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■科学技術書・理工学書<ブックレビュー>■「宇宙はどのような時空でできているのか」(郡 和範著/ベレ出版)

2017-07-12 11:26:04 |    宇宙・地球

書名:宇宙はどのような時空でできているのか

著者:郡 和範

発行:ベレ出版

目次:1章 宇宙はどのようにできているのか?
    2章 見えない物質「ダークマター」が支配する宇宙
    3章 「ダークエネルギー」が宇宙の将来を決める!
    4章 宇宙創生からインフレーション膨張の宇宙へ
    5章 ビッグバンで元素が生まれた
    6章 物質から「素粒子の世界」へ
    7章 「超弦理論」が宇宙の謎を解き明かす

付録 1 陽子の寿命はなぜ10の34乗年程度になるのか?
    2 SUという対称性について
    3 ニュートリノ振動の発見
    4 ヒッグスが電子に質量を与えるメカニズム
    5 加速器で素粒子をつくりだす

 最近、ニュートリノとかヒッグス粒子、ブラックホール、ダークマター、さらにはダークエネルギーなど、素粒子や宇宙の最先端の話題のニュースを見かけることが多くなってきた。ほとんどの人にとっては、これらの用語の意味を知らなくても日常生活に不便を来すことはないだろう。しかし、現在の我々が地球上で生活できるのも、素粒子や宇宙が存在しているお蔭によるものであり、その成り立ちを知るということは、我々のルーツを辿ることにほかならない。しかし、これらの最先端の科学の成果は、一般の人が理解しようとしても、そう簡単に理解できるものではない。ニュートリノ一つとっても1冊の分厚い書籍を読みこなさなければならない。これは、日常生活に忙殺されている人々にとっては、実質的には不可能なことであろう。そんな時に、強力な助っ人となってくれるのが、この書籍「宇宙はどのような時空でできているのか」(郡 和範著/ベレ出版)である。283頁とコンパクトであり文章も読みやすい。数式は最小限にとどめられているので、素粒子や宇宙に特別な知識がなくても十分に理解できる配慮がなされているのが嬉しい。同書を読み進めば分かることであるが、素粒子の話と宇宙の話とを何故一つの書籍にまとめたかというと、時空の相移転でポコッと宇宙が生まれ、急激な膨張を伴うインフレーション時代を経て、高熱のビックバンで急拡大を遂げる宇宙誕生の物語の中で、素粒子が生まれたのである。つまり、素粒子と宇宙とは切っても切り離せない関係なのだ。現在、素粒子と宇宙に関する専門書は、数多く出版されているが、この書籍「宇宙はどのような時空でできているのか」は、素粒子と宇宙に関する重要なポイントだけに的を絞って簡潔に書かれているので、容易に最先端の科学成果を一冊の本を読むだけで理解することができるのが大きな特徴となっている。

 「1章 宇宙はどのようにできているのか?」では、太陽系がこの広大な宇宙のどの辺に位置しているのかが解き明かされる。我々は、太陽系が水、金、地、火、木、土、天、海の8つの惑星からなり、天の川銀河の中にあるということぐらいは承知しているが、どうもそれ以上となると明確に答えられる人はあまり多くはないのではないか。太陽系は天の川銀河の中心から2万6100光年離れた第3腕という渦巻きのなかにある。そして天の川銀河から200万光年離れたところにアンドロメダ銀河があるが、この2つの銀河は、40億光年後に衝突し、合体するという。ただ、アンドロメダ銀河も天の川銀河もスカスカの空間なので太陽系の被害はないと考えられている。アンドロメダ銀河や天の川銀河など40ほどの銀河が集まって、直径が650万光年の局所銀河群を形成し、これらはさらに直径が5億2000万光年のラニアケア超銀河団を形成している、という具合に入れ子構造となっているのだ。

 「2章 見えない物質「ダークマター」が支配する宇宙」では、今や多くの人々が知っているダークマター(暗黒物質)についての話である。この宇宙全体で我々が知っている物質はわずか15.5%で、残り84.5%はその実態が現在不明のダークマターからなっている。そもそもダークマターの存在に気付いた最初の人は、明治31年生まれのスイスのツヴィッキーであったというから随分と前からダークマターの存在は分かっていたが、誰もこのことに関心を示さなかったのだ。ようやく1970年代になって米国のルービンがアンドロメダ銀河が外側を回る恒星も、内側を回る恒星もその速度が一定であるということを突き止め、ダークマターの存在が確実視されるに至った。そして現在、日本をはじめ世界各国の研究機関がダークマター探しの一番乗りを目指して、凌ぎを削っている最中なのである。

