鍼灸如何に学ぶべきか~科学的鍼灸論の構築のために~

鍼灸の理論と術にかかわる初歩的・基本的な問題を中心に科学的=論理的に唯物論を把持して説(解)いて行きたい、と思います。

卒業研究終了(3・増補)〜その考察〜

2017-03-17 08:49:54 | 卒業研究(耳鍼,統計学)
卒業研究の「考察」について

今回の卒業研究、そもそもが「事例報告で良い」との前提で進んできたものなので、実験がすべて終わった現在、それを統計学的に云々しようとすることに無理がある。端的には、統計学的なデータの取りかたをしていないのであるから、つまりデータが無いもしくは不足しているのであるから、より具体的には、対照群の設定がされていなかったり、設定の仕方に無理があったり、サンプル数が不足していたりしているのだから、すべてが仮定の話になっていくしかないのは明白である、と思える。一言でいえば、「だから、言ったじゃないの!」というのが自身の思いであった。

しかしながら、「今後もこのような形での研究をすることが、現在はあり得ないと思うものの、もしかしたらあるのかもしれない」と自身の立場を否定して、考えてみると次第次第に、「否!不充分な事実からの対象の構造に分け入ることを求められるのが、 逆に、常態ではないのか!?」と思えてきて、現在ある不充分なデータからであっても統計学的に考えてみることを「是非、しっかりとやるべし!」との決意となっていったので、以下に検討してみたいと思う。

「考察」
今回の卒業研究の目的は、検証しようとした仮説は、「耳鍼によって、標準体重より多い者は標準体重へ向けて減量していき、少ない者は標準体重へ向けて増量していく(それゆえ、標準体重の者は標準体重を維持する)」というものであったが、この仮説に関しては、そもそもが検証実験の開始時に、実験対象者15名の内、13名が標準体重であり、標準体重より多い者2名、少ない者無しであったのであるから、これは例えるならば、「病人への薬の治療効果を実験するのに、対象者がほとんど健康人であった、というものであり、それで実験して病人への治療効果を云々しようとするのは、いくらなんでも無茶苦茶」であるから、統計学云々以前にどう考えても無理であるので、実験対象者を変えるか、仮説を変えるか(これは本末顛倒ではあるが)すべきであった、と思う。

(実験データからの考察)
さて、現在のデータから唯一、統計学的にということが、サンプル数の少なさに目を瞑れば(推測統計学といえども20〜50のデータ数は必要である)可能ではないかと思えるのが、「標準体重の者は、耳鍼介入によって、標準体重を維持する」という仮説の検証であるので、以下に述べていきたい。(これについても、対照群の設定の仕方から、体重変動の自然的、社会的要因の排除ができていないのであるが……そこにも目を瞑ることとして、但し、「人間の体重は、通常は変わらないものである」ということの証明、若しくは、「人間の体重が自然的、社会的要因でどのように一般的には変動するのか」ということが、より具体的には、「人間の体重の年間の季節変動」が分かっているのであるならば、今回の対照群の設定の仕方(耳鍼介入前の2週間を体重計測だけおこなって、それを対照群とする方法)で充分であると思えるが……。そう考えて行くと、基礎研究ということの意義がそこにあるのでは、とその大事性感じられるが、そのことに気付けたのも、今回の卒業研究の収穫の一であると思える。)

(1)耳鍼介入前の標準体重(BMI での……以下すべて体重の比較はBMIでおこなっている)の者13名の標本値から推定される母集団の平均値は21,6で、標準偏差は1,5の1/√標本数:13=0,416になる。ここでサンプル数が13と少ないことから、t分布表を使って、自由度は標本数マイナス1なので13-1=12のところに対応するので、95%の信頼区間を求めると、平均値21,6の回りの2,179倍標準偏差をとらなければならないので21,6±0,90(20,7〜22,5)となる。

(2)耳鍼介入後2週間の標本値から推定した母集団の平均値は、耳鍼介入前と同じくの21,6±0,90(20,7〜22,5)である。

(3)耳鍼介入後4週間経過した時点での標本値から推定した母集団の平均値は21,9±0,90(21〜22,8)で、(1),(2)の数値とほぼ重なる。

つまり、介入前と介入後の標本値から推定される母集団の平均値の統計学的数値は同じであり、介入後4週間経過した時点で、わずかに増加しているが、これは有意差ではない=誤差の範囲内である、ということが出来る。また、この場合、有意差があると言えるためには、耳鍼介入後の推定される母集団の平均値が23,4±0,90(22,5〜24,3)より大きいか、19,8±0,90より小さいかが、つまり耳鍼介入前の標本値から推定される母集団の正規分布と耳鍼介入後の標本値から推定される母集団の正規分布が重ならない必要がある。

