川名ますみ句集

花冠同人川名ますみのブログ句集

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2008-11-24 17:22:34 | Weblog
  序

 川名ますみさんは、ピアニストとして活躍されていたが、病気療養の生活に入り、俳句を始められた。句歴は四年で、その間の俳句は病床のものである。

  つばくろの声に患者ら空仰ぐ
  春光に縁取られつつ白衣過ぐ
  歯ブラシを朝涼の明るきへ立て
  療苑を貫き越えぬ黒揚羽
  満月へ両手を広げ照らされむ

 これらの句には、病者とは思えない明るさがあり、意志の強さがある。病床にあっても、芸術家としての内面の強さを持ち続けていることを嬉しく思う。こうした俳句への姿勢は、ますみさんが物事を絶えず真っ正面から見ていることで、また、観察の対象を自分の目の高さで見ているからである。

  道ひろく春山絶えず正面に
  小鳥来てわが目の高さそこに置く

 そして、何かを絶えず求め続けているので、それが新鮮で、読み手をはっとさせてくれる。読み手に励ましを与えてくれる俳句である。

  雲の峯追うて何かを見逃せり
  雪礫空に返したくて放る
  残る鴨みずから生みし輪の芯に

 ますみさんの句の新鮮さは、もの珍しさにあるのではなく、日常のどこにでもあって、誰もが見ているものに作者自身の発見があることで、作者自身の驚きが新鮮なのである。療養生活の限られた中にあっても、心は自由で、閉ざされたところがない。

  もう風は爽やかだから出ておいで
  えのころの芯にぎっしり実の青き
  ラムネ飲むきれいに響くところまで
  プールから花のタオルの中に入る

 長年の療養生活は、なにかと辛いものがあろうが、父母との自宅での生活に喜びがあり、安心がある。

  少しずつ父はカトレア咲かせおり
  空見よと扉を叩く母秋立つ日
  真っ白なショールの届き誕生日

 川名ますみさんの代表句としては、次の三句を採り上げる。

  ものすべて光らせ来たる木の芽風
  脱稿をこの日と決めし一葉忌
  水のいろ火のいろ街に秋燈

 本句集は、ブログ句集として世に出た。多くの方々に読んでいただければと願い、これらの明るく若々しい句が元気な人々にも励ましを与えてくれるに違いない。

   平成20年11月
                             高 橋 信 之
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目次

2008-11-24 17:22:17 | Weblog
目次
 序‥‥‥高橋信之
第1部(平成17年~平成18年 116句)
第2部(平成19年~平成20年 115句)
 跋‥‥‥高橋正子
 あとがき
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第1部(平成17年~平成18年)

2008-11-23 21:00:18 | Weblog
●平成17年(41句)

初日の出窓辺に並ぶ車椅子
病室の嗽のコップに梅を挿す
静謐にピアノ弾きたし春の雪
春月のごとき音色のチェロを抱く
囀や木立の揺れている辺り
初蝶を見しはいつかと佳き声す
母の背に雨の匂いの桜花
紫木蓮小児病舎の窓ふさぐ
この橋を渡ればわが家春の川
銀漢を連れてギリシャへ友嫁ぐ

弾かずとも秋光満たすピアノかな
露草の瑠璃色溶けし空へ大樹
花鋏かたき音立て露を剪る
どの窓も澄める月夜を賜れり
防音の窓に光りぬ花芒
灯の親しスタッカートをひかえめに
高層階とんぼの領分超えいたり
病院を出るなり木犀の香を浴びる
露散らす横須賀線の単純な銀
手に軽くやわらかな本小春日に

夜霧濃し窓の日記に記しおく
画材店裏はがらりと蔦紅葉
銀色の列車あまねく霧に濡れ
黒鍵に触るる小指の秋気かな
天と話すやうなピアノを秋うらら
チェロケース抱き寄せて行く露の路
小鳥来てわが目の高さそこに置く
渡り鳥硝子のビルの中階を
パキラの葉一枚拭くも冬用意
俎板も鍋も厨は秋の音

集められ落葉の袋紅重し
秋燈下マスカラの影ほほに揺る
渡り鳥向き変えむとき白瞬く
蔦紅葉の薄きところに空の青
牡蠣殻のシンクに白く甘き香を
少しずつ父はカトレア咲かせおり
首都真昼銀杏黄葉の集む光り
冬晴れを地下道抜けてビルの間に
冬晴れて登ることなき山のぞむ
湯を吸いし柚子の重さを掌に