 「3章 『ダークエネルギー』が宇宙の将来を決める!」では、アインシュタイン方程式から説き起こされる。アインシュタイン方程式は、一般相対性理論の中に含まれているものであるが、これは宇宙の巨大な重力が宇宙そのものを潰してしまうというふうにも読み解ける。アインシュタインは、宇宙は未来永劫変わらないとする「定常宇宙説」論者であったため、アインシュタイン方程式に宇宙定数を含んだ宇宙項(反発力=膨張力)を新たに加えたが、後になって「生涯最大の過ち」として取り下げてしまう。ところが1922年にフリードマンがアインシュタイン方程式から膨張宇宙の解を見つけ出す。同じ頃、ハッブルが天体観測により「宇宙が膨張している」ことを発見する。現在では、宇宙は未知のダークエネルギーによって加速膨張していると結論付けられており、いま改めてアインシュタインの宇宙項(加速膨張)が再浮上してきているのだ。宇宙の構成の割合(エネルギー換算値)はどうなっているのかと言えば、ダークエネルギー68.3%、ダークマター26.8%、普通の物質(バリオン)4.9%という。何と我々はこれまで宇宙の物質の4.9%しか発見してこなかったのだ。宇宙の約70%を占めるこのダークエネルギーには大きな謎があるという。それは、素粒子の理論計算で「ダークエネルギーの存在すべき量」とされる量に比べると、実際に観測されたダークエネルギーの量は14桁以上も小さいという。果たして、この謎はいつ解き明かされるのであろうか。

 「4章 宇宙創生からインフレーション膨張の宇宙へ」では、無の世界から宇宙がいかにして誕生したのか?という哲学ふうのテーマに入って行く。結論から先に言えば、「宇宙はいわば、ポコッと『ちいさな宇宙』が生まれ、大体10マイナス36乗秒後、インフレーション膨張という時期に移る。そこはエネルギーが支配し、時間と空間だけがある世界だった」。ホーキングとペンローズは、「無限界仮説」を発表し、「宇宙は1点(大きさが無)から始まったのではなく、初めから『ある大きさ』をもった『球』のようなものから始まった」という仮説を唱えた。泡が目の前にポコッと現れる直前までは「虚数時間」が流れていて、「実時間」になった瞬間、宇宙は有限の大きさで生まれ、そこから膨張した、と彼らは主張する。そして、その後、インフレーション膨張が始まり、続いて我々にもお馴染みのビックバン膨張が起きる。このインフレーション膨張は、1981年日本の佐藤勝彦が「指数関数的膨張」、同年米国のアラン・グースが「インフレーション膨張」と名付けてそれぞれ発表している。ビッグバンの前に何故インフレーション膨張が必要なのか。それは、インフレーション膨張があれば①地平線問題②宇宙に端はあるのか?③銀河の種はどのようにしてうまれたか?④モノポール、などの疑問に答えることが可能になるからだ。それでは、本当にインフレーション膨張があったかどうかはどうやって調べるのか。重力波の下で宇宙背景放射(CMB)の赤方偏移が影響を受け、渦巻きのような偏光パターンが現れることがるが、これを観測することによってインフレーション膨張の存在が確かめられる。今各国が競ってこの観測を行っている。インフレーション膨張が確認できればノーベル賞ものと言われている。