体重の変動の検証は、BMIではイメージしづらいので、身長170cmのものの体重に換算して見ると、介入前の推定される母集団の体重の平均値は62,424kg±2,601kg(59,8〜65kg) 、介入後の数値は同じで、4週間経過後の数値は63,291kg±2,601kg(60,7〜65,9kg)となって、その差はわずかしかない、およそ食事前後の差くらいであるから感覚としても誤差の範囲内ということ実感出来る。また、有意差があると言える場合を同じくに、170cmのものの体重で換算すると、耳鍼介入後の推定される母集団の平均値が67,626kg±2,601kg(65,0〜70,23kg)より大きいか、57,22kg±2,601(54,619〜59,821kg)より小さいかが必要とされる。これは大雑把に言えば体重62kg前後のものが、67kg前後まで太るか、57kg前後まで痩せるかということであり、およそ5kg前後の体重変動が必要ということになる。(このような予測が出来ることもまた、統計学の素晴らしいところ、と思える。)

(また詳細は省くが、今回の耳鍼介入前の体重の標本値から推定される母集団の平均値の統計学的数値は、サンプル数が十数個〜数個であるが、政府統計による数百人レベルの統計と近似したものとなっていた。わずかなサンプル数にもかかわらず、日本人の20代、30代の男女を代表したサンプルと考えて良いと思われる。そのことからも、統計学的な検証の偉大性が実感される。)

以上要するに今回の実験データからは、「標準体重の者は耳鍼介入によって標準体重を保つ」と言えるかもしれない、と思える。

そこで、「標準体重を保つというが、それは耳鍼に何の効果も無かったということと同じことなのでは無いか?両者をどう区別するのか?」との疑問が当然にあると思われるが、その区別をするには、標準体重の耳鍼介入群に対して、ある程度長期にわたっての対照群を設けてのデータを取ることで、対照群には体重変動はあったが耳鍼介入群には変化が無かったということを今後、示さねばならないと思う。

またそれ以上に、本来、t検定=推測統計学であってもサンプル数は20〜50は必要といわれているのであるから、最低でもサンプル数20以上での実験が統計学的に、というのなら望まれると思える。

(アンケート結果からの考察)
今回は、実験データをとることと共にアンケート調査もおこなっているが、アンケート調査の結果として浮かび上がってくる実験対象者の姿は、「平均睡眠時間5時間前後の日常的な睡眠不足。十数名の内、日常的な運動習慣のある者はわずかに2〜3名、という運動不足。濃い味、脂っこい味を好む、という食の偏り。その上に、ほとんど全員が日常的に大なり小なりストレスを感じている。」というものであった。これはまさに現代日本人の姿そのものであり、実験対象者として興味深いものがあると思われる。

しかしながら、ここから今回の仮説を検証するには一定の手続きが必要とされる、端的には、それなりの仮説を立てての追加の検証実験をおこなうことが必要とされる、と思える。また、もしかしたら「多変量解析」を使うことによって、そこをクリア出来るかもしれない、とも思うが、それは現時点での自身の能力の範囲外であるので、今後の課題としたい。(ここでの「能力の範囲外」という言語表現は誤解を与えるかもしれないので、追記しておきたい。どういうことかといえば、当然に、「アンケート結果を数値化して統計ソフトに入力するだけのことなのに……どうして?」との反問が予想されるからである。言われていることは分かるしそれはその通りなのであるが、しかしながらそうでは無いのである。本来、統計学を研究に用いるということは、収集した何らかの数値を統計ソフトに入力し出てきた数値をアタマの中であれこれ考察することでは無く、対象を統計学的に見てとって、統計学的なアタマの働かせかたをして、それらの群を比較していくことで、自身の持つ仮説を証明していくことであるから、例えば、正規分布ということ一つとっても、自身の対象を正規分布として見てとることが出来るような二重の学びが必要とされるものの筈である。ここで「多変量解析」を能力の範囲外というのはそういう意味であり、決して、統計ソフトに数値を入力する手間を惜しんでのことでは無い、ということ明言しておきたいと思う。)

今回、実験データを統計学的に検討することをおこなってみて、統計学的に検証すること、考えることで、データから言えることと言えないこととを明確に示してくれること、統計学の大きな効用であると思えた。統計学を役立てていくことで、さらなる発展をと思う。

「参考文献」
『統計学という名の魔法の杖』(本田克也 浅野昌充 神庭純子著 現代社白鳳選書)

『研究者のための統計的方法』(R.A.フィッシャー著 遠藤健児 鍋谷清治訳 森北出版)

『順列組合より確率まで(統計数学への道)』(藤森良夫著 考え方研究社)

以上3冊、特に『統計学という名の魔法の杖』に学んだ。また、以下の3冊も参考にさせていただいた。

『原因をさぐる統計学−共分散構造分析入門』(豊田秀樹著 ブルーバックス) 

『基本統計学(第3版)』(宮川公男著 有斐閣)

『共分散構造はじめの一歩 図の意味から学ぶパス解析入門』(小塩真司 アルテ)
ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
« プラトン・アリストテレスの... | トップ | 卒業研究終了(4)〜考察から結... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

卒業研究(耳鍼,統計学)」カテゴリの最新記事

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
ブログ作成者から承認されるまでトラックバックは反映されません。