年の瀬の病院大き荷物行く


●平成18年(77句)

星冴えざえ夜にも蒼天あることを
雪礫空に返したくて放る
児ら帰る袋に雪をいっぱい詰め
笑顔らし母も抱っこの子もマスク
冬満月チェロの弛みし弦巻かむ
リーフパイ冬陽さくりと散らしけり
春コート裏地光らせ少女駈く
カトレアもパキラも外へ浅き春
春の風口中に湧く歌きよら
春光に縁取られつつ白衣過ぐ

春昼のビルあざやかにビル映す
春光も水も弾きて鳥発ちぬ
芽木一樹ゆっさり枝を伸ばしたり
雛祭こんなところに幼稚園
出勤のナース茜の春ショール
花満たし枝々濠へ傾れけり
残る鴨みずから生みし輪の芯に
傘立てにすらり金の柄春の雨
ひとつ咲き春光そこに集まれり
生きること許され今日の初桜

糸ざくら花なす前のほの紅き
一筒の注射入るまで春語る
ものすべて光らせ来たる木の芽風
庭息吹くその真ん中の欅の芽
中庭を来て髪梳けば草芳し
春雷のやみてややありチャイム鳴る
葉桜のさざめく濠の水みどり
医学部のメタセコイアの若葉濃き
買物籠にひときわ長き菖蒲の葉
病窓に向きあう丘の新樹燃ゆ

母の日の母の背中を掴み立つ
夕涼や母に拭かるる背と腋と
賜りし薔薇に添い来ぬ庭の匂い
病臥の眼に青きを映し五月行く
星涼し新刊本を軋ませ読み
吾と同じ月を見て立つ立葵
ラムネ飲むきれいに響くところまで
サルビアの咲き初め空の青間近
知らぬ名の真夏の島に父発てり
アガパンサス溢るる石の路涼し

筆談の字に汗にじむ静けさよ
夕焼が視界に入りて黙しけり
花桐に空き地の四方満たされし
夏料理ピンクペッパー散るマリネ
プールから花のタオルの中に入る
歯ブラシを朝涼の明るきへ立て
藍軽く歩き始めた児の甚平
空蝉が手にしがみつき離れない
空見よと扉を叩く母秋立つ日
白桃を滴らせたる銀フォーク

病室を廻る荷車柿積みき
爽かに湖に浸れる山の影
バイタルを映す画面の傍の桃
祭笛帰りし母の肩越しに
松手入空がどんどん広くなる
風の来て馳走となりぬ夜食粥
もう風は爽やかだから出ておいで
えのころの芯にぎっしり実の青き
秋の燈に張り替えし椅子の傷と艶
刷かれきてここより鰯雲となる

吾が窓に富士近づきぬ秋の朝
摘み来たる露けき草の匂い濃き
銀杏黄葉果てなき空に湧きあがる
新しきランプの白し秋の宵
秋冷を久しくふれぬ鍵盤に
秋水を呑めば胸元ことこと鳴る
鮪釣大声のまま父戻る
少女像石の額に冬日満つ
脱稿をこの日と決めし一葉忌
月に顔照らされ恥づることのなき

雲の切れ明るき冬の来ておりぬ
真っ白なショールの届き誕生日
焼藷屋やさしき節を晴れし夜に
カーテンに石鹸の香の小晦日
枯蔦に顕となれる煉瓦塀
今宵こそ散りたき黄葉一枚に
大枯野ひろびろ雲を映したる
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第2部(平成19年~平成20年)

2008-11-23 11:20:18 | Weblog
●平成19年(70句)

元日の都心八方がらんどう
少し泣き十年日記九年目に
アイラインかるく跳ねさせ初鏡
弾初に表紙の朱き楽譜選る
寒蜆からからと鳴る椀の底
厨より父の牡蠣剥く音静か
一曲を弾いて悴みやまぬ指
下萌へ影際やかに列車行く
草萌の遠目の岸辺ひろがりぬ
木の芽風なれば愉しき向かい風