 「5章ビッグバンで元素が生まれた」では、インフレーションの後にビッグバンが起き、超高温・超高密度の“火の玉宇宙”が始まるところからスタート。インフレーションの膨張は1秒も経過せずに終わったのに対し、ビッグバンは38万年間宇宙を高温・高圧の状態にさらした。その後、現在に続く138億年間も物質のエネルギーが支配するビッグバン宇宙が出現する。高温・高圧の状態の38万年間の根拠は何かというと、「38万年経つと陽子が電子を捕まえ始めるから」がその答え。温度も下がってきて、3000度くらいとなる。光子は電子と衝突せずに直進でき、このことを“宇宙の晴れ上がり”という。そして、宇宙の温度が下がるにつれ、陽子と中性子を材料にして様々な元素が生れてくる。これを元素合成といい、宇宙が始まってから、約3分~16、17分ぐらいまでの時期に宇宙全体で起こってくる。この時につくられた元素は、原子番号が4番までの水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウム。ところで物質(陽子、中性子、電子、クォークなど)には反物質が存在していたと考えられているが、物質と反物質とがぶつかりあうと互いに消滅しまう。このことを対消滅というが、現在では物質のみが残っているという謎が残っている。原子番号が4番までの水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウム以外の元素はどこでつくられたかというと、恒星の中である。高密度の恒星内の環境であれば、炭素などがつくられる。炭素が豊富につくられると、それをもとにして、窒素、酸素、マグネシュウム、ケイ素、イオウ、カルシュウム、そして鉄などがつくられる。また、超新星爆発、あるいはそれでつくられた中性子星の連星が合体したとき、元素合成が起き、金、白金、ウランのような超重量級の元素ができる。タンパク質の主成分は炭素であことから、言わば我々は「星の子」そのものの存在と言えるという。

 「6章 物質から『素粒子の世界』へ」では、物質の究極単位とも言うべき素粒子(それ以上分割できない粒子)とは何かから始まる。要するに量子理論の話である。電子はそれ自体素粒子であるが、原子核をつくる陽子や中性子は2種類(アップクォーク<u>とダウンクォーク<d>)のクォークからつくられており、陽子=u+u+d、中性子=u+d+dと、ともに3個のクォークからなる。また、それまでとはまったく異なる超高熱の世界に変わった時のようなことを相転移と呼ぶが、そのたびに物質の姿も変化してきた。宇宙はこれまで、少なくとも4回の相転移の時期があった。第1の相転移で重力が分岐、第2の相転移で強い力が分岐、第3の相転移で電磁力と弱い力が分岐、そして第4の相転移で陽子、中性子、π中間子など、ハドロンと呼ばれている複合粒子が生まれる。クォーク2個でできた複合粒子をメソン、クォーク3個でできた複合粒子をバリオン、メソンとバリオンの両方を総称してハドロンと呼んでいる。また、電子やニュートリノはレプトンと呼んでいる。さらに強い力、電磁力、弱い力はゲージ粒子と呼ぶ。現在、標準モデルの素粒子は17種類があるが、最後に発見されたのがヒッグス粒子(他の素粒子の重さを決める粒子)なのである。そして現在、世界の素粒子物理学者が発見に血道をあげているのが超対称性粒子である。これは標準モデルの17種類の素粒子にはパートナーが存在するという仮説。超対称性理論は、①ヒッグス質量の計算における発散を相殺できる②大統一理論の完成の2点で注目を集めており、その発見が待たれる。

 「7章 『超弦理論』が宇宙の謎を解き明かす」では、弦(ひも)が一つ(3タイプ、5モデル)だけあれば、17種類もある素粒子を一つの弦の振動数の違いにより説明できるという魅力的な超弦理論の紹介。弦理論は1970年ころに南部陽一郎などが提案したもので、その後の1975年ころに超弦理論として再登場した。弦理論に「超」の文字を付けたのは、超対称性を持つ弦理論という意味が付け加わったもの。超弦理論における弦は0次元ではないため、発散しないという魅力的なメリットがあるが、確認された理論ではなく、これはあくまで仮説なのである。この超弦理論の特徴の一つは、空間を4次元で止めるのではなく、空間を9次元(時間軸の1次元を加えれば10次元)まで持っていくことが挙げられる。9+1次元まで持っていけば美しい超対称性の世界が合理的に説明できるとする。要するに超弦理論を使うことによって宇宙を無理なく説明できるのである。超弦理論を現在の宇宙に適用すると、相対性理論と標準モデルの両方を包含することができるのである。現在では5モデルからなる超弦理論は、11次元とすることにより1モデルに統一できるM理論も提唱されている。さらに次元の考え方を押し進めると、膜宇宙(ブレーン・ワールド)という概念が登場してくる。これは、我々の宇宙は10次元か、あるいは11次元(M理論)の高次元の宇宙に浮かぶ4次元の膜にすぎないとする理論。超弦理論で説明する宇宙の将来はどうなるかというと、宇宙そのものは残るが、物質は消えてしまう。おそらく、宇宙はその後も加速膨張を続け、電子、陽電子、ニュートリノ、光子だけが、果てしなく宇宙を飛び回っていることになるという。(勝 未来) 

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