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■科学技術書・理工学書ブックレビュー■「生命はどこから来たのか?」(松井孝典著/文藝春秋)

2014-04-01 10:43:08 |    生物・医学

書名:生命はどこから来たのか?~アストロバイオロジー入門~

著者:松井孝典

発行:文藝春秋(文春新書)

目次:第1章 アストロバイオロジーとは
    第2章 生命起源論の歴史的展開
    第3章 宇宙と生命
    第4章 生命とは何か - 地球生物学の基礎
    第5章 生命と環境との共進化
    第6章 分子レベルで見る進化
    第7章 極限環境の生物
    第8章 ウイルスと生物進化
     第9章 化学進化 - 生命の材料物質の合成
    第10章 宇宙における生命探査
    あとがき - スリランカの赤い雨

 人類は、文明の発展と共に多くの発明を成し遂げてきた。自動車、鉄道、飛行機、ロケットなどの乗り物によって、地球はおろか宇宙にまでその活動範囲を広げている。これらの推進力となるエネルギーも、水力発電、火力発電、原子力発電、再生可能エネルギーと進展を遂げ、もう少しすると水素エネルギーの本格普及が始まり、さらに夢のエネルギーと言われている核融合発電にも手が届きそうな状況となって来ている。そんな、限りなく進展を見せる人類の科学技術ではあるが、未だにつくり出せないものがある。それは生命だ。万能細胞に多くの注目が集まっているが、あくまでも細胞の初期化であって、細胞を人工的につくり出しているわけではない。これほどまでに発展を遂げた人類の技術力をもってしても生命をつくり出すことは容易ではないのだ。そうなると、まず、生命とは一体何か?とか、地球上の生命は一体どこから来たのだ?といった基本に戻って考えねばならなくなる。どうも、今のところ生命体の定義すらはっきりとしてないと言うのが、現状であるらしい。それなら、定義は暫く置くとして、地球上の生命は一体どこから来たのか、というテーマが残る。

 「生命はどこから来たのか?―アストロバイオロジー入門―」(松井孝典著/文春新書)は、丁度、そんな疑問に答えるのに最適な書籍である。別に、生命科学の基礎知識が無くても読み進められるように、著者の配慮がされているのが何よりも嬉しいことだ。「入門」と付いているから当たり前だと思われようが、「入門」と謳っておきながら、素人には全く理解がいかない書籍も少なくない中、同書は正真正銘の「入門書」としての意義がある。この書の序章には、「このテーマは21世紀の学問の究極的な問いであり、アメリカ航空宇宙局(NASA)が21世紀の宇宙探査のテーマとして、『生命はどこから来たのか?』を選択し、『アストロバイオロジー』と命名したほどだからです」と書き記されている。ここで読者は、アストロバイオロジーは、NASAが名付けた新しい学問体系だと知る。さらに序章には、「生命とは何なのか、そして生命と呼ばれるものが、いかに地球に出現し、進化したのか、われわれは宇宙で孤独な存在なのか―この3つが生命起源論と呼ばれるものの根源的な問いです」と書かれている通り、ここで読者は、アストロバイオロジーの全体像が何となく分り始め、そして本文の各論へと入って行くことになる。

 そもそも、生物界は、どのように分類されているいるかと言うと、真性細菌、古細菌、真核生物の3つに分けられるという。真性細菌と古細菌は、細胞の中に核がない、すなわち原核細胞からなる単細胞の生物である。真核生物は、核がある細胞、すなわち真核細胞からなり、単細胞の生物と多細胞の生物がいる。動物や植物は、多細胞の真核生物なのである。同書は、この事柄が、何回も登場し、繰り返し、繰り返し説明されているので、読者は、生物学の基礎を自然に身に付けることができる。しかしながら、自然界は、そう簡単には理解できないような側面も持ち合わしているからややこしい。細菌のほかにウイルスが存在するが、細菌とウイルスの区分が曖昧であり、さらに細菌やウイルスが生命かそうでないかは、現在の科学では、どうも解き明かされてはいないようなのである。ここで、生物学に関しては素人の多くの読者は、面食らってしまう。細菌やウイルスは、生物かどうかは分っていないのだ、ということが分る仕組みとなっている。こうなると、もっと生物学の知識が知りたいと、同書を本格的に読み進めることになる。

 最後の章の「第10章宇宙における生命探査」においては、最近の宇宙探査から、地球外に、果たして生命が存在するのかどうかについてが述べられている。その中の話題の一つとして、1996年、火星から飛来した隕石に中に、生物の細胞化石らしきものが存在する、という報告が紹介されている。当時、NASAが特別会見を開いて、火星で生物の証拠が見つかったと発表し、大きなニュースとなった。そして、その結末はと言うと、筆者は「是と非が半々くらいといったところでしょう」と書いている。現在、火星ではNASAの火星地上探査機「キュリオシティ」が生命の痕跡を求め活動中であるが、「まだ、驚くような結果は、報告されていませんが、いずれ大発見の報がもたらされることでしょう」と書いてある通り、今後の「キュリオシティ」からもたらされるかもしれない、火星上で生命発見の大ニュースを、我々は聞くことができるかもしれない。そんな大ニュースの背後にある生命の奥深さを、同書を読むことによって少しでも理解できるようになればしめたもの。最後に筆者は、宇宙検疫の必要性に言及している。「宇宙で生命らしきものを見つけたとしても、それが本当にその場でう生まれたものなのか、慎重に調べなくてはなりません」と。
(勝 未来)


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