賜りし人を想うて雛飾る
春空へ爪先立ちに絵馬重ぬ
春雷にそつと指組む胸の上
青き茎まつすぐ立たせ花菜風
試歩の日が青き踏む日となりにけり
春天のぐるり仰げば樹々ばかり
父母と息深うしぬ松の芯
風も陽も透ける薄さに初蝶来
高きより降りくる黄蝶ときに浮き
小手毬に幾通りある風の向き

燕来ぬ白衣寝衣の此処にまた
懐かしき人と飛燕の話から
つばくろの声に患者ら空仰ぐ
新緑に見え隠れする飛行船
ヴィオロンと青葉と古き公園に
紫陽花のまず葉の色に咲き初めぬ
針涼し濃き花柄の生地を裁つ
通夜の場へ辿り着けずに雷の下
光りつつ樹を離れむと桜の実
卯波より揚がる伊佐木の黒光り

雲の峯追うて何かを見逃せり
高梯子担ぐ庭師の日灼顔
枕辺に涼しき色の花籠を
夏至明けの寝静まる窓水色に
山峡の一家の植田陽を返す
きちきちを追うて着きたる祖父の墓
ヴェネツィアングラスの藍に鬼灯を
療苑を貫き越えぬ黒揚羽
門仰ぎ旅の終りの泰山木
その下に海あることを遠花火

公園の門を渡れる七夕竹
花火の間長くて次の大きなる
秋日傘ほどよく褪めし花模様
恥じろうて蝉見せし児の夕日中
どの窓も声溢れさす揚花火
母の掌の薄きにどさり黒葡萄
秋嶺や影あたらしき甲斐盆地
満月へ両手を広げ照らされむ
幾たびも窓へ野分の枝迫る
コスモスの花びら芯に陽を集む

稲田風果てに群峰連なれり
秋の雲ほどけしときの山近き
あきかぜに槐からから実を鳴らす
秋雲を流しゆるがぬ水平線
土の香を甦らせて零余子炒る
十三夜湯をはや済まし静かなり
後の月明かに街は子の多し
 転居の友へ
渡り鳥背の太陽の変りなき
五線紙に写譜ペン太く寒燈下
手袋に鴉のくれた実の紅さ

水鳥の斜めに森へ入る葉音
空碧く落葉跳ねたる石畳
冬晴の母子像に掛く千羽鶴
文学館どの窓からも冬紅葉
海のぞむ柵の意匠の冷たさに
甲斐駒の空に眩しく冬耕す
冬嶺へ白き撞木のまつすぐに
朱く照る枯山仰ぎ甲斐を発つ
窓越しの牡蠣割る音に眠りたり
母の拭く其処より明かる年用意


●平成20年(45句)

箸置に独楽を選んで祝箸
窓越しに手を振るナースお元日
はつ雪よ真下の屋根を見てごらん
凩に富士きらきらと近づきぬ
雨晴るる梅の蕾の触れ合いて
春雪に染まり初めたる真夜の庭
淡雪の燈に近づいて耀やかに
雫みな枝に光れる春みぞれ
運びつつ香をきく母の鉢の梅
扇より柳眉のぞかす古雛

永き日や窓に絶えざる靴の音
竹林をさらさら越ゆる春夕陽
下萌の川原ひろびろ橋渡す
雲の来て藍を濃くする春の川
芽柳を高く吹き上げ光とす
便りには雲の白さと初桜
卒業に旗の大きく両の門
梅東風を浴びて御礼の絵馬掛けし
敷石の小雨しらしら梅の苑
道ひろく春山絶えず正面に

春の田の傍に積まれしもの多し
段畑の最上段は桃の花
影もたず白蝶光のみを撒く
蒲公英の陽の色を挿す枕許
どの路へ入るも躑躅の朱烈し
蒲公英の絮よ此処から先は空
夏に入る酸素の音の逞しき
青葉雨けさより赤き車椅子
枕辺に摘み来し花の香の涼し
この道をまさらな若葉風と行く

スープにも粥にも紫蘇の香の蒼し
星涼し父の土産の匂袋
深々と杜ひらき割る那智の滝
羊歯青し飛沫絶えざる滝の下
紺青の傘をすらりと五月雨に
ランドセル背負う車椅子枇杷は黄に
紫陽花の碧き珠けさ大きなり
噴水の天辺のさき空青き
秋雲を映し硝子のビル碧し
まだ濡れて青空を指す曼珠沙華

