ―昭和少年漂流記第二章―24

2017年04月02日 | 日記
宵山の山鉾巡行は、四条烏丸から四条通り、河原町通り、御池通りと曲がって行き、烏丸通りを下る一周コース。前日の夕方にはコースにある市電の架線は外されている。 「市電は動いてへんからな」 前もってカズさんから忠告を受けていた僕たちは、鴨川の堤防を三条大橋まで下っていくことにしていた。 「よろしゅうな~~」 大きな声に振り向くと、販売所前でおばちゃんが手を振っている。 北山橋の向こう、正面から . . . 本文を読む
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1969年。僕たちの宵山 ―昭和少年漂流記第二章―23

2017年03月29日 | 日記
7月17日がやってきた。 とっちゃんは配達の出発を後らせ、僕が販売所に到着するのを待っていた。初めてのことだった。すこぶる上機嫌だった。 「グリグリ~~、おはよう。ええ天気やなあ。宵山日和やで~~~」 声がひと際甲高い。 「じゃ、行ってくるわ~~。グリグリも頑張るんやで~~」 自転車の軋む音が勢いよく遠ざかっていく。 「とっちゃん、張り切ってんなあ」 カウンターの陰から顔を上げたおっ . . . 本文を読む
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1969年。僕たちの宵山 ―昭和少年漂流記第二章―22

2017年03月20日 | 日記
それから三日後、夜遅く、桑原君が突然やってきた。眠りに落ちる寸前だった。 窓にコツンと小石がぶつかる音に起き上がり窓を開けると、道路の中央に黒い人影が佇んでいる。桑原君だった。座り込みを誘いに来たのだと思った。 階下から先導し、静かに招き入れた。部屋に入り振り返ると、桑原君は入口で立ちすくし頭を垂れている。 「夜中にすまん。販売所閉まってるもんやから」 小さな声が震えている。袖をめくった長 . . . 本文を読む
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1969年。僕たちの宵山 ―昭和少年漂流記第二章―21

2017年03月15日 | 日記
下宿に戻った。ポストのチェックは忘れなかった。啓子からの手紙はその日も着いてはいなかった。 決心していた“とっちゃんと宵山に行くこと”がぐらつき始める。とっちゃんと宵山に行く、ただそれだけのことなのに。 夕闇が迫る頃、未練がましく、もう一度ポストを見に行った。案の定、空だった。暗い6畳に戻り、窓を開けた。窓辺に肘を掛け、生暖かい夕風に顔を曝した。 夏を迎えて、やけに田 . . . 本文を読む
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1969年。僕たちの宵山 ―昭和少年漂流記第二章―⑳

2017年03月12日 | 日記
「お帰り~~。とっちゃん、何してたんや?」 おっちゃんののどかな声と笑顔が迎える。販売所にはみんなが揃っている。 「宵山に連れて行ってくれって言うんですよ、とっちゃん」 おっちゃんに告げる。すると、大沢さんと話していたカズさんがすぐに振り向いた。 「やめとき、やめとき~~」 顔をしかめながら、手を左右に大きく振る。 「とっちゃんも、もうじき二十歳やもんなあ。一丁前の青年や。付くもの付い . . . 本文を読む
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1969年。僕たちの宵山 ―昭和少年漂流記第二章―⑲

2017年03月06日 | 日記
販売所がぎくしゃくしたのはその朝だけで、翌朝からはいつもの朝の風景を取り戻したように思えた。 しかし、二階には根深いぎくしゃくが残っているようだった。 「議論するのはかまへんけど、怒鳴るのは勘弁してほしいわ」 大沢さんが数日後の朝、珍しく愚痴をこぼした。 「聞こえてくる言葉から想像するに、桑原君、相当のめり込んでるなあ」 「何にですか?」 「学生運動や。ちょっと過激な感じやなあ」 僕 . . . 本文を読む
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