水のいろ火のいろ街に秋燈
映画より帰りし父と十三夜
来し空を向いてゆりかもめの白し
水の香の土より立ちて野分雲
すらすらと風入る麻のワンピース
コメント (9)
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跋/高橋正子

2008-11-22 17:21:55 | Weblog
  跋
               高橋正子

   雪礫空に返したくて放る

 雪を礫にして、礫にしてみると、それを思いっきり空へ放りたくなる。あれほどに遠く高い空へ返してやりたくなる。そうすると、思い切り心が解放されそう。若々しい句。

   冬晴れて登ることなき山のぞむ

 冬晴れに高い山が望める。その山に自分は決して登ることはできないが、その山の姿のすばらしさに、登ることはかなわないが、せめて心だけでも登ってみたい思いや憧れがある。

   残る鴨みずから生みし輪の芯に

 「残る鴨」なので、みずからが生んだ輪の中心にいるという事実が生きる。温んだ水が、しずかに輪を描き、その中心にいる鴨に、独りでいる意思が読み取れる。

   春光に縁取られつつ白衣過ぐ

 ナースの白衣に春の光りがあたると、ナースは光りに包まれたように思える。白いものの光りは清らかで、まさに春の光りだ。

   病臥の眼に青きを映し五月行く

 静臥の時間は、眼が空を見る。その眼に青空が青を映してくれて、今日で青空の多い五月も行ってしまう、という感懐。

   知らぬ名の真夏の島に父発てり

 父は、自分の父でありながら、特別な人として、後姿で捉えられている。父は自分の知らない名の真夏の小島に出発した。それが、父というものだろう。

   秋の燈に張り替えし椅子の傷と艶

 張り替えた椅子が、秋の 燈に照らされて、古い傷と使い込んだ艶とが懐かしくまた、美しく目に映ります。

   刷かれきてここより鰯雲となる

 もとの句の「掃かれ」は、わかりにくい。「刷かれ」とした。眺めている空の雲の景色は、見ていて飽きない。移動していると、空に刷かれていたすじ雲が、あるところからは、鰯雲となったというたのしさ。秋空の澄んだ空気を得て、心境が出た。

   秋冷を久しくふれぬ鍵盤に

 長く触れなかった鍵盤に秋冷はあった。秋冷が現実深く感じ取られている。触れられた鍵盤は今踊りだそうとしているようにも受け止められる。

   脱稿をこの日と決めし一葉忌

 「一葉忌」に託す思いが知れる。ここを踏ん張って脱稿にこぎつけようという意思の強さが、一葉に通じるようだ。

   山峡の一家の植田陽を返す

 山峡なので「一家の植田」に、つつましい田が想像できる。植田に風が渡り、陽をよく返している。陽に恵まれて、これから夏を過ごして、実りの秋へ豊かに稲が育っていくことであろう。単なる写生でなく、植田の一家にも心が及んでいる。

  きちきちを追うて着きたる祖父の墓

 祖父の墓は、草のある道を辿って着くのだろう。きちきちが、行く手をキチキチと飛んで、案内をするよう。それを少年のように追いかけてゆく面白さがある。きちきちは祖父のお使いかもしれない。

  下萌の川原ひろびろ橋渡す

 ようやく草が萌え出した川原。そこに長い橋がかかっている。川原がひろびろしていることはもちろん、橋ものびやかである。下萌の川原であるからこそ、このような広さが見える。

  ランドセル背負う車椅子枇杷は黄に

 車椅子に乗った子がランドセルをしょっていることに、心を動かされる。見れば枇杷は黄色に色づき、季節はやさしく子を見守るようだ。

  水のいろ火のいろ街に秋燈

 街に灯る秋の燈を見ていますと、水のいろをした燈、火のいろをした燈があります。それが、大発見のように新鮮です。青い燈、赤い燈が入り混じる街の燈を見つめれば、どこかさびしさも湧いてきます。
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あとがき

2008-11-21 17:21:34 | Weblog
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奥付

2008-11-20 17:21:16 | Weblog

ブログ句集 川名ますみ句集(かわなますみくしゅう)

平成20年12月1日 発行
    著  者         川 名 ますみ
    発行所         花 冠 発 行 所
                   ネット出版部
    〒223-0062 横浜市港北区日吉本町3丁目40-41
                   電話 050-3641-8